第二十一話――夏の山、踏破
「いやぁ、ありがとごちそう様」
「食料袋が全て空っぽ……」
「ははっ、凄いなにーちゃん! 食べ物が消えたぞ」
いやぁ、おいしかったおいしかった。やっぱ空腹は最高のスパイスですな。
食べる事は心の洗濯だっけか? 三度の飯より良いものなんて無いね。
「まったく、いったいどうしてくれるんですか!」
うーむ。それを言われるとつらい。
「一応お金は持ってるけど――」
「店も無い山の中で金貨なんて無意味ですよ」
ですよねぇ。
「ま、とにかくありがとう。助かったよ」
「はぁ、まぁ仕方ないですね……」
餓死……はしないだろうけど。ゾンビだってお腹空くからな。
「今度会ったらそん時は腹いっぱいおごるさ」
「二度と会いたくありません」
ははぁん、ツンデレ? いやツンドラか?
「なぁなぁ、それよりにーちゃんどうやってこいつ等倒したんだ?」
ベラノは見た目はお姉さんなグラマーボディなのに中身はハルレベルの子供らしい。しかも少年の。
俺の腕を掴んでダダこねる姿が妙にはまってるのが面白い。
「別に雑魚ばっかだったからな、ちょっと派手に殴り倒しただけさ」
あいつらも可哀そうに。
俺のサンドイッチにさえ手を出さなければ一撃で済んだのに。
「やっぱ凄ぇ強いんじゃねぇかー?」
「はぁ、ベラノ。そんなこと聞くんじゃありません」
そんでもってエテは見た目はイヴェールとハルの中間ぐらいで、ほぼ子供。けど、中身はお姉さん。実際は妹らしいが。
「えー、もっと強くなりたいじゃんかよー」
「駄々をこねない」
ちょうど中身と見た目が逆さまなんだよなぁ。
「うー。エテが言うならもう聞かないけどさー」
「はは、まぁまた今度会ったら教えてやるさ」
「ホントかー!?」
ああ、お姉さん顔にキラキラした童眼。いいねぇ、ギャップ。
「はぁ、まったく……それじゃ、そろそろ出発しますよ、ベラノ」
「はーい」
「それじゃ、またどっかでなー」
「ああ、兄ちゃんも食べ物は大事になー」
「二度と出会わないよう願っててください」
腕を振ってくれるベラノと顔さえ向けてくれないエテ。
うーむ。中々に対照的で面白い姉妹だった。
なんだかんだ言いつつ笑顔な二人だが……この先は追剥だらけなんだが。
まぁ、この先に居た追剥は俺があらかた殲滅しておいたし、多少腕には自信があるようだし大丈夫か。
「さて、俺も急がなきゃな」
浮かれた気分もここまで。これ以上デレデレしてたら助けたハルに殺されちまう。
胃の中の食べ物は消化された。
エネルギーは十分。体力も万全。気分も上々。
「ちょっと、飛ばしていきますかっ!」
見晴らしが良くなってきた山道を飛ぶように走ってゆく。
時間はあるようで無い。休憩も大事だが基本的には急いでいくべきだ。
待ってろよ、ハル。