第11話 憤怒の炎
激闘が続いてきたこの地下で、ガンダスはイリスと対峙している。
地下を構成している岩石はボロボロで、今にも崩れ落ちそうなくらいに耐久が落ちている。ところどころ真昼の太陽が光が射して地下を点々と照らしている。
「仇をとるのは友達の仇だけか?」
「勿論、ガンダス・メラの名は10年前から忘れたことがないわ……」
ガンダス・メラ。イリスは一日もその名を忘れたことはなかった。
10年前の王都の大火災。虚無の棺桶幹部、ガンダス。
――あの日、イリスの母親を目の前で殺害した男の名。
一度も忘れたことはない。忘れられなかったのだ。
「母親の……仇……」
黒髪で長い男の容姿は特徴的で、10年前とほとんど変わっていない。イリスは王都の森の全焼事件でガンダスを見た頃からこうなることは予想していた。できれば、あの頃に殺しておきたかったと、深く後悔するも……。
「奇遇だ。俺もあの貴様の母親は忘れていない……。泣いてる子供の前で親を殺すのは快感の極致だったからな……」
「人の痛みを知らないあなたたちに誰の気持ちも理解できない……。あなたは殺しても許さないから……」
「幼い顔して……よくも恐ろしいことを言う小娘だ」
「ん? 今何か言いました?」
突然、イリスは満面の笑みで敬語を使った。
『幼い』……。その言葉はイリスの何かを強く刺激する。
「私は18歳だし、顔だって幼くない! 胸だってぺったんじゃないしどこが『幼い』の!?」
「背丈は18歳と認められるが、顔が幼い」
「『幼い』『幼い』『幼い』って……! 私が美少女のことに嫉妬でもしてるんじゃないの!? あなた!!!」
イリスの精神がおかしくなっているのを見た女生徒たちはイリスの自画自賛に呆れてしまう。当然だ。
「イリス先輩……。自分で言います? それ」
「ホントそれですわ……」
「茶番は終わりだロリ顔娘……」
イリスが気付いたときには周りに赤いオーブが無数に浮いていた。
――ドドドドドドドドドンンンンッ!!!
赤いオーブは引火してイリスを襲った。
「――紅窮の神槍――!」
そのとき、砂煙から巨大な炎の柱がガンダスに向かって放たれる。
「はぁっ!?」
ガンダスが信じられない事実を目の前にして驚愕している。
とっさに口から紅蓮の炎を吹く――。
――だが……。
炎はイリスの方が優勢だ。威力でいうと元《クレア学院》の首席だったイリスは誰にも負けない。
ガンダスはイリスが放った炎の柱に飲まれて壁に向かって流され、衝突した。
岩石が一気に崩れ落ち、ガンダスを下敷きにする。
「私を幼いとか言うからバチがあたったのよ! もう本当に――ぶっ殺すから!!!」
「こっ、怖いですよ……イリス先輩」
イリスの凶器のような発言にセリーヌは呟く。
――ドーン!
積み上げられた岩石が爆発し、ガンダスは体を起こした。
「クソ!――マグマオーシャン――!」
ガンダスがそう叫ぶと周囲に半径50M大の炎が海の如く広がった。
が、炎はイリスが召喚した超巨大な魔法陣に吸い取られた。
「私に炎なんてきくとでも……?」
「馬鹿な!」
魔法陣はガンダスの方向に向いた。
「や、やめろ……。まじで、おい! タイムだタイム! やめろ、馬鹿野郎。頼むからやめてくれええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
イリスの魔法陣は赤白く光る。
「喰らえ――爆炎の砲台――!」
マグマのように熱い炎が発射――。
「嘘……だろ……」
――ドガーン!
炎はガンダスにクリティカルヒットしたようだ。
「あ、あっつい! 熱い! 熱い! 熱いいいいいい!」
「もう一発だ」
「やっ、やめろ!」
巨大な魔法陣から2発目が放たれる。
――ドガーン!
「アアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
ガンダスは抵抗できない。自分の魔法がイリスより劣るとわかってから戦意は喪失した。
ガンダスはその場から逃げようと地上への抜け道へと急ぐ。
「逃がすか!――連射型・爆炎の砲台!!!――」
――ドドドドドドドドドドドドドドドンンンン!!!!!
膨大な威力の炎が大量かつ高速でガンダスに直撃。
「アアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
ほぼ黒焦げのガンダスは硬直して立っている。
「……降参だ。もう……やめてく……れ」
「イリス先輩……Sだ」
その異様な光景を見ていた女生徒は一斉に呟いた。変なところで気が合う。
「まさか、これで終わりだとは思ってないな?」
「何だと!?」
「母親の命、たくさんの人の命を奪ったあなたにはそんなもので償えるとでも!? あなたは、何をしたって許されない! 終わりよ――紅焔繚銃火ァァァ――!!!」
イリスの周囲の空間に現れた数十の魔法陣。同時に炎は放たれ、一気にガンダスを襲った。
ガンダスは半泣きの状態で攻撃を受けた。
「グアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァッッッ!」
(もう知らねえよ。運命なんて……。俺がやってきたことが真実として帰ってくる……のか)
立ち上る砂煙に紛れて、ガンダス・メラは地面に倒れる。
「イリス先輩。ドSだった……」
口を開いて信じられない光景を見ていた女生徒はまたも一斉に呟いた。
ガンダスの気絶により、魔導爆弾の回路は活動をやめた。王都イーディスエリーはこれでひとまず助かったのだ。10年前の事実。それをまた繰り返すわけにはいかない。人々の魂の叫び、呻き……。もうなにも苦しさを聞きたくない。聞かせたくない。そんな思いがただ普通の学生たちが命がけでとめた。
地下の空間はとても綺麗な状態だったが、岩石が崩れて半壊してしまうほどの戦いはここでは起こった。
少女イリスは前を向く。復讐の目は勇敢な天使のような美しい目に変わる。やっとここで自分の恨みを晴らせた気がしたのだ。10年前無力だった自分を変えてここまでやってきた。ここまでやってきてよかった。そう思えた。
(やっと、仇を討てたよ――ママ……)




