14.協議01
ウワー!お気に入り登録100件、有難うございます。
(瞬間最大風速だったら後で前書き消さねば・笑)
素直に嬉しいです。ですがちっちゃい人間なのでプレッシャーでもあります。とにかく完結目指して地味に頑張ります。
「で、これからの相談の一番先は、儂等の目的をどう置くかじゃな」
エンは杖に顎を乗せて椅子に腰掛け、コナはちょこんと寝台の上に身を起こし、イェドは壁に凭れて立っている。
再び灯りのついた部屋で三人の影がゆらゆらと揺れた。
「うちは、命が助かれば」
「……」
視線に促されておずおず言うコナに、そりゃずいぶん遠慮したのとエンは苦笑する。
「本当は、早く村に帰りたいとか色々あるじゃろ? とはいえ状況が状況、ひとまずはそれが先に来るのは確かか……儂らも嬢ちゃんを助けるからにはそれなりの覚悟がいる。するつもりもある。が、三人が無傷に済むのが何よりじゃ」
師の言葉に、イェドも小さく顎を引いた。
エンはそれほど人が良い男ではないのだが、弱い者が虐げられるのだけは徹底的に嫌う。そういう場に行き逢えば必ず嘴を挟む。常にそれを治めるためにこき使われるのはイェドなのだが、半分同調、半分諦めで付き合うのにも慣れた。今回はここの領主が絡んでいる気配もあり、危険な橋を渡る事にはなるが、権力者に楯突くのもこれが初めてではないのだ。ただし納める土地において地方領主は法であり神にも等しい。都住みには分からない感覚だが、その事は肝に銘じる必要がありそうだ。
「あらためて。厚かましいけど、どうかうちを助けてください。でも坊(ぼん)さんらが危ないことはせんでええです」
頭を下げるまだ幼げな娘に、その三倍の歳を経たエンは、珍しく居心地の悪そうな顔をした。
「ま、これも修行の一環じゃて。な、イェドよ」
「……はい」
一度自分の手で助けた相手を見捨て、無法者に引き渡す選択肢は、イェド自身にもない。
さてとエンは話を続ける。
「嬢ちゃんは誘拐されて来て、明日には殺すと聞かされた……例えそれがタチの悪い嘘でも、街で愉快な目に会うことはないじゃろう。それから根性で閉じこめられた部屋から逃げたが、まだここは同じ城壁宿の中。いずれは上の部屋が空とバレて、誘拐犯らが探しに来る。今夜だけ逃げて済むなら、ここでじっとしておるのも手だが、これが明日いっぱいとなるもうと難しいじゃろう。儂らがこの部屋に居れるのは明日朝までだし、幾ら酷い従業員でも、客室の片付けぐらいには来るからのう。だいたいこの宿に一生隠れてもおれん。いずれは抜け出す算段が必要になる」
「……動くなら急ぐほうが良いかと」
「うむ。が、嬢ちゃんの身体は可哀想にフラフラじゃ。その足では逃げるにも限度がある」
「大分、気分は良うなって来ました。歩くんは出来ます」
「いざとなれば頑張ってもらうぞ。ああ、ここでついでに他の手を潰しておくと、嬢ちゃんが純潔でなくなるとか、選ばれた理由を突き止めてなんとかする手は不確実だから止めんか。例え条件を消したとしても、八つ当たりで傷つけられる可能性は十分にある。やはり逃げるが勝ちじゃな」
当然といえば当然の流れに、イェドとコナが異論を挟まないのを見て、エンは指を三本立てた。
こんな時にもどこか大げさで芝居がかった仕草は、余裕があるのか人を食っているのか微妙なところだ。
「逃げるとなれば、じゃ。大ざっぱに言って儂らの行く先は三つある。一は城壁の外。二は城壁の内」
「三は?」
「上じゃな」
杖で天井を指したエンに、怪訝な顔をした残る二人の視線がちらりと交わる。
