第一章「すべての始まり」
ジェンダルは、その薄暗い路地を通り抜けるべきかどうか一瞬迷った。背後の物音は次第に遠ざかっていく。だが、これがちょっとした近道になるかもしれないと考え、彼はそこを突っ切ることに決めた。
視界の端で、濃い煙の渦が痙攣するように不規則にうねり、完全には安定しない古代のルーン文字の集合を形作ろうとしていた。それは金属的な輝きではなく、暗い赤色の光がかすかに明滅した後、闇に呑み込まれていくものだった。
周囲の空気には腐敗の臭いが漂っていたが、同時に焦げた電気のような臭いもした。
そう遠くない――いや、実際はあまりにも早く――彼はその決断が間違いだったことを思い知ることになる。
なぜなら、彼が足を踏み入れた瞬間、四つの影が行く手を塞いだからだ。
彼らの頭上、ほんの一瞬、ジェンダルは震える文字を見た気がした。まるで現実そのものが、彼にしか見えないラベルを書き記しているかのように。その閃光はすぐに消え去った。
「うーん……」影が近づいてくるのを見て、彼は小さく呟いた。
「持ってる物、全部出せ。今すぐだ」
そう言った男は右手にナイフを持ち、歯が二本欠けた笑みを浮かべていた。残りの三人は半円状に広がり、あらゆる退路を断っていた。
ジェンダルはほとんど動かず、ただ軽く首を左右に振っただけだった。
濡れた地面から立ち上る蒸気が膝のあたりまで彼らを包み込み、足元の水たまりには歪んだ月が映っていた。まるで世界全体が少し壊れているか、あるいは今にも再起動しようとしているかのようだった。
「何も持ってない」とジェンダルは言った。紙幣一枚も、金のネックレスも、何もなかった。
「ふざけるな、白髪野郎。持ってる物を全部出せ。今すぐにだ!」
男の顔は赤くなっていたが、それは怒りだけのせいではなかった。周囲には甘ったるい臭いが漂っていて、ジェンダルはそれが何なのか正確には分からなかったが、場違いなものだとすぐに察した。
その目は……まるで消えかけているかのようで、生気がまるで感じられず、男の目の下には深いくまがあった。
路地に漂うアルコールの臭いは隠しようもなく、この男たちが度を越して飲んでいることは明らかだった。
再び男の目を見た瞬間、ジェンダルはうなじにぞわりとした感覚を覚えた。
まるで周囲が圧縮され、冷たく遠い声が骨の奥に囁きかけてくるかのように。
『なるほど』彼は心の中で頷いた。『そういうことか。これで全部つじつまが合う』
彼はもう一つのことに気づいていた。
『こいつら、薬をやってるな』と彼は思った。
それがすべてを変えた。酔っていて、しかも薬までやっているとなれば、何を言おうと信じてはもらえない。今の状態では、話が通じるはずもなかった。
話が通じないのなら、ただ背を向けるわけにもいかない。彼はその真ん中にいた。薬と酒に酔い、ナイフを手にした四人の男たちだ。そう簡単に誰かを見逃してくれるはずがない。
残された道は一つだけだった。
「取りに来たらどうだ?」ジェンダルは挑発した。どのボタンを押しているのか、正確に分かっていた。胸の内で何かが噛み合う感覚がした。まるで錆びついた蝶番が一段階回転したかのように。
「今、何て言った、このクソが?」
「来いって言ったんだ。取りに」
沈黙。
「それとも、できないのか?」
それで十分だった。
ジェンダルに挑発された男が真っ先に飛びかかり、脇腹を狙って横薙ぎの一撃を放った。
ジェンダルは上半身をひねり、刃を上着からほんの数センチのところですり抜けさせた。
それは反射神経ではなかった。まるでその攻撃の軌道が、一秒前から空中に刻まれているのを見たかのような、絶対的な確信だった。
彼は鋭い肘打ちを顎に叩き込んで応じた。
男は壁によろめきながらぶつかり、倒れる際、ジェンダルはくぐもった「ポーン」という音を聞いた気がした。金属音にほとんどかき消されそうな音だった。
残りの三人の反応は遅れた。
『待てよ』まだ動いていなかった一人が思った。『どうやってあんなことをしたんだ?』
なぜなら、目の前にいる若者は、見た目には何ら特別なところがなかったからだ。
痩せ型、というよりほとんど瘦せこけた体つき。腕には筋肉の跡ひとつなく、生まれてこのかた本より重い物を持ったことがないような細さだった。この街のどんな路地でも、そういう体は一つのことを意味していた――「格好の獲物」だ。
一人が背後から羽交い締めにしようとした――ジェンダルは体重を落とし、肩を回して拘束を振りほどくと、その男をゴミ収集容器に叩きつけた。
金属は壊れた鐘のような音を立てた。
