第一章 迷惑系チート配信者は『公務執行妨害』でBANします 〜辺境交番の絶対防衛と、定時後のカツ丼〜
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!
「チート凍結からのショットガン、スカッとした!」
「取り調べ室でカツ丼を食わされる迷惑配信者がどうなるか見たい!」
「リオンのお巡りさん無双をもっと読みたい!」
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次回、第2話「異世界の取調室。カツ丼の匂いは自白剤より効く」でお会いしましょう!
定時5分前の迷惑配信。警察手帳はチートを凍結する
「定時まであと五分。俺は出前のカツ丼を心待ちにしていたというのに――どうしてこうなった」
ルナミス帝国、レオンハート獣人王国、アバロン魔皇国。
三大国家の境界緩衝地帯に位置する、狂った生態系を誇る『ポポロ村』。
その村のはずれに、剣と魔法の世界にはおよそ似つかわしくない、四角いコンクリート造りの建物がポツンと建っている。
壁には見慣れた赤いランプ。そして入り口に掲げられた『ポポロ村駐在所』の看板。
大宇宙管理局、カスタマーハラスメント部執行部所属。
それが、現世における俺――リオン・フォン・アルディス(前世の社畜営業マン、高杉隼斗)の現在の身分だった。
木製のデスクで昇級試験の教本を開きながら、壁掛け時計の秒針を睨みつけていた俺の耳に、けたたましい悲鳴が飛び込んできた。
「お、お巡りさぁぁぁん!! 村が! 村の畑が燃やされてるダヨ!!」
バンッ! と勢いよく交番のガラス戸を開けて飛び込んできたのは、顔をススだらけにした猫耳族の農家のおじさんだった。
「落ち着いてください。火事ですか? ルナミス軍の砲撃エラーか、それともまたルナ(エルフの次期女王)が迷子になって火炎龍を暴発させましたか?」
「違うダヨ! なんか変な若者が、浮遊する水晶に向かってペラペラ喋りながら、面白半分に火を放ってるダヨ!」
俺は大きなため息をつき、ブラインドの隙間から外を覗き込んだ。
夕焼け空の下、ポポロ村の入り口付近で、派手なローブを着た金髪の男がゲラゲラと下品な笑い声を上げていた。
男の周囲には、神々が運営する動画配信サイト『ゴッドチューブ』用の撮影用ドローン水晶が何個も浮遊している。
『――はい、というわけでね! 今日はこの田舎臭いポポロ村を、俺のユニークスキル【爆炎帝】でどこまで燃やせるか検証してみたー! リスナーのみんな、チャンネル登録と高評価、よろしくな! おっと、スパチャもバンバン投げてくれよ!』
男が指を鳴らすと、手元からボウッ!と巨大な火球が生まれ、近くの納屋を吹き飛ばした。
舞い上がる火の粉。逃げ惑う村人たち。
男の視線の先には、空中に半透明の『コメント欄』が浮かび上がっており、猛スピードで文字が流れているのが見えた。
『草』
『やれやれー!』
『田舎村焼却RTAキター!』
『勇者ゼロス様のチャンネルから来ました』
……なるほど。最近問題になっている、ゴッドチューブの『迷惑系配信者』ってやつか。
あのアホみたいな魔力出力。おそらく転生者か、どこかの悪徳神からチートスキルを授かった違法契約者だろう。
「……定時退社は諦めるか」
俺は椅子から立ち上がり、椅子の背もたれに掛けてあった防刃ベストを着込む。
そして、交番の奥にある武器庫の鍵を開け、漆黒の銃身を持つ相棒――『魔改造M870ショットガン』を引っ張り出した。
ガチャキッ。
手慣れた動作でポンプアクションを引き、薬室に『非致死性(ただし死ぬほど痛い)ゴム弾』を装填する。
