表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山、買いました ~異世界暮らしも悪くない~  作者: 実川えむ
新たな住人たちと初秋を楽しむ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

270/978

 <エイデンとレディウムス>

 目の前の品物を一つ一つ手にしながら、目をキラキラしながら見ている五月。

 その様子を目を細めながら見守るエイデン。


『エンシェントドラゴン殿は、ご覧にならないので?』


 五月たちには聞き取りにくい音域のハイエルフの古語で、レディウムスはエイデンへとこっそりと声をかけた。


『フンッ。まさか、ハイエルフがこんな所にまで出張ってくるとはな』

『……レィティア様から最初話を聞いたときには、何の冗談かと思いましたよ』


 レディウムスは優しい眼差しで五月の様子を見つめながら、言葉を続ける。

 稲荷の妻、レィティアはエルフの集落で、ハイエルフの血筋を受け継ぐ名家の一人娘であり、レディウムスの主筋にあたる家でもあった。ちなみに、エルフの集落は、ビヨルンテ獣王国の中でも最大の魔の森の奥にある、『幻惑の森』と言われる場所にある。

 

『我々、グルターレ商会は、本来はエルフの血筋の者としか商売をいたしません』


 姿を偽り、各国に根を下ろしている商会と商会の間を渡り歩くのが、彼らの仕事だった。


『しかし、来てみれば、ユグドラシルがあったり、エンシェントドラゴン殿がいたりと、予想もしておりませんでしたわ。それに、この精霊の多さ。本当に、ここが人族の地かと思いましたよ』


 そして彼の視線は、ガズゥへも向けられる。


『その上、フェンリルの血筋まで』

『……お前たちは帝国にも根を広げているのか?』

『あちら様はねぇ。厄介な魔道具などもあって、さすがに店までは構えてはおりませんよ』

『でも、行商はしていると』

『それが、我らの仕事ですから』


(エイデン、ばあちゃんが泣いてる!)


 いきなり、ユグドラシルの叫び声がエイデンに届くと同時に、レディウムスにも聞こえた。


(ぼくのきょうだいが、また、きりたおされたって!)


『それは、どこのだ』


(人族の魔の森)


『魔の森と言っても、大小、複数ありますよ』

『西か、東か』


(東)


『東となると、帝国でしょうか』


(兄弟で残っているのは、ばあちゃんのところにいる小さい弟たちだけだ)


 このユグドラシルも、元は帝国の南にある比較的小さめな魔の森にあった木であった。それを伐採しようとしてたところを、エイデンがかっぱらってきた。

 ユグドラシルの言う『ばあちゃん』は、北の地……それはエイデンが眠りについていた土地の、もっと奥。普通の人が辿り着くことは叶わない、最悪の地にある。よっぽどのことがない限り、人の手によって切り倒されることはないだろう。


『あいつら……精霊の宿り木を、簡単に切り倒すとは』

『もう、それを知っているのは、我々、エルフくらいです。彼らにはただの木材にしか見えないのでしょう』

『ユグドラシルだぞ