その反響は普通ではなかった。壁に跳ね返る周波数が歯の芯まで響き、まるでこの路地が混沌を増幅するために設計された音響空間であるかのようだった。
「こいつ、一体何なんだ」もう一人が呟き、無意識に一歩後ずさった。
三人目は拳を構えて向かってきたが、もはや確信からというより惰性によるものだった。
ジェンダルは最初の一撃を前腕で受け止め、二撃目は必要最小限に頭を傾けてかわすと、鳩尾に短い一撃を返した。男は息を詰まらせ、体を二つに折った。
その瞬間、視界の端に赤い閃光が灯った。それは表示ではなく、もっと原始的な何か――さっさとこれを終わらせろと命じる警告だった。
四人目、この中で一番賢い――あるいは一番薬が抜けている――男は、すでに両手を上げて後退していた。
「待て、待ってくれ――」
ジェンダルは待たなかった。
一歩踏み込み、腕を極めると、男は水たまりに膝をついた。漏れたうめき声は、痛みよりも驚きによるものだった。
静寂。
ただ、壊れた配管から水が滴る音と、地面に倒れた四人の荒い息遣いだけが響いていた。
ジェンダルはしゃがみ込み、襲撃者たちを一人ずつ調べては、金目の物を奪っていった。
紙幣に触れた瞬間、奇妙な手触りを感じた。まるでその紙には指が認識できても頭では理解できない模様が刻まれているかのようだった。
「これは今、俺のものだ」
彼は踵を返し、路地の出口へと歩き出した。立ち上がろうともしない四人の暴漢たちを後に残して。
『この場所、名前を変えるべきだな』と歩きながら思った。
なぜなら、この場所は『安全の一角』と呼ばれていたからだ。
そこで唯一「安全」なことといえば、足を踏み入れた瞬間に全力で逃げ出すことだけだった。
「安全の一角、か。腹を空かせた狼の巣窟と、一体どこが違うんだ」
敬意を込めて言わせてもらえば、この名前を付けた奴は訴えられて当然だ。しかも終身刑に値する。
歩いていると、湿った、ぐしゃりという音が耳に留まった。
目を細める。路地の奥、腐ったゴミ容器を漁っているネズミがいた。
だが、それは普通のネズミではなかった。
小型犬ほどの大きさで、皮膚は灰色がかった潰瘍に覆われ、目は乳白色の病んだ光で充血していた。
かつて猫だった何かの残骸を、不自然に外れた顎で食い荒らしていた。
ジェンダルは嫌悪感を覚えなかった。
頭の奥に、冷たい既視感を覚えた。あれは動物ではなく、症状なのだという確信だった。
『この世界は腐っている』と、彼はクローゼットで見つけた黒いジャケットの襟を直しながら思った。
※ ※ ※
路地を抜けると、街の喧騒が一気に襲いかかってきた。
車。バイク。理由もなく鳴り響くクラクション。まるでドライバーがわざとやっているかのようだった。
下水口から立ち上る蒸気が、すべてに非現実的な、まるで異世界のような雰囲気を与えていた。
ジェンダルは簡単に驚くような人間ではなかった。これまでの人生で、良いものも恐ろしいものも見てきた。
だが、これは違った。
「まるで別の世界にいるみたいだ」と彼は呟いた。
事実、そうだったからだ。まだ完全には理解できていない、ある意味で。
建物の幾何学的な形はどこかつじつまが合わず、影はあり得ない角度で落ちていた。まるで光源が太陽ではなく、空に隠された巨大なスクリーンであるかのように。
そこにいる誰も、彼に関心を示す様子はなかった。先ほど路地であんなことがあったばかりだというのに、それがほとんど滑稽に感じられた。
『素人どもめ』と彼は思った。
角にいた若者たちの一団が彼に声をかけてきた。タバコを手にした女の子が一緒に飲もうと誘ってくる。ジェンダルは首を横に振り、そのまま歩き続けた。空気の中に何か奇妙なものを感じながら。
まるで誰かが遠くから見ているかのように。
「今日、何か恐ろしいことが起こる気がする」と彼は呟いた。「せめて、それに備えられていることを願うだけだ」
彼は振り返って確かめることはしなかった。
※ ※ ※
人混みの中を歩いた。彼の感覚は異常なほど研ぎ澄まされていた。ここ数時間の記憶がないことの副作用なのか、それとももっと深いところにある、目覚めることを拒む何かのせいなのか。
ゴミの臭い、乾いた血の臭い、恐怖の臭いを感じ取っていた。不意に、彼は足を止めた。うなじの毛が逆立つ。
誰かが彼を見ていた。
またしても、誰かが闇の中から彼を観察していた。
それは何気ない視線ではなかった。スキャンだった。重く、無機質な。まるで見えない語り手が、彼の能力を声に出して読み上げているかのような。
