77 検査終了
小休憩を挟み、ポレットの機嫌も直ってきたところで別の検査を再開することとなった。
簡単な検査が続き、順調に進めた後、魔法使いが言う。
「あとは魔法を使う際の調査になりますので、さすがにこの時は師であるテオドールに来ていただきましょう。普段、魔法を使う際の問診もしたいですし」
「……改ざんの心配はいいんですか」
「兄君は聡いですね。魔法行使中の異変は必ず気付きますから、問題ありません」
「そっか」
みんなが見守る中で検査をするため、さしものテオドールでも改ざん出来ないということだ。
もちろん、そんなことはしないと信じてはいるが……正直、味方であるはずのリグでさえ、いざという時はやってもおかしくないな、と思う。
だからこそ、問題ないと聞かされてリグはついホッとしてしまった
「カオン、なかまはずれ……?」
「うーん、そうなるな」
たしかに、ここにテオドールを呼んだら仲間たちの中でカオンだけが待機することとなる。ただ待つだけというのは検査を見守るよりきついかもしれない。
カオンのために心を痛めるポレットは、とても心の優しい子に成長している。リグは、あとでカオンにも教えてあげようと思った。
「僕が必要だって? 助かるよー! 暇で暇で仕方なかったからさ! あと少しで魔法の実験するとこだった」
「呼んでおいて大正解だな」
「やだな、モッシュ! 冗談だよ!」
もちろん、冗談には聞こえない。この場にいる全員が安堵の息を吐いた。
だが、リグとしては国王の前でまで態度を崩さないテオドールにヒヤヒヤしっぱなしだ。
この国にとどまってほしいと言われているテオドールでなければこんな態度は取れない。国王自身も特に気にしていない様子ではあるが、庶民のリグには胃が痛かった。
そうこうしている間に、ポレットの魔法行使による検査と調査が始まった。
問診では、ポレットの夢について何度も質問された。
テオドールは包み隠さず説明したし、ポレットやリグも話を聞かれた時は同様に嘘偽りなくそのままを伝えていく。
話を聞いていた国王は終始難しい顔を浮かべており、何か思うことがある様子だ。
すでにモッシュから仄めかす程度の話を聞いていたはずなので、伝わってきた歴史との違いに衝撃を受けているのかもしれない。
無理のないことだ。他でもない歴代の国王が代々この真実を隠蔽していたのだから。
(でも、信じてくれるんだな。少なくとも表向きは。これでもしこの人まで隠蔽するようなことがあったら……)
これまでの言動からして、目の前の国王は歴代の王たちや最初に会った貴族と違って理解があるように見える。
むしろ、こちらの味方をしてくれているような気さえしていた。
だが、その心情まで推し量ることは出来ない。
国にとって不利な情報であったら、結局同じように隠蔽という手段を取るかもしれないのだ。
国王の考えを読もうなど浅はかな考えだとわかってはいるが、リグの不安が消えないのはそういった理由からだ。
ただ、信じることしか出来ないのは歯痒いものだった。
◇
「全ての検査が終了いたしました。お疲れさまでした。結果は後程、お伝えに参ります」
「それはやはり時間がかかるか?」
「えっ、そう、ですね。夜中になってしまうかと」
モッシュの質問に、魔法使いは考えながら答えた。場合によっては深夜になりかねない。そうなるとポレットの体力的にきついかもしれない。
このまま王城で待つとなると、さらに負担がかかるだろう。
リグがそんな心配をしていると、国王が声をかけてくれた。
「モッシュよ。仲間たちも共に食事を城で摂っていくといい。用意させよう」
「し、しかし」
「どんな結果が出ようが、知らせる約束であろう。モッシュ、私はな……」
国王は一度そこで言葉を切ると、周囲を一度見回してからポレットとリグに視線を向けた。
「子どもたちに、王城では大変な思いをした、という記憶だけを残したくはないのだ」
国王の目は、どこか懇願するような色を宿しているように感じた。
(ああ、そうか。この人は……国を、そこに住む人たちを本当に大切に思っているのか)
たとえ厄災の魔女かもしれない疑いがあろうと、ポレットはこの国の大切な民の一人。
特にポレットは、魔力や夢のことさえなければただただ純粋で魔法の才がある優しい子ども。
今の状況に、国王自身も心を痛めていたのだ。
(モッシュが、この人は信頼できるって言ってたのはこういうことだったのかも)
本当の意味で理解できたのは、今この瞬間だったかもしれない。
「結果次第になるが、一泊していっても構わぬ。気が休まらぬというのであれば、宿に戻るといい」
「お気遣い痛み入ります」
モッシュに向けてそう言うと、国王は退室すべくドアのほうへと向かう。
すれ違いざまに、ポレットが控えめに声をかけた。
「おーさま……?」
「ポレットよ、今日はよく頑張ったな。また会おう」
国王は最後にそう告げて優しく微笑むと、護衛騎士を引き連れて今度こそ部屋を出ていった。
続いて魔法使いたちも部屋を出ていくと、誰ともなくため息が漏れる。
全員がずっと緊張していたのだ。
唯一、態度が一切変わらないテオドールが、両手を頭の後ろで組んで呑気な声を出す。
「で、この後はどうする? リーダー」
「どのみち、結果が出たらまたここに戻ることになる。お言葉に甘えるとしよう」
「一泊するってことぉ?」
「そうだな。どちらにするか迷うくらいなら、泊らせてもらうか」
緊張はするけど、何度も移動するよりはきっといい。
それに、どのみち結果が出るまでは心も落ち着かないのだ。それなら、すぐに知らせてもらえるここに泊まるのが一番良いだろう。
(少し前だったら、王城なんか絶対に泊まるもんかと思ってたのに)
それもこれも、国王が信頼に足る人物だと思えるようになったからだろう。
もちろん、完全に油断するわけにはいかないが。
「荒事になっても、王城ならちょっとやそっとじゃ壊れないから僕も賛成」
「壊すようなことをするなよ。考えもするな」
「えー、想像することまで禁止しないでよー」
しかし、テオドールからは斜め上からの意見が飛ぶ。
とんでもない発想ではあるが、あまりにもテオドールらしい発言に、リグもようやく吹き出して笑えた。




