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第十九話――追剥峠

「しっかし、こりゃ予想外だな」


啖呵切って出てきたはいいものの、俺は割と途方に暮れていた。


目標はできている。


先程通り過ぎた町で騎士団の情報は手に入った。


騎士団は、今上っているのを含めて、三つほど山を越えたの先にある「聖都」へと向かっているらしい。


「罪人」はいまだ処刑されてないという噂も手に入れた。


散在家の俺にしては金貨もセーブしてるし、服も今の所問題無い。


ただ、問題は――



「おい、兄ちゃん、ちょっと立ち止まろうか」

「なぁに、殺そうって訳じゃねぇ、ただちょっとよ」

「身に着けてる物全部置いてけやぁっ!」


追剥がひどい。


次の町への直通ルートである、一つ目山の峠を通っている最中なのに。


騎士団は迂回ルートを選んだというが、そっちの方を選んだ理由を今更理解した。


というか知ってて教えただろ! あの茶店のおばちゃん!


何が「腕に覚えがあるなら行ってみな!」だ! あの清々しい笑顔はどっから出てくるんだ!


「止まれっつってんがげごげ」


最後の方が言葉になってないのは俺の拳が追剥の顔にクリーンヒットしたから。


「お前っ! よくもやっでぐがりご」


同じく最後の方が言葉になってないのは俺の(かかと)が追剥の頭に決まったから。


「てっ」


最後の奴のセリフが僅か二文字しかないのも同じく俺の頭突きが追剥の額に当たったから。



「ったく、なんでこんなにいるんだよ」


今ので追剥30人目オーバー。


既に追剥Aとか追剥2とか付けるのすら億劫である。


「おい、そこの餓鬼ぐへっ」


しかも全員見事に同じ方法。同じ武器。同じセリフ。


ホント、代わり映えの無い事象って勘弁してほしいよね。


「てめっ、待てがぎげが」


俺退屈な日常に飽きてこっちに来たんだよ?


この世界で飽きてどうするよ。


「ごらぁっ待ちやがれこのげがぐがぁっ」



「だぁっ! もっとまともな奴はいないのかっ!!」


これってさ、実は前の方に倒した追剥が復活してまた襲ったりしてないよね?


きっちし一撃で決めてるし。まさか二度目に襲ったりしてないよね? ね?


「おい、そこの男、てめぇ――」


「なぁ、お前って俺にあった事あるか?」


「は? 何言ってやがるあった事なんてあるわけねぇな、それよりお前その袋の中身ちょっと――」


「だよなぁ、お前なんか記憶の片隅にすらいないのに」


「いいから荷物よこぐはぎげがっ」


「あ、すまん、反射で拳が入っちまった」


まったく、だから普通って嫌なんだ。


感覚が麻痺する。


日常が常識になり、非常識は消えて無くなる。



「おいお前ちょっと持ち物をぐがげが」


「だぁーもぉー走っていくか」


一応、こっちの方が近道なので普通に歩いてても騎士団には追い付ける。


下手に体力を使うのはできるだけ避けたいのだが、仕方あるまい。


ちょっと加速、速さは――時速200キロぐらいがいい感じで人間辞めてるだろうか?


「おいてめぇ――って速っ!?」


「おいこら、止まれぇっ!」


「立ち止まりやがれっ!」


……草薮の中からネクストエンカウントの方々がたくさん出てきました。


やっぱ走って正解だなこりゃ。


「あんまり疲れたくないんだけどなっと」


この体がいかに疲れ知らずと言えど、あの騎士団ともう一度やりあうのだ。


油断は禁物。全力の全開で。



「さて、ここいらにはもういないか」


追剥どもの姿が見えなくなったところでスピードを落とす。


草薮や岩陰など、隠れやすい場所はむしろ増しているが、周りに人影は無い。


「腹も減ったし……昼にしますか」



いい感じの岩を拾ってきて、砂を払って椅子にする。


ちょっと汚いが、まぁ許容範囲。


「それでは! お楽しみのお弁当タイムと参りましょうー!」


本日のお弁当は茶屋のおばちゃん謹製のサンドイッチ。


お肉が入ってないのが少々残念なのですが、この世界のサンドイッチは野菜オンリーなのだそうです。


卵サンドはあったのですが。ほんと残念極まりない。


「では失礼して、いただきます」


「ああ、ただし食べられるのは貴様だがな」


ん?


おう、一際デカい藪の中に赤い眼が。


「すまんが、貴様はここで血だらけの肉になってもらうぞ」


藪の中から出てきたこれまた体のデカい人。


ついでにわらわら出てくる手下ズ。


「「「「貴様の命、もらうぞ!」」」」


「これでも喰らえっ」


鎖鎌っていうのだろうか?


とにかく、鎖の先に鎌が付いた物が、俺に投げられて。


俺の胸に刺さった。


「おっしゃ! お頭、俺が仕留めました!」


鎖鎌は、俺の胸に抱えてた箱にぶつかって、それを押し飛ばした。


「ああ、見事な奇襲だ! 上手くなったな、デポーカ」


俺の、大事な大事なサンドイッチの入った箱を押しのけた。


俺の、サンドイッチは、地面に、落ちた。


「てめぇら…………」


「「「「ん?」」」」


「一回死にやがれぇぇぇっ!!」


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