第10話 漆黒と閃光の激突
――王都イーディスエリー噴水広場。
ソラの紅血の剣とデリエラの剣が激しくぶつかり合い、火花が散る。
剣と剣の衝突に王都の人々は集まってくる。住民、店主、犬、猫、魔導協会からのスパイ……。どっちにしろ騒ぎが止められる前にこの戦いを終わらせたい。
「一ついいか……。お前らが王都の森をあんな目に遭わせたのはなぜだ」
ソラは剣の先をデリエラに向けた。灼熱の太陽の光が漆黒の剣に反射して金髪のその男を明るく照らす。
「……あの森は魔力の宝庫だ。ガンダスの野郎が魔力回収しようとしたら爆発しちまったんだよバカ」
「なんだと? そうか、なら……」
「なら? なんだ」
ソラが口を開いた瞬間だった。いつの間にデリエラはソラの背後に回っていた。
(――いつから!?)
ソラはとっさに剣を振り、デリエラの剣を受け止めた。ソラは後ろに飛ぶと……。
デリエラはそれを追うようにしてソラの体を剣で貫こうとする。
「おらよっ!」
(速い……! こいつ前出会ったときと別人じゃねえか!)
デリエラは光の速度でソラに迫る。足を踏み込んだ時から一瞬消え、ソラの前にまた現れる。
「くたばれよ。神薙ソラ……!」
デリエラの剣は眩しく光り、ソラの剣を高速で突く。しかし、デリエラの剣はソラに届かない。
(こいつ上手くガードしてやがるな……。1秒間に100回は剣を振っている。なのに何故だ!)
「オラァ!」
デリエラは自分の足でソラの剣を強く蹴りとばした。
ソラは勢いよく後ろに飛ばされた。
「ああぁぁっっ!」
ソラは住民街の家に衝突して、家一軒を全壊させてしまう。……それほど強い蹴りだったのだ。
ソラの頭から流血しているが、そんなものは関係ない。
――今倒すべき相手はデリエラただ一人。
(前のときこんなに速かったか……? いや、違う。前が遅かった!? これがあいつの本当の全力なのか)
デリエラはゆっくりソラに向かって歩いてくる。足音を殺して。
――が、一瞬にしてデリエラは消えた。
「何っ!」
ソラは自分の頭上から空気の流れを感じた。
(上か!!!)
「死ねごらァァァ!」
デリエラは剣を下に向けて落ちてきた。ソラは必死に回避した。あまりにも突然で、ソラは地面に転がる。デリエラが勢いよく着地すると剣は地面に思い切り突き刺さり、少々の砂煙が舞う。
――ソラは回転の勢いを利用して立ち上がるが、自分の肩から血が噴き出しているのに気付いた。
(いつ刺された!?)
認知の隙も与えないデリエラの剣さばきにソラは驚愕する。
「やはり奪った魔力は快感だぜ」
「奪った? まさか!」
「そのまさかだ神薙ソラ……。俺は人を殺して殺して殺しまくって魔力を溜めてきたんだよ! 最強の魔導士になるためにな!」
「なんだと……」
「だが、お前に俺の体を傷つけられたとき、俺に真の目的ができた……。神薙ソラ……。お前を殺すっていう目的がだよ!!!!!」
デリエラがそう吐き捨てたとき……。
――気付いたころには遅いというものだった!
ソラの胸に剣が貫通した。
(痛っ!)