「一体誰だ、俺の体をこんな風に隅々まで見てくるやつは」と彼は小声で呟いた。それも一度ではなく、二度。
ジェンダルは頭を振り向けなかった。
歩き続けながらも、灰色の目でショーウィンドウに映る反射を素早く見渡した。何もない。
ただの、名も無い市民たちだけだった。
だが、狩場の獲物になったかのような感覚は消えなかった。
『あいつ……隠れ方を完璧に心得てるな』と、認めたくはなかったが認めざるを得なかった。『これは厄介なことになりそうだ』
そして再び同じ視線を感じた。今度は先ほどよりも強くなっている気がした。ネオンの明かりが一斉に点滅した。まるで世界が言葉に詰まったかのように。
妄想を落ち着かせるため、彼は目に入った最初のコンビニに入った――『青い角』という店だった。
入口のベルが鋭い音を立て、鼓膜を突き刺した。だがそれは自然な音ではなく、設計された周波数――まるで聴覚的な通知音のようだった。
空調は化学消毒剤と人工的な甘さの入り混じった匂いがした。ジェンダルはパック入りのサンドイッチと、ポテトチップス、そして炭酸飲料を手に取った。
空腹ではなかったが、平静を装う必要があった。サンドイッチの包装には「有効期限:48時間」というシールが貼られていたが、日付は書かれておらず、ただカウントダウンのタイマーが減り始めていた。
『もしかしたら、あいつも俺の後をつけてきて、自分も買い物に来たふりをするかもな』と、ほとんど適当に選んだ品々を手にしながら思った。
レジに近づく。店員が彼を見た。その笑みは完璧だった。完璧すぎるほどに。顔の筋肉は硬直したように引き伸ばされ、目にはその笑みが届いていなかった。まるでモデルのような、粗くレンダリングされたアニメーションのようだった。
「十二ヴァレンになります」と彼女は言った。その声はまるで練習されたかのような、ループ再生される音声ファイルのようだった。
『十二ヴァレン』と彼は心の中で繰り返した。『これは高いのか、安いのか』
分からなかった。
実のところ、ジェンダルはこの『場所』に来たばかりで、ここでの物事の仕組みをまるで理解していなかった。
手にしていた紙幣――暴漢たちから奪ったもの――には、レジの紫外線ライトの下で青みがかった光を放つ刻印があった。
ジェンダルは二十の紙幣をカウンターに置いた。指先が店員の指に触れた。凍えるように冷たかった。ただ冷たいのではなく、外気にさらされた金属のように冷え切っていた。
「良い一日を」と彼女は瞬きもせずに言った。
彼は頷き、踵を返した。
ジェンダルは店を出た。
そしてその瞬間、頭の中で地獄が弾けた。
単なる痛みではなかった。まるで肉用の鉤がこめかみを貫き、脳を外へと引きずり出そうとしているかのようだった。
一晩中抑え込んでいたものが、一つの静電的な衝撃となって一気に噴き出した。
『くそっ! また勘弁してくれ』
一瞬、世界が真っ白になった。まるで頭の中の何かが殻を破ろうとしているかのように。
彼はよろめき、片手を壁についた。
地面が傾く感覚がした。下にではなく、内側に。
「ぐああああっ!」痛みが強まり、ジェンダルは歩道に膝をつき、両手を頭に押し当てた。視界は白黒のノイズに砕け散った。
『何が……何が俺にこんなことを』
「おい、大丈夫か?」
甘く、優しい声だった。ジェンダルは吐き気と戦いながら顔を上げた。
二つの人影が彼の上に立ちはだかり、ネオンの光を遮っていた。
それは警察官だった。少なくとも、その制服を身につけていた。
だがジェンダルはそれを知らなかった。彼が幼い頃から暮らしていた場所には、そんなものは存在しなかったからだ。
四十歳ほどのその男は、父親のような心配げな表情を浮かべていた。
だが、ジェンダルの注意を引いたのは女のほうだった。彼女は非の打ち所のない制服を身にまとい、紺色のスカートと黒いストッキングを合わせていた。ライラック色の髪は絹のように肩に流れ落ち、その目――アメジスト色、紫色のその目――は、人間らしさの欠片もない強さで彼を見つめていた。
それは、珍しい昆虫を観察する昆虫学者の眼差しだった。
彼女を見た瞬間、頭の痛みが増した。
「顔色がとても悪いわね」と彼女は身をかがめながら言った。漂う香水は甘い匂いがした。
だが、ジェンダルの直感――あるいは頭蓋の奥で囁く何か――は、この女が狩人であり、自分が獲物であることを告げていた。
「店の中で何かあったの?」
『俺の反応を測っているのか』とジェンダルは悟った。本能は立ち上がって喉を掻き切れと叫んでいたが、冷たく計算高い理性がそれを押しとどめた。
