サクヤ
第二話です。
今回すごく長いです。
よく晴れた、ある朝のこと
ある山のふもとにある小さな村の宿屋の門の前で、一人の少年が、女将と主人に挨拶をしていた。
「よしっ!おばちゃん、お世話になりました!」
パンパンに膨らんだ荷物を稼いで、少年は宿屋の女将に挨拶をした。
「ええ。こちらこそありがとうねぇ。あなたほど色々手伝ってくれたお客さんは初めてよ」
女将は嬉しそうにお礼を言った。
二日間、この宿に泊まっていたのだが、その間、暇を見つけては二人を手伝ってくれたのだ。
「ああ。こんなにいい客は初めてだねぇ。まき割りも手伝ってくれてありがとうな」
妻の言葉に、主人も感動したように言ってきた。
そんな二人の言葉に、少年は笑って答えた。
「お世話になったから、これくらいはしないと。じゃあな、おばちゃんおじちゃん、ありがとな!」
そう言って、少年は歩き始めた。
「え~っと…確かこっち…」
そう言いながら、担いで荷物の中から、地図を取り出す。
この辺の地域は初めてだから、地図を見て行くしかない。
「次は『クミナシティ』かぁ…おっきいとこだといいなぁ」
地図を見るかぎりは、この道をまっすぐ行けばすぐ着く。
「よし。今日中には着くぞ!」
そう決心すると、少年は足早に歩き始めた。
――クミナシティのある武器工房
そこで、ミハエルは、一人、長剣を作っていた。
そこに、甲高い声が響いた。
「お父さん!なんで私なのよっ!?」
工房に入ってくるや否、怒鳴り始めた娘に、父はあっさりと言った。
「おや。サクヤは武器を作るの得意じゃないか。」
そんな父の言葉に、サクヤは詰まった。
「そうかもしれないけれど…。でも、私、品物になるようなのは作れないわ!」
「大丈夫だって。お前はもう、立派な武器職人なんだから」
父は優しく言う。
「何かあったらサポートするから。頑張りなさい。」
「……」
サクヤは、父が好きだったが、特に、武器職人として働く父が大好きだった。
自分もあんな風になりたいと思い、父の真似をして武器を作り始めたのが三年前。
最初は父にもばれないようにこっそりやっていたが、二本目に作った槍を褒められて以来、作るたびに父に見せるようになった。
それ以前から、槍使いとして活躍していた為、槍は、ちゃんとしたものが作れるようになった。が、今回の注文は剣だ。
「だって、剣でしょ!?私、ろくに触れないのよ??」
剣は、嫌いだ。触るのが。
最近は、見れるようになったけれど、少し前までは見るのも嫌だった。
見ただけで、吐き気がするほど。
だが、父は少しも揺らがない。
「触れないなら、触らないで作ればいい。それぐらいはできなきゃ、一人前じゃないぞ」
「一人前じゃなくていいもの。」
頭を下げて、彼女は言う。漆黒の髪が、炉の灯りでオレンジ色に輝く。
「私は、一人前になんか、なりたくないの!!」
彼女は叫ぶなり、工房を飛び出した。
もう夕暮れで、今からじゃ友達の家もご飯の準備で忙しいだろう。
何処へ行こうか悩んでいた時、気がつけば町を出て、街道に立っていた。
武器の材料で、鉄や鋼などを遠くの町から取り寄せたとき、この街道を通って運ばれてくるのだ。
小さいころから父の付き添いで、運ばれてくるたびにここに来た。
動かずに、立ちつくしていたサクヤだったが、しばらくして、人が来た。
「誰…?」
見たこともない容姿の少年だ。瑠璃色の髪と瞳。どこかの貴族?
サクヤの呟いたような言葉に、少年はにかっと笑って言ってきた。
「あ、俺?俺はコクト。旅をしてる。」
旅か…小さい頃、よく旅に出て、困っている人を助けたいと思ったことがある。
懐かしいな…
そう思うと、なぜか積極的になってしまう。
妙に親近感が持てるのはなぜだろう?
