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外伝1-5 ネタバラシと遺憾な過去

※この話は本編と少し路線がずれたお話――番外編となります。この番外編では本編とは違い、ソラを視点とした一人称で書かれています。

※現在、夢の中のイリスにはソラの魂が入っています。


――謎の催眠魔導師アルミルからの試練。それはある三人の胸を生でタッチすることだった――

 俺は、物音一つ立てずに布団を出た。そして、俺の体(ソラ)はすぐ隣で無様に寝ている。この布団の配置は正解だったようだ。

 そっと俺の体(ソラ)の上を被さっている布団を(めく)る。と、そこには信じられない光景が待っていた。いや――チャンスと言うべきか。俺の体(ソラ)は生で触ってくれと言わんばかりの格好をしていた。


 ――そう。半裸だ。


 勿論だが、下半身はしっかりズボンは履いているようだ。それと対照的に上半身は全く着ておらず、すぐ手を伸ばせば触れてしまう領域だ。こんなことがあっていいのか。ああ、神様。ありがとうございます。

 では、早速失礼して――。


 俺は、その無警戒に過ぎる胸元にそっと手を運んだ。そっと、そっとだ。よし、残り1メートル、50センチ……。

 

 ――来た。


 男の胸元への拓き道だ。


 ――と、その時だった。物事はそう上手くはいかいない。これが世の中の不条理である。


「やっと、餌にかかったなイリス!」

「何っ……!?」


 突然大声を発したのは俺の体(ソラ)だった。俺の体(ソラ)は俺の右手を鷲掴みにして、引っ張った。俺の視界は天地が返ったように回転した。――と、俺の体(ソラ)は俺に覆いかぶさるように四つん這いになる。


「やはり、俺の上裸に吸い寄せられたようだな……」


 いやいやいやいやいやいや違うから!

 思わず突っ込みたくなる。恐らく、今の俺は紛れもないイリスであって――まあ、そういうことだ。俺の体(ソラ)はイリスが裸好きだという誤解をしているらしい。いや、俺はそんなこと思ってないが……。さあ、どうする俺。

 ――と、俺の体(ソラ)が俺、いや、イリスが着ている浴衣をばっと脱がしやがった。そこには、禁断の美少女の半裸が待っている。――触ろうとしているのか? でも、何故俺の体(ソラ)がそうする必要がある?


「お願い! 戻らせて!」


 ん? 俺の口調――じゃない? 何言ってんだこいつ。戻らせて――だと。

 いや、そんなことより戻らせてほしいのはこっちだ畜生!


 ――俺は実戦の感覚を忘れていない。例え夢の中であっても。


 俺は迫り来る右腕に対抗し、自分の右腕でそれを払い()けた。信じられない程に俺の体(ソラ)の右腕は弾き返される。


「――っ!?」


 力任せではない――相手の僅かな呼吸、鼓動、神経の動きを察知する超感覚。そして、一瞬の(まばた)きの間の時間を行使する居合斬(抜刀襲神影)の応用だ。

 俺の体(ソラ)は一瞬の出来事に驚愕しているようだ。


「もらったぞ!」


 俺の手のひらは、ぴたりと俺の体(ソラ)の胸元に密着した。

 

 これで、三人の胸の生タッチは成功したはずだ。これでいいんだよな。目覚めるんだよな。現実に戻れるんだよな――。しかし、反応はない。

 と、俺が瞬きをした瞬間、視界が見る世界が変わった。その背景は先程と変わらない薄暗い和室の空間だ。よく見ると目を下に向けるとそこにはイリスがいた。じゃあ、今俺がいるのは――。


「何事なんですか……ってあれ? 自分の姿に戻ってますね……?」

「アイリスさん?」

 

 どういうことだ。目覚めたアイリスさんがさっきとはまるで別人――いや、本物?


「騒がしいけど何の音なの?」


 ミリィちゃん――はさっきと変わらないのか。でも、夢から目覚めたわけではないようだった。


「えっ、私になってる!」


 びっくりした。イリスが急に叫んだ。

 待てよ。どういうことだ。



「お疲れお疲れー! いやあ! 面白いものを見せてもらったなあ! 青春って感じだねキミたち! うんうん……実にいいよ!」



 ――この声。淫乱ドスケベ催眠術師の美少女アレミルか!?

 目の先には足が透明化している半透明の少女がいた。アレミルはどこか心嬉しそうな満足面を見せながら微かに笑っている。



「どうなって……いるんだよ……」

「あはは、実はこの夢にいる人間って――全員本物(リアル)なの!」


 エエエエエエエエエエエエエエェェェェェェェェェェェェェ!?


「頭が混乱し過ぎて……。じゃあ、そこに立っているソラって……」

「てことは、イリスも……?」


 どうなっているんだ? 現実なのか夢なのか本当に分からなくなってきた。

 俺の頭の中には、いくつもの不確かな情報が錯乱していた。 


「ウチの魔導は催眠術なんかじゃないのよ。本当の能力はね――〝夢共有(ドリーマーコネクタ)″。自由自在な夢操作と人間の見ている夢を一つのものに統合し、接続できるの! それでもまあ、外見と魂は入れ替えてたんだけどね? ミリィっていう女の子以外ね!」

「ん? ミリィ?」


 ミリィちゃんだけが外形と魂が入れ替わっていないのか。では、俺の体に入っていたのは?


「ソラの体には私が入っていましたよ……」

「アイリスさんが!?」


 アイリスが俺の心を呼んでいたかのように言葉を添える。

 

(じゃあ、私の体に入っていたのはソラ……!?)


 イリスがとんでもない事実に気付くと、両手を前に組みながら頬を微かに赤く染めていた。

 と、するとアイリスの体に入っていたのは必然的にイリスということになる。ああ、だからあの時――。

 俺は脱衣所でのことを思い出した。今思えばあの反応はイリスの反応だった。

 ああ、現実に戻ったらイリスに怒られるだろうな。


「改めまして皆さん! 本日は多大なる迷惑をおかけしましたあ! ほんっとごめんなさい! でもこれで安心できたな! ありがとう!」



 ――少女アレミルは突然の言葉を言い残していったと共に消えていった。


 


 

  *





 ――同時に俺たちも気付くと夢世界からは離れていたことに気付く。



 俺は王都イーディスエリーの噴水前のベンチに座っていた。周りを見渡し、アレミルがいないことを確認すると一つ、深呼吸する。頬を軽く手のひらで二回叩き《クレア学院》に向かう。

 後日《クレア学院》の図書館で調べてみたところ、アレミルという催眠術師は元虚無の棺桶(ボイド・コフィン)の一員で、王都全焼事件の計画に反抗し、ロイドに虐殺されたと記録が残っていた。それは十年前の話だ。

 彼女が見たかったものは、残酷な最期への惜しみだったのだろうか。その上で、満足した人々の青春を再び見たかったのだろう。


 そんな無念さを胸に今日もハーレムな英雄活動をしようと思う。

外伝を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

次回から第四章に突入します。3章までとは一味違う新感覚な物語をお楽しみください。

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