前世で過労死し、異世界で伯爵家の三男に転生した俺は、授かった【犬のお巡りさん】というハズレ(と勘違いされた)スキルのせいで実家を追放された。
だが、このスキルはただのハズレではない。
ルールを破ってイキり散らすチート野郎どもを『合法的に』沈めるための、宇宙最強の管理権限だ。
俺は警察手帳をポケットにねじ込み、ショットガンを片手に交番を出た。
「おい、そこの金髪」
村の広場で次なる火球を練り上げていた男が、俺の声に振り返る。
「あぁ? なんだお前。見ない格好だな。村の自警団か?」
「ポポロ村駐在所、巡査長のリオンだ。お前、自分が何をしているか分かっているのか。建造物等放火、器物損壊、および村人への傷害未遂。いますぐ魔力を納めて投降しろ」
「はっ! 警察だぁ? ウケる! おいリスナー、なんかコスプレした田舎の自警団が出てきたぜ!」
男は腹を抱えて爆笑し、撮影用の水晶を俺に向けた。
「いいか、俺はチャンネル登録者数50万人、『勇者ゼロス』様の舎弟でもある配信者様だぞ! 俺の【爆炎帝】のスキルは、神から貰った規格外のチートなんだよ! お前みたいな雑魚が束になっても――」
「警告はしたぞ」
俺はため息をつき、ポケットから黒い革張りの『警察手帳』を取り出し、バシッ!と男の目の前に突きつけた。
「公務執行妨害により、現行犯逮捕する」
その瞬間だった。
男の頭上に、突如として禍々しい『真っ赤なシステムウィンドウ』がホログラムのように展開されたのだ。
『※警告:重大な規約違反(コンプライアンス違反)を確認』
『※対象のユニークスキル【爆炎帝】を、大宇宙管理局の権限により一時凍結(BAN)します』
「は……? え……?」
男の手元で燃え盛っていた直径3メートルの巨大な火球が、シュルシュルと音を立ててしぼんでいき――ポンッ、と情けない音を立てて、ただの線香花火のような火花に変わって消滅した。
「な、なんだこれ!? 俺の魔力が……! 俺のチートが使えねぇ!? おい、どうなってんだよこれ!」
男は必死に両手を振るが、火の粉一つ出ない。
空中に浮かんでいた配信コメント欄も、『※この配信は管理者によって強制停止されました』という文字と共にブラックアウトして地に落ちた。
俺のスキル【犬のお巡りさん】は、宇宙の法と秩序を守るための絶対権限。
警察手帳を突きつけられた相手は、いかなる神が与えたチートであろうと、その能力をシステムごと『凍結』される。
つまりコイツは今、ただの派手な服を着たヒョロガリの一般人に成り下がったというわけだ。
「さ、最強のチートが……なんで……っ!」
「能力を剥がされたら、何も残らないスッカスカの張り子。お前みたいな連中は見飽きてるんだよ」
俺はパニックに陥り腰を抜かしている男の眼前に歩み寄り、冷たい銃口をそのみぞおちに押し当てた。
「ひっ……! ま、待て! 俺のバックには、登録者100万人の勇者ゼロス様が――!」
「関係ない。ここは俺の管轄だ」
ズドンッ!!!!
鼓膜を破るような発砲音と共に、ゴム弾の強烈な運動エネルギーが男の腹を的確に打ち抜いた。
致死性はない。しかし、内臓がひっくり返るような鈍痛に、男は「ごべっ!?」とカエルのような悲鳴を上げてその場に崩れ落ち、胃液を吐き散らしながら悶絶した。
「あーあ、制服が汚れちゃったじゃないか」
俺は白目を剥いて痙攣する男の手を後ろ手に回し、銀色の手錠をガシャリと冷酷に掛けた。
「ほら、立て。署(交番)まで同行願おうか」
「あ、あう……がはっ……」
「安心しろ。取り調べの前に、美味い出前のカツ丼くらいは奢ってやるよ」
夕日に照らされるポポロ村。
こうして俺の、平和で憂鬱な残業(取り調べ)の夜が幕を開けたのだった。




