優しく気遣いできる王子様
ピカーーーーーーーーー!
太陽が爛々と大地を照らす頃、
俺は目が覚めた。
「…昼より少し前ーーぐらいか」
かかっていた毛布を取り去り、
俺に身を委ねて眠る彼女を見る。
「ーーー」
昨日のあれは、感情を取り戻しかけていると、
思っていいのだろうか。
思案顔のまま彼女を撫でる。
あの瞳は、虚ろではなかった。
俺にすがりつく瞳だ。
瞳に色が戻ったし、表情にも違いがみえる。
「……ん」
ちょうどその時彼女が起きた。
目を擦りながら俺を見る。
その仕草はまるで幼い子供のようだ。
しかし体は大人。
なんか微笑ましい光景だ。
「おはよう、ルミア」
「おは、よう…?」
首をかしげる彼女。
「ただの挨拶だ。
起きて会ったら言う言葉。」
「…ーーお、はよう。リ、リオミヤ」
辿々しく彼女は呟く。
一日でよくもまあここまで戻ったな
と内心あきれた。
魔力は使った分しか回復しておらず、
半減されたままだったが。
「あぁ。おはよう。
じゃあ今から飯だ」
「うん」
そうして遅い朝食を食べて
早々に出発した。
ーーカツンカツンカツン………
ルミアは羽のように軽い。
山道でもない平らな道を歩むから
夕方頃には森を抜けられた。
ピカァーー
ひゅるるるるるぅー
日が傾き、赤く光って、
風も冷たくなる。
「ここからはルミアにも歩いてもらう。歩けるか?」
俺はそう言いながら彼女を下ろす。
彼女は裸足だが、すぐそこには街だ。
抱き上げている方が目立つ。
「ぅん」
彼女は自分だけで体を支えられるぐらい、
いつのまにか回復していた。
二の足は震えず、土をしっかり踏んでいる。
「これで足を隠せ。足がいたくなったりしたら、立ち止まってもいいから」
ローブを羽織らせて言葉を多く使えない彼女を、
配慮して言葉を選びながら言う。
「うん」
ローブはすっぽりと彼女を包んで足元まで隠した。
これなら靴を買うまでぐらいなら目立たないだろう。
目立つのは避けたい。
目立つということは俺の素性や彼女の魔力の器を
知られる可能性が高くなること。
周りに溶け込むことは身の安全に繋がる。
「ついたらすぐ靴を買ってやるから。それまでは頑張れ」
「うん」
俺の言葉に彼女は頷いた。
義務的にうなずく様子は変わらない。
まだ人形のようだ。
そうして俺達は歩き出した。
俺はルミアのペースに合わせて、
足を傷つけない道に誘導する。
すたすたすた…
距離を進めるうちに周囲が賑やかになる。
たんなる歩道から繁華街へ。
俺達が足を踏み入れた町は、
城下町からはまだ二、三個町を間に挟むが
明るい治安のよい町だった。
「…!」
町に入るとすぐ靴屋を見つけた。小さい洋風な建物だった。
裸足は驚かれるだろうなと躊躇いながらも
「ルミア、こっちだ」
彼女を誘導して靴屋にガチャッと入る。
「「いらっしゃいませ~♪」」
二人の優しそうな老夫婦が声を合わせて出迎えた。
エプロンをしたそう老いていない老婆と、
メガネをかけた老人だ。
「この娘に合う靴を一足頼む。」
俺は彼女を促してロー部の裾をちらりとあげて見せた。
すると案の定ーーー
「まぁ、たいへん!」
「おやおや、これは…」
と、目をみはって俺とルミアを見比べた。
「」
ルミアはそれを無表情に見つめる。
「まだこれから歩く予定でいる。彼女に合う靴はあるだろうか」
と、さらにいい募ると、
「えぇ、
今から合いそうなのを持ってきますから、ここにどうぞ座ってくださいな。」
と、優しい笑みを浮かべて、長椅子の方へと促した。
