外伝1-3 脱衣所のアイリス
※この話は本編と少し路線がずれたお話――番外編となります。この番外編では本編とは違い、ソラを視点とした一人称で書かれています。
※現在、夢の中のイリスにはソラの魂が入っています。
――謎の催眠魔導師アルミルからの試練。それはある三人の胸を生でタッチすることだった――
「ごっ、ごめんなさいイリス。つい……」
「い、いや、いいのよ……。そういう時だってあるわよ……」
アイリスさんがイリスの胸を触ろうとした時、アイリスさんに強制感が感じられることについては俺はあえて触れなかった。俺がイリスの体を装いながらアイリスさんに浴衣の着方を教えている頃、俺は相手の胸を生で触ることを忘れていた。
――だがそれは夢から出るための手段の一歩に過ぎない。
――アイリスだけでなく、他の二人の胸を触るということなのだから。
――先が思いやられるぜ。
*
「あっそうそう、もうすぐ二人が来ますよ」
時は夜。
アイリスさんと俺は二人で何気ない会話をしていた。アレミルの淫乱娘が勝手に作っている夢なのに、本当のアイリスさんと話している気分だった。
夜は深い。時計の短針が十を指した瞬間、襖が勢いよく開いた。
「イリスっちじゃーん! なーんだこんなところに居たんだねえ!」
「おっ、ミリィちゃ――じゃなくて、ミリィ……」
あっぶねぇぇぇぇ。ミリィのことを『ミリィちゃん』だなんて呼んだら怪しまれるじゃないか。落ち着け俺。今の俺はイリスだ。そう、あの超絶可愛いけど、貧乳でたまに暴力的なあのイリスだ。
と、ミリィは俺の肩に両手を置いて、
「可愛いねその浴衣! 似合ってるよぉ!」
「――あ、ありがとう!」
礼を言っておく。俺は男だから女の子のノリははっきり言って分からない。けど、褒めてもらったからには礼くらい言うのは常識だ。――可愛い……ねぇ……。可愛いとかそんなに言われないし、てかまず可愛いとかさっきあの淫乱少女に言われたばかりだ。
「ミリィも似合ってますよ」
アイリスもミリィの浴衣姿を補足するように褒めた。
「ありがとん。アイリスっち!」
「…………」
会話に入っていけない。元々、異世界に来る前はこういう女の子との会話とか一年に数回とかだったしな。とは言ってもこれは女の子同士の会話なんだっけ。女の子の言う可愛いって分からない。まあ、俺にとっては初経験なのか。
それに、胸を生タッチする相手はこれでアイリスさんとミリィちゃんは決定。待てよ、まだ襖の向こうに気配が? でも、俺にまだ女の子の知り合いなんていたか? レイフェル王女とかメイドさんのレイナさんとか? いや、夢に限ってでもそれはないはず――。
「皆明日のことなんだけどー……」
――この声。
その瞬間、俺は絶句した。それと同時にあることを思い出す。
――アレミルは、女の子の胸を触れとは一切言っていない。
そう、男といえど胸はある。そして、大事なことを忘れていたのである。
刹那、ある一つの人影が見えた。栗色の髪と澄んだ瞳、そして溢れだす変態オーラ。間違いなく俺の体そのものだった。
「俺……!」
「え?」
「イリスっち何を――」
まずい。あまりにも驚きすぎて俺が俺を呼んでしまったァァァァァァァァァァ!
「ああ、いや、気にしないでくれ――あ、くれなくていいわ……。ちょっと、言ってみたかっただけなのよ……」
「そ、そうですか――」
「まあ、そういうこともあるよね! ミリィも自分のこと俺とか言ってみたいし!」
そんなことより何故俺が自分の胸をイリスの手で触らなければならない。俺は、女の子の胸を生タッチするより、自分の体の胸を生タッチするほうがよっぽど嫌だった。
*
夕飯は終わった。――楽しすぎた。
本当に完成度の高い夢だ。そして、今、俺は禁断の場。――女子用の脱衣所にいる。
俺にとって脱衣所とは神様の楽園だ。まさか、一生のうちに入ることになるとは――。待て俺、これは夢だ。舞い上がるな。心を無にしろ――。
俺の興奮の暴走は止まらない。生タッチの試練なんてどうでもいいくらいに。
ダメだ。イーディスの英雄がこれでは異世界の名が汚れる。紳士になれ俺!
その脱衣所にはイリス(の体と俺の魂)、ミリィ、アイリスの三人だ。既に十二時前ということもあり、一般客が見当たらない。無論、ソラの体は男子用の更衣室にいる。
「イリス? どうかしましたか……?」
俺の手は止まっていた。浴衣を脱ぐ直前だが、少しでも俺が視線を逸らすとそこには裸のアイリスさんと、ミリィちゃん。見ていいのか。見てしまっていいのか。ここは、夢の中だ。そんな偽造された二人の体を見るなんてずるい気が――。何者かに喉仏を潰されるような罪悪感だ。
「ううん……。何でもない……」
腹を括ろう。夢からいち早くでる他の方法を探した所で何もできることはない。今できることをやるだけだ。俺はすぐ後ろを振り向いた。何も考えず、真っすぐに――。
アイリスさんの体は流石だった。美貌な容姿をしていると分かっていた俺でもそれ以上に驚かされる。
――けど。
「ごめん。アイリスさん――」
俺は呟く。
「さん……? イリスがそんな呼び方するなんて初めて――」
アイリスさんが言い終わる前には俺の手はアイリスさんの豊満な胸だった。柔らかくて生温かい。
「ひゃっ……!」
俺はアイリスさんの美しき姿と感触に圧倒され、我を失った。場と状況を忘れながらもただ一心にアイリスさんの胸に指を沈み込ませては、また押し返されて――。俺はアイリスさんの体をロッカーに押し付け、彼女の股の舌に自分の左足を忍ばせている。
「んん……。んあっ……! ああん……! イリ……ス……! こういうのは……!」
――と、俺はアイリスさんから手と体を離す。
「ごめん! アイリスさ――アイリス!」
アイリスは耳と頬を赤く染め、両腕で胸を隠し、手を股に近づけながらもじもじしていた。
「別に……いいですけど――。……悪くなかったですし」
――やってしまったァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!
俺は自分が犯した愚行に今更気付いた。もう遅い。