「はい。ただ……ひどい頭痛が」ジェンダルは嘘をついた。弱々しく、怯えたように聞こえるよう声を調整しながら。この瞬間、憐れっぽさこそが最良の盾だった。
「大したことじゃありません」
女性警官は微笑んだ。その笑みは紫の目には届いていなかった。
「大したことなくはないでしょう。今にも倒れそうだったのよ。ここで待ってて」
二分後、彼女は錠剤のシートと紙パックのオレンジジュースを持って戻ってきた。
「はい。これで飲んで」
ジェンダルは受け取る前に一瞬躊躇した。
「ありがとうございます」ジェンダルはジュースを受け取りながら言った。指が震えていたが、今度は演技ではなかった。彼女の近さは本能的な拒絶反応を引き起こし、まるで彼女のそばにいるだけで血が濃くなっていくかのようだった。
「お礼なんていいのよ。困っている人を……助けるのが私の務めだから」と彼女は言った。最後の言葉は、普通より一秒ほど長く引き伸ばされていた。
ジェンダルは頷き、錠剤を紙幣と一緒にポケットにしまった。
「送っていこうか?」男が申し出たが、その立ち位置はさりげなく逃げ道を塞いでいた。
『どうせ、俺に許可を求めるふりをしているだけだろう』とジェンダルは思った。
「いえ、大丈夫です。もう良くなりましたから」
女性警官は彼をじっと見つめた。その紫の目は、彼の体温や心拍のリズム、瞬きの回数までも読み取っているようだった。
「今度からこんな夜遅くに出歩かないようにね、分かった?」と彼女は言い、一歩後ろに下がった。
ジェンダルはその場を離れた。全身の細胞が走れと叫んでいたが、走らなかった。角を曲がるまで、二人の視線が背中に突き刺さっているのを感じていた。
『あいつら、普通じゃない』額の冷や汗を拭いながら彼は思った。『猟犬だ。そして今、俺の匂いを嗅ぎつけたところだ』
大通りの喧騒に包まれると、彼はようやく息をつくことを自分に許した。十まで数える。水たまりに映る光はもはやただの光ではなく、座標であり、自ら描かれては消えていく数値パターンだった。
あの存在――あるいは彼の中にある何か――が、滲み出し始めていた。
※ ※ ※
部屋に戻ると、彼は夕食を取り、窓がきちんと閉まっているか確認してから、ベッドに横になった。
そのとき、疑問が一気に押し寄せてきた。
失踪者たち。運転中に忽然と消える運転手たち。戻ってきても、もう別人になっている者たち。それが街で囁かれている噂だった。今夜のどこかで、騒音と混乱の中、大して気にも留めずに耳にしたことだった。
「俺に起きたことと、何か関係があるんだろうか」
分からなかった。何もかもが完全には噛み合わない。そして最悪なのは、ほとんど何も思い出せないことだった。どうやってこの場所に来たのかも、なぜ時折頭が爆発しそうになるのかも。
手を伸ばすと、手首に痕があるのに気づいた。ちょうどブレスレットが来るべき位置だった。それは完璧な円で、まるで生まれた時から刻まれていたかのように皮膚に食い込んでいたが、今朝はそこになかったはずだ。
「一体何が起きてるんだ」
疲労が金槌のように彼を打ちのめした。
それは自然な眠気ではなかった。強制的な消耗だった。まるで抵抗できないように体を無理やり停止させられているかのようだった。
彼はベッドに横たわった。
部屋の闇が濃くなっていくように感じられ、瞼を押し潰していった。
『明日……明日、答えを探そう』それが、意識が深淵へと引きずり込まれる前の、彼にとって最後のまとまった思考だった。
だが、明日は来なかった。
安らかな眠りもなかった。
彼の意識が闇の底に触れたまさにその瞬間、声が響いた。部屋の中でも、耳の中でもなく。
それは彼の魂の内側に直接響いた。冷たく、遠く、そしてサディスティックな愉悦に満ちた声だった。
そして今度こそ、ジェンダルはその残響に見覚えがあった。それは、あの路地から彼の思考の縁を引っかき続けていたのと同じ声だった。
【おめでとう、あなたは幸運な選ばれし者の一人です!】
ジェンダルは目を開けようとしたが、体はもう自分のものではなかった。麻痺していた。
【あなたの最初の地獄の試練へようこそ!】
背中の下にあった床が消え去った。部屋も、街も、『安全の一角』も……すべてが煙と血のようなルーンの帳の中へと崩れ去っていった。
狩りが始まった。
そして今、彼は悟った。あれは夢などではなく、序章に過ぎなかったのだと。
あの夜に経験したすべては、ただの準備運動だった。これから――これこそが、本当の勝負だった。