老人は靴を取りに動く。
彼女を先に促して座らせてもらった。
「ここまで大変だったでしょう?」
「…えぇ、まぁ」
言葉を濁して俺はこたえた。
…こういう応対は苦手だ。
そう時間がたたないうちに老人が
何足かの靴と濡れタオルを持ってきた。
「まず汚れた足を拭かないとね」
「」
「助かります。」
老婆が彼女の足を丁寧に拭いていく。
彼女はぼんやりとその動作を見ていた。
それが終わると、
「お嬢さんは足が小さくて色白だから、こんなのはどうでしょう?」
と、少しピンクがかかったパンプスの靴を勧められた。
はかせてもらうと、ちょうど足にフィットする。
「…」
「・・・その靴にします。いくらですか」
と、早々に決定し、代金を払う。
「「ありがとうございましたー♪」」
と、すぐに靴屋をあとにした。
再び、スタスタと歩き始めるが
彼女の体力はそう続かなかった。
「この町の宿に泊まる。
あと少しだ。だから、ほら」
俺は彼女の限界を悟り、手を差し出した。
「ーー……?」
肩で息をしながら彼女は首をかしげる。
…どうやら意味がわからないようだ。
「ーーこれは
手を繋いでやるっていう意味の手だ。」
と、彼女の手に伸ばし、触れて見せる。
「・・・・わかっ、た」
とりあえず彼女は頷いた。
だから手を引いて宿屋に向かい、入る。
ガチャ。カランカラン。
ドアを開けると鈴がなった。
中は、広々としてそれなりに充実していた。
カウンターまで近づき、
「寝台二つある部屋があればひとつ借りたい。」
「一泊かい?」
「そうだ。空いてるか?」
「あぁ、空いてるよ。」
ヒョイっと、
何か受付が投げ渡してくる。ーーチャリンッ
見れば、鍵だった。
「それが鍵だ。
二階に鍵の番号と照らし合わせりゃすぐあるよ。」
「どうも」
そうして二階に向かった。
その際彼女に腕を回して抱き浮かせ、
担ぐ形で階段を上がった。
すでに疲れてる彼女には階段は辛いと思っての判断だ。
リズミカルに素早く上って
鍵と対になる部屋に入り込んだ。
寝台がくっついて二つあり、小さいがバスルームがついていた。
「ここまでお前に無理をさせたな。
もう今日は寝てしまえ。俺も寝る。」
彼女を抱きなおし、寝台にねかせて
俺も隣に寝転ぶ。
「おやすみ」
俺が呟くと
「おや、すみ……?」
と返された。これもわかってない…。
「寝るときの挨拶だ。
ーーーーおやすみ、ルミア」
「…おや、す、み…ーリオミヤ」
彼女が、ゆっくりと紡いだ。
俺は名前を呼ばれるくすぐったさに緩んだ表情で、
頷き、彼女を撫でて、離れて目を閉じた。
疲れによってうとうとしてたが、
ハッと気づいた。
ーーーーしばらくの間、
彼女からそわそわした落ち着かない気配が隣からするのを。
彼女がそれに耐えられなくなった瞬間、
「ーーリオミヤ……ッ」
彼女から初めて話しかけられた。
「ん?どうした?」
俺は彼女の方に体ごと振り向いて問いかける。
「!ぁ、……」
なにか言おうとするがうまく言えないようだ。
ただ身体は素直なようでかすかに震え、
眼差しで俺にすがりついてくる。
一瞬、前の寝るときの態勢と、
彼女と一瞬でも離れたときのことを思い出す。
なんとなく言動で察した。
彼女は一人で寝れないようだ。
「一人はダメか?
じゃぁ、俺のとこに来るか?」
「!うん」
彼女は即答した。
もぞもぞとうごいて俺の腕の中に入ってくる。
どうやら、俺といるのが一番落ち着くみたいだ。
「おやすみ、ルミア」
彼女を、安心させるように抱きこんで
今度こそ眠りについた。