「旅をしてるの??クミナシティへようこそ。私はサクヤよ」
「やっと着いた…」
少年は、ホッとしたように言ってきた。
それにサクヤは、微笑む。
「ね、今夜の宿、決まってないなら家にいらっしゃいよ!きっとお母さんたちも喜ぶわ。」
その言葉に、少年は嬉しそうに言う。
「いいのか?よかった。そろそろ路銀も底をつきかけてて…」
しかし、最後まで言い終わる前に、彼女はまたも微笑んで言う。
「ちょうどよかったわね。でも、ただで泊まらせてあげるんだから、私の言うこと、全部聞いてもらうわよ」
少年は首をかしげる。
「?」
彼女はただ、笑っている。
「ええ。当然でしょう。これから三日間、私の言うことを聞きなさい。いいわね?」
「いや…二日後にはこの町を出る…」
コクトが言い終える前に、彼女は一言。
彼女は、有無を言わさない口調で、ただ、言うだけだった。
「いいわね?」
コクトは、しばらく無言を続けていたが、威圧に耐えるず、頷いてしまった。
「は…はぃ」
それに、サクヤは、女の子じゃないような、恐ろしい顔になって…
「返事は『はい、サクヤさん』でしょう?」
コクトは、ただ言葉を返すことしかできなかった。
「は…はい、サクヤさん!」
サクヤは夕食で、コクトを紹介した。
サクヤの横に座ると、サクヤは話し始めた。
「旅をしているんですって。今日この町に来たばっかなんだ。」
「こ…コクトです。今日から三日間、お世話になります。」
サクヤに合わせて、コクトは名乗った。
すると、目の前に座っていた、コクトより四つぐらい年上っぽい女性が、話しかけてきた。
「サクヤの姉の、アルアです。ゆっくりしてって。あまり大したものはないけれど。」
名乗られたら、褒めるのが常識だと、昔誰かに教わったことがある。
「アルアさん。とってもいい名前ですね!」
効果は、抜群であった。
「ふふ。良い子じゃない。可愛いわね。」
普段は敬語を使わないコクトであったが、横からの厳しい視線に、敬語を使わざるを得なかった。
コクトは可愛いなんて今まで言われたこともなかったので、ちょっと恥ずかしかった。
すると、アルアの横、サクヤの前に座っている、優しげな女性が褒めるように言ってきた。
「あなたの髪と瞳、きれいな瑠璃色ね。珍しいわ。なんて綺麗なんでしょう…」
コクトは、今まであまり気にしてこなかったが、自分と同じ髪の人を見たことがない。
コクトが知っている限りでは、この髪をしているのは母と、自分だけしか知らない。
「あの…この辺りに、この色の髪をした人とかって、いないんですか?」
恐る恐る聞いてみると、彼女は頷いて言った。
「ええ。私、こんなに綺麗な髪を初めて見たもの。」
コクトは少しさびしいような気持ちになった。
「そうなんですか……あの」
お礼を言おうと思ったが、彼女の名前を知らない。
サクヤの母なのだろうが。
困っていたら、それを察した彼女はごめんなさい、とでも言うように言った。
「あ…私ったら。私はこの子たちの母で、サリ―よ。よろしくね。コクトくん。」
「はい。こちらこそ、お世話になります。」
「本当に、できた子だね。」
いままで、会話の中に入ってこなかった男性【ひと】の声が、部屋に響く。
「ええ。サクヤも、よく見つけてきたわね。」
サリ―も付け足す。
「たまたま街道であったの。宿も無いって言うし。」
そんな妹の言葉に、姉は首をかしげた。
「旅をしてるって…何かを探してたりするの?」
その質問に、コクトはうなずいた。
「お…僕には、大きな目標があるんです。お母さんの遺言でもあるんですが。
それを達成するには、はるか遠くまで旅をして、強くならない――。
そのために、今は仲間を探しているんです。」
「えらいわねぇ。で、どんな目標なの?」
「やましいことじゃないなら、教えてくれないかしら?」
「ぜひ、教えておくれ。」
口々に言われ、コクトは詰まった。助け船を出してもらおうと、サクヤを見たら、彼女は楽しそうな顔をしていた。
「そうよ。時間はたっぷりあるんだから。」
どれぐらいの時間が経っただろうか?
話し続けていたから、のどと口はからからで痛い。
「――ということなんです。」
「ほぉ。なるほどねぇ。じゃあ君は、そこそこ強いのかな?」
アルアはどこか面白そうな声音で聞いてくる。
「はぁ…そこそこですけど……」
その言葉を待っていたかのようにアルアはノリノリだ。
「そう。なら、サクヤと戦ってみない?この子、とっても強いの。きっといい体験になるわ。」
サクヤは驚いた。なんで!?
「お姉ちゃん!」
「良いじゃない。ちょっとしたお遊びとして、だし。」
「そんなぁ」
サクヤは嫌だった。
コクトはサクヤをちらちら見ながら言う。
「別に良いですけど……サクヤさんは?」
さっきの話を思い出して、サクヤははっとした。
コクトの武器は、木刀だ。
それなら、多少手を抜いてもお互い傷つきはしないはずだ。
「いいわよ。」
「えっ…」
「そうねぇ。どうせなら、なにか賭けでもしない?」
「たとえば?」
「コクトは仲間が欲しいんでしょ?」
「うん」
「私が負けたら、一緒に旅に出てあげるわ。」
「おっ!」
「そのかわり、私が勝ったら、私のお願い、聞いてもらうわ」
「お願い?」
「私が勝ったら教えてあげるわ。」
自信満々の彼女にコクトは少し不思議に思いつつも、頷いた。
「はい!喜んで受けます。」




