外伝1-4 残党狩り、卑猥への道
※この話は本編と少し路線がずれたお話――番外編となります。この番外編では本編とは違い、ソラを視点とした一人称で書かれています。
※現在、夢の中のイリスにはソラの魂が入っています。
――謎の催眠魔導師アルミルからの試練。それはある三人の胸を生でタッチすることだった――
実に卑猥だった。俺は、女性の胸を女性の姿に成りすまして揉んだと変わらないことをした。しかしこれは夢であって、犯罪ではない。むしろ、やらなければいけない義務だったのだと――そう思うしかなかった。現実に戻ったら何となく皆に謝りたい気分だ。あのアレミルとかいう淫乱美少女――ここまでの現実性に欠けていない再現力。何者なんだ一体。
でもこれで、一人の胸は触ったぞ。生で。いや、生を強調するな俺。ってことは残るはミリィちゃんと、俺の体か。ミリィちゃんには申し訳ないし、俺の体の胸をイリスの姿で生で触るのはなんか気持ち悪い。複雑な気持ちだ。
「何やってるの……?」
「…………」
やらかした。ここにはミリィちゃんがいたのか。変な姿をお見せした。
「ミリィちゃ――ああいや、ミリィ……なんか……ごめん……」
「う、ううん! いいっていいって! 姉妹なんだからそういうことあるよね! うん!」
分かるぞ、完全に動揺している。でも、夢だ。そう夢なんだ。これも、早く現実に戻るためだ。我慢しろ。この場を乗り切るんだ。
「ああ! とりあえず温泉入ろう温泉。肌にもいいし……ね……」
「そうだねイリスっち! ほら、アイリスっちも早くー!」
アイリスの顔は未だに赤く染まっていた。どこか遠くを見ながら棒立ちしている。と見える。
今、俺の目の前には裸ではしゃぐミリィちゃんがいる――とんでもない、もう死んでしまいたいくらい申し訳ない。罪悪感の塊が徐々に大きくなっていった。
ミリィちゃんに手を引かれ、俺は脱衣所の向こうの楽園の扉を目の前にしていた。ミリィが先陣を切って扉を開く。その刹那、脱衣所に湯気が一斉に入ってくる。ああ、温泉だ。夢なのに俺が元居た世界のことを懐かしく思い出す。
「イリスっち! すごいよあったかーい!」
と、ミリィは温泉に浸かる前に体を綺麗にするという常識を無視し、無邪気に温泉に飛び込んだ。何をやっているんだ。
「ミリィ! 温泉に入る前は体を洗うのよ!」
イリスも毎日こんな気持ちなのかな。まあ、そういうミリィちゃんマジ可愛いんだけど!
「そうなの……? ごめんってイリスっち。そういうの知らなくてさ……」
「いや、いいのよ。ほら、私が代わりに体洗ってあげるから来て!」
これでも、ミリィちゃんって俺やイリスと年齢は変わらないんよな。子供っぽいところもあるし、エロいところもあるし、子供なのか大人なのか分からない。まあ、不思議系女子高生ってところか。
だがこれは、ミリィちゃんの体を洗っている最中にミリィちゃんのおっぱ――胸に触れる――あ、いや、触るチャンスだ。これを逃したらもう……。まず、生で触るってところが条件厳しいんだよな。
「んじゃあ、イリスっち洗ってくれるなら、ミリィもイリスっちのカラダ洗うよ」
「うん――先にミリィの体洗うからここに座って」
俺は焦る気持ち交じりに、ミリィちゃんに洗面台前の椅子に座るように指示した。ミリィは何の疑いもなく、座った。夢の中だからなのか、ミリィちゃんは何かいつもと違ってテンションが高い気がする。いや、気のせいか。
ここは、女の子流のノリってやつでいきなり胸に迫るべきか――。仮に今それを実行しても、現実世界では絶対にしたくないな。
今のミリィちゃんは脇ががら空き――いや、胸ががら空きだ。今しかない。今を逃せばチャンスは来ない。もうやるしか……!
「えい!」
と、何か声が出てしまったが、ミリィの胸を鷲掴みにしてしまった。
「きゃあ! イリスっち……!?」
さすがのミリィも驚くか。リアクションの程は現実とあまり変わりはない。
――よおし! ミッション三分の二クリアだ!
俺の心はほんの一瞬天国へ行った気分になる。が、しかし、残す試練は自分の胸を触るという何という複雑な試練だと突っ込みたくなる程だ。俺の中でいくつかの突破ルートが描かれる。
「あっ、ごめんミリィ! つい……」
余計怪しまれそうだが、謝っておくことには非はないだろう。しかし、さすがはミリィちゃんだ。何も動じていない。ミリィちゃんの胸はとても貴重なほど形がいい。どれだけ探してもこれ以上の絶品はないだろう。って、何考えてるんだろう俺。――俺はあれだ。恋人の胸を尊重すべきだろ!?
俺は下を向き、そっとイリスの胸を見る。――なんだろう、なんか残念な気持ちに……。いや、これは個性だ。イリスの胸は大きさじゃないんだ。そうだよな?
「イリスっちがそんなことしてくるなんて珍しいねー?」
「えっとその……。まあ、気にしないでね!」
「まさかー。嫉妬してるとか?」
「…………」
俺がイリスだったらこれは間違いなくキレる。恋人のために怒りたい――けど、同年齢とはいえ、ミリィちゃんはなんかこう……違う気がする。だって、こんなに可愛い顔して怒るなんてできるか。
「えへへ、ウソウソ! そんなこと思ってないよん!」
なんだこの複雑な気持ちは。何回複雑な気持ちを味わえばいい。
「だって、イリスっちの胸ってさ……。人を包み込むような――そんな抱擁感が伝わってくるんだよね。人思いってのはみんな知ってるんだよ。まっ、イリスっちは隠しているようだけどね!」
「ミリィちゃん……」
「え? ちゃん!?」
「ああ、いや、忘れてくれ――じゃなくて、忘れて?」
「……うん」
ミリィはこくりと頷く。
つい、素が出てしまった。ミリィちゃん、そんなこと言うんだ。何か、普段何も考えないで前を向いている真っすぐな人が、相手のことをこんなに見ていると不思議な気分になるな。
この後、アイリスも会話に参戦し、胸の話で盛り上がった。温泉にはしっかり浸かった。――のぼせた。
*
俺とアイリスさん、ミリィちゃん、と、俺の体は一つの部屋で夜を共にすることになっている。
アイリスさんは、部屋の電気を消し、消灯。
「私、夜起こされると命刈り取りますから気をつけてくださいね」
と、彼女は軽々しく呟く。何、あっさり怖いこと言っちゃってるの!?
まあ、夢なんだから俺が大人しくしていればそれで済む話だ。変にミリィちゃんはその辺は分かってると思ってるし騒がないと思うし、それに、俺の体も変に騒ぐことはまずないな。アイリスさんの恐怖なんて俺が一番わかっている(つもり)だ。
――皆が目を瞑ってから三時間が経つ。
俺がおとなしくしているとでも思ったか!
そう、一番今、騒ごうとしているのは紛れもない――俺だ。
俺が今、俺の体を夜這いすればすぐに夢から覚める。このチャンスを逃せるか! 今の俺はイリスそのものだ。俺の体への誘惑ならいくらでも効くはずだ。
そう、一番アイリスさんの恐怖を理解していないのは――俺だ。




