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魔物から助けた弟子が美女剣士になって帰って来た話  作者: 古河新後
遺跡編 第二幕 殿の兵士

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第57話 お昼にお茶をしましょう

 遺跡都市に朝日が昇る。

 眠るローハンの容態を診つつ安定している様子を確認するとゼウスはテントから出た。

 んー、と伸びをすると、ちゅんちゅん、と飛んでくる小鳥が彼女の肩に着地する。


「おはよう、世界」


 そう告げると風が吹き抜ける。その早朝風に乗って小鳥は朝日へ羽ばたいて行った。

 各々で起き始める『星の探索者』のクランメンバーは既に殆どが活動を始めている。






主様(マイマスター)。ご尊顔を拝見させて頂き……このスメラギ、本日も乾坤一擲まで仕える所存ですぞ!」

「スメラギは大袈裟ね。貴方が今日の朝食係かしら?」

「はいっ! 全身全霊を込めて完璧な栄養バランスの朝食をご用意中です!」


 エプロンを着けた覆面の忍者――スメラギはスープを作っていた。少し掬って小皿によそい、味を確認。少し薄いか……と調味料を足す。


「良い匂いね」

「むっ! サリア殿か」

「おはよう、サリア」


 腰のホルスターに拳銃を常備している『エルフ』のサリアは朝食の席にやっていた。


「おはよ。今日の当番はスメラギね」

「ふっ……何も案ずるな。このスメラギ、主様にうむも言わせぬ完璧なスープをこしらえている!」

「楽しみねー」

「食べられればなんでも良いわよ」


 そう言いつつもスメラギの料理スキルはクラン内でもゼウスに次ぐ。サリアは楽しみにしていた。


「他の子達は?」

「カイルとクロエは稽古しておりましたな」

「ボルックは一晩中、持ち帰ったボティを精査してるみたいね。ずっとテント光ってた」


 夜中に水を飲もうと起きたサリアは、ボルックのテントの明かりが消えなかった事を覚えていた。


「おはようございます」


 そこへ、レイモンドが欠伸をしながら挨拶に現れる。

 三人は、おはよ~、と挨拶を返した。


「あらあらレイモンド。昨日、貴方達は大変だったんだから、まだ寝てても良いのよ?」

「僕の場合は習慣みたいなモノでして。辛いときは昼寝をします」

「その時は言って。新しいリラックスベッドを作ったの。まだ試作段階だけれど、完成したら皆の睡眠効果が60%上がるハズよ」

「前は水の柔軟さを寝具にしたら安眠できるとか考えて水面ベッドを作ったわよね?」


 サリアは嫌な事を思い出す様に眉をしかめる。

 リラックスベッドは今回が第二弾である。第一弾は敷物を水にして魔法で形を留めたベッドだった。


「あれ、僕死にかけましたけど……」


 使用者の魔力を使って水面に浮力するように眠る。水の柔軟性で身体にフィットし、更に温水と冷水を使うことで季節に限らずより良い寝心地を体現した。しかし、使用者の魔力が途切れると、途端に中へ沈む危険性が出たのである。

 クラン会議の末、リラックスベッド第一弾は破棄となった。


「アレは新手の罠よ、罠。擬態箱(ミミック)と同じ類いのヤツ」

「今度のは大丈夫よ。前に睡眠高原で『メルシープ』の毛を刈る依頼をやったでしょ? アレを素材に使ってるから」

「げっ! アレ貰ってたの?」


 『メルシープ』とは、特級危険地帯である【睡眠高原】に唯一生息する危険な羊の魔物だった。

 『メルシープ』事態は穏やかな性格で草食であり攻撃力は皆無な、ひ弱な魔物なのだが、問題はその体毛から発生する眠気を誘発する魔力にあった。

 『メルシープ』を捕まえようとした時にその体毛に触れると、たちまち眠りに落ちる。しかも、『メルシープ』が側にいる限り目覚める事はなく“死眠”と呼ばれる異常状態になるのだ。こうなったら個人ではどうしようもなく、下手に助けに行くと巻き込まれる。