「ん? もしかして分からんのか。まったくこれだから平和ボケした若造はいかん。城壁とは街の護り。普通、屋上は見張りの歩兵が周れるようにしておる」
考え込んでから、コナが未だに枯れた喉で小さくでも、と言う。
「屋上へ行くには五階を通らんと。屋上への通路がどこか分からんし、五階の部屋の前には見張りがおったと思います」
「うーむ。ま、この道は降りる時も問題があるじゃ。別の城門まで行けばいいのかとか、何にせよ城壁の造りが分からんのは痛い」
「……同じ意味で、城壁の内側も難しいでしょう」
「城壁宿なら、窓や何やは密入国用に塞がれておるだろうしの。ただ従業員用の通用口なんかはあるじゃろう。イェドがちょいと流し目で宿の姐さんを誑かせば、簡単になんとかなる気もするが」
「……師」
「オマエの童貞はとにかく、この案は巻き込む姐さんに悪いのが難点じゃな。さてもう一つの案は、外。これが一番素直じゃな」
エンは先ほど寝台から引っ張り出した、コナの命綱に目を眇める。
「城門が閉まっている以上は、嬢ちゃんのように窓から降りることになろう。だが、この綱はもう駄目じゃな」
結んだ寝台の掛け布は荒い繊維が延びて、千切れた部分以外も相当脆くなっている。
「上の部屋も案外設備が貧相だの……しかしなんでコレは、湿っておるんじゃ?」
「結び目を盥の水で湿らせました。上手く結べんかったから、解けんようにおもて」
不思議な顔をしたエンに、コナが説明する。両手が縛られまともに動かないために取った、苦肉の策だった。
なるほど水に濡れた結び目は解けにくい。しかし綱自体が重たく痛み易くなるため、工夫が良かったか悪かったかは分からない。
「それはまたよく考えたの……ま、綱は他になんとかするにしても。イェド、まずオマエはその窓から出られんじゃろ?」
師の指摘に、イェドは黙ったまま窓際に寄った。
部屋に開けられているのは正方形に近い小さな窓だ。コナを夢中で引っ張りあげた際にも小さいと思ったが、改めて潜れるか観察すればさらに狭い。ここは四階、戯れに試す気は起こらないが、長身で大柄のイェドの身体を通すのは難しそうだ。エンであれば抜けられそうだが。
「……」
枠の手応えのない闇、地上への底の深さ。後ろに座っているコナが、さっきここにぶら下がっていたのかと思うと、その蛮勇に肝が冷える。
そんなイェドの気も知らず、コナはエンに向かって真面目な声で説いていた。
「男のひとは大抵、肩幅さえ通る場所なら潜れる言いますけど……お弟子さんにあれは、難しそうや」
「ほーお。おなごは違うんかのう?」
「うちらは肩が入ってもお尻がつっかえます。子供の頃ようそんな遊びしたんですけど……都のほうではせんのですか? 洞窟や家の隙間なんかに入って、宝探しごっこするん」
振り返ったイェドとエンは顔を見合わせ、お互い経験にないことを確認した。
コナは心底不思議そうだがそもそも都の近場に洞窟などないし、貴族の感覚で言えば、そんな危なげな事をする娘はお転婆どころの騒ぎではない。
「そういえば。嬢ちゃんの言葉はこの辺りのものではないようだが、母親が余所の人なんかのう?」
「ううん違います。うちの村、爺ちゃんの時代に入植でまるごとこっちに移って来たんです。偏屈もんばっかで言葉も変えんし、新しい領地はほんまに山奥やし、未だに麓の村とは仲が悪いくらい」
話が逸れてきたため、イェドは嘆息して釘を刺した。
「……師。コナ」
ぴっと二人が姿勢を正す。
「ああ、ああ。そうじゃな。しかしオマエは窓から出られんか……どの案も、すんなりとはいかんのう」