デリエラは剣を突き刺したままソラをそのまま突き飛ばした。
ソラは3回転しながら、噴水に頭から突っ込んだ。
噴水が破損してソラに大量の水かかかる。水が一気に噴き出して王都の上空100Mは水が飛んだことか。王都に人工的な雨が降り注いだ。
「キャーーーーーーーーー!!!!!」
それの光景を見ていた人々たちが一気にその場から逃げ出す。『殺される……』。その思いが人の心を変えた。関心から恐怖へ。
(痛いな……。また心臓刺されたな……。痛い……痛いな……。俺はまたアイリスやイリスに運ばれてあの時からリスタートしちまうのか? 嫌だな……。今度はあの美少女たちに褒められてえな……。感謝されてえな……)
足がガクガクと震えながらもソラは立つ。紅血の剣を拾って構えた。
「どうした。さっきまでの威勢は……。駄々漏れだったお前の魔力も尽きたか? 神薙ソラ。お前はまだ魔導士として未熟者だ。ただ魔力が他人以上に優れているだけの……。魔力を使いこなす技術のセンスの欠片もねえお前はただの底辺なんだよ。お前の戦いには意味がない。一体何のために戦う? 何を欲して戦う?」
「俺はな……。デリエラ。俺は。俺は! ただ女の子の笑顔が見たいだけなんだよ!!!」
ゆっくり……。ゆっくりとソラはデリエラに近づく。左手を心臓に当て、剣を右手で持ちながらも。
デリエラとの距離は1Mにも迫った。ソラは弱弱しい力で剣をデリエラに向かって振り下ろした。
「バカかてめぇは……」
デリエラは剣を薙ぐ。
――ソラの腹から血が飛び出し、舞う。
(クソ!クソクソクソ!!!手も足もでないなんて……)
灼熱の太陽の光を浴びながらも、自分の無気力さを感じてソラは倒れた。
「ちっ。こいつをライバル視した俺がバカだったな。こんなにも雑魚に俺は斬られたのか。自分の心臓一つ護れないカスがよ」
デリエラは舌打ちしてそう吐き捨てる。
*
――王都イーディスエリー ギャンブル街地下。
「無駄なあがきだぞ。女共」
ミリィを失った今、ミリィ調査隊はほぼ壊滅状態だ。まともに戦闘できる者。まともにガンダスと対等に渡り合える者はゼロと言っても過言ではない。
2人の回復魔導士はミリィを隅まで運び、応急処置をとっている。他の7人の探索魔導士は臨時戦闘用に持参しておいた銃を手にしてガンダスにその銃を向けている。
「動くな! さもないと……!」
「さもないと? なんだ。そのおもちゃで俺が倒せると?」
女生徒たちは何もできない自分の愚かさを呪った。
「撃って!!」
と、セリーヌが叫んだとき。
ドドドドドドドドドン――――!
無限に続くような銃声が鳴り響く。
しかし、その銃撃はガンダスから自動的に溢れる炎にかき消される。
「舐めるなよ……」
ガンダスは真正面にいたセリーヌの首を掴み、宙に浮かせた。
「うっ!」
「……セリーヌちゃん!!!」
「お前! セリーヌちゃんを放せ!」
と、一人の金髪の女生徒がガンダスに向かって突っ込む。
――が、セリーヌを盾にセリーヌ自信を投げ飛ばし、女生徒ごと吹き飛ばした。
「弱い犬が吠えるからそうなる……」
地面に転がった女二人をガンダスは見下す。ガンダスはセリーヌたちのそばに来て、自分の服のポケットにしまってあった短剣を取り出した。
「セリーヌちゃん!!!!!!!!!!!」
「死ね……」
ガンダスが短剣を振り上げた刹那――。
ガンダスの手は止まった。
「乙女にこんなことをするなんて随分と汚れているのね――ガンダス・メラ」
透き通った女神のような声がした。透き通った薄桜色の髪を持った少女はガンダスの手を掴んでいた。
「イリス……先輩……」
半泣きのセリーヌはそう呟いた。やっと希望が見えたのだ。やっと開ける道ができたのだ。
「はあっ!」
イリスはガンダスを蹴った。ガンダスは片手でその攻撃を受け止めながらも後ろに飛び、距離をとった。
イリスは手の甲で透き通るような髪をなびかせた。
「……皆、待たせてごめんね。でも、安心して。ミリィの仇は私がとる!」
その勇姿はとても真っすぐで、心から女生徒たちを心から安心させた。