 そんな『メルシープ』が徘徊する高原は【睡眠高原】と呼ばれ、永眠したい自殺志願者の名所となっていた。


「大丈夫よ。(わたくし)の魔力できちんと加工してあるから。今回は期待して良いわ」

「ならば、主様。このスメラギが! その任を承りまする!」


 カッ! と眼を見開くスメラギは使命を宿す眼で宣言した。


「本当? 助かるわ」

「なんの。このスメラギ、主様の命ならば火の中、水の中」

「リラックスベッド第一弾じゃ、あんた水の中に沈んだけどね」


 よくやるわよ、とスメラギの忠誠心にサリアは呆れ、レイモンドは、ハハハ……と苦笑する。


「あー、腹減ったー」

「良い匂いね」

『栄養価の高い水質を検知』


 稽古を終えたカイルとクロエに、皆が起きて集まっている事を察したボルックがやってくる。


「おはよう、三人とも」

「おはよ!」

「おはよう、皆」

『おはようごさいます』


 ゼウスの挨拶に三人も返すと、適度に話ながら用意された席に座った。


「あれ? おっさんは?」(カイル)

「ローはまだ無理ね。痛い痛い言ってたら、『メルシープ』の毛布をかけてあげたわ」(ゼウス)

「それ、永眠しませんか?」(レイモンド)

「【オールデットワン】だっけ? あれってそんなに反動キツイの?」(サリア)

「ローハンの話では、受けたダメージを蓄積しつつ再生するらしいわ。例え首が落ちても」(クロエ)

「摩訶不思議。主様が気にかける理由も頷ける」(スメラギ)

『強力な術ほどそれなりにリスクが伴うモノだ。それでも、ローハンは制御している様に見えたが』(ボルック)


 話題は昨日見た、ローハンの【オールデットワン】について話が上がる。ゼウスとローハンしか知らない事柄に対して他全員が気にかけていた。


「今日の昼間はその事を皆に話すわ。長い話しになるから休憩を取りながらね」


 それはまだクランが出来る前の話。メンバーはとても重要な事だと察した。


「――――」


 その時、クランテントを護るように囲う結界に反応があった。

 雷魔法『広域探知』。それを周囲には特殊な機器で常に発動しており、特定の範囲に異物が入るとクランメンバー全員に静電気が走り、知らせる様になっている。ボルックが居ればより詳細に解った。


『侵入者。一人だ』


 ボルックが、ピピ、とマーカーが受信した情報を的確に場に伝える。


「あたしが見てくるわ」

『ワタシも行こう』


 サリアは立ち上がって銃の安全装置を外し、ボルックは侵入者がこちらへ歩いてくる様子を検知し続ける。


「サリア、ボルック。その必要はないわ。敵じゃないもの」


 しかし、ゼウスは誰が来たのか全て見ているように二人を制した。


「失礼します」


 テントに足を運んできたのは『ギルス』の紋章が入った鎧と腰布を持つ騎士――レクスだった。

 彼はローハンによって容易く戦闘不能にさせられたが、本来は遺跡都市でも10人に入る実力者である。敵対心が無い事を示すためか、剣は帯びていない。


「『ギリス王国第五騎士中隊』遊撃分隊隊長のレクスと申します。『星の探索者』の皆様、早朝よりお騒がせして申し訳ありません」

「気にしないでレクス少佐。丁度良いわ、貴方も食べていく? スメラギのスープは絶品よ?」


 マスターってすぐ食卓に囲おうとするよなぁー、とクランメンバーは【魔王】でさえも食卓へ声をかけるゼウスの様子にはもう慣れっこだった。


「ご厚意は承ります。しかし、今回はこちらの要望を通して戴きたく来訪させてもらいました」

「要望?」


 首をかしげるゼウスにレクスは近づくと、休めの姿勢で場に宣言した。


「ジャンヌ大佐より、【千年公】との会談を望むとのことです。都合はそちらに合わせると――」

「いいわよ。お昼にお茶をしましょう、ってジャンヌ大佐に伝えて」


 特に考えもせず、ゼウスは即答した。

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