13.急転
今回は展開の都合、短くなります。
――城壁宿が深夜を迎えた頃。
留め置かれた客達の幾人かは部屋で眠り、あるいは明日の準備をし、他の大多数はお決まり通り酒場でまだ騒いでいた。
そこへ突然、闇をつんざくような女の悲鳴が響く。気づいた者はぎょっとして、声の聞こえた城壁の外側に顔を向けた。それから幾拍、間を置いて。べしゃりと何か重たい水っぽいものが潰れる音が、緊張のしじまを破って地の底から響いた。遠く……軽く。
聞いた誰もがまさかという顔で、凍りついた。
二階の酒場も、例外ではない。
小さな穴窓が外へとふたつきり開いていて、喧騒の中にも悲鳴は届いた。何事かと幾人かが顔を上げた途端、続く不気味な音がして、辺りが静まる。
ダリバは一瞬で酔いが冷め、窓際へと寄った。
見下ろす先は暗い。僅かに窓から漏れる光では、地上には届かず、闇の底に何が沈んでいるかは見えない。下の一階は巨大な城門を持つ分、恐ろしく天井が高いからだ。
城壁宿の女といえばまず娼婦だ。しかし、それにしては声が若かったような?
ここに留め置かれるのは領地外の旅人だが、うち女は少ない。郊外には夜盗も多く、旅は危険が過ぎるからだ。また近隣の野菜の行商女などは、大抵通行証を持っており、宿に泊ることはまずない。決め付けるのは早計だが、もしもさっきの悲鳴が娼婦でなく、宿に珍しい女客とすれば……ダリバ達が連れてきた一人を除いて、恐らく他にない。
嫌な予感が背筋を這う。その時は、彼らにとって拙いことになる。
仲間が顔を見合わせる中、リジムがふいに腰をあげ、階段の方へと足を進めた。
と、その階段から年寄りの叫びが転がり落ちてくる。
「誰か。ああ。窓から見えたんじゃ……赤い……何かが落ちた。人かもしれん!」
酒場は騒然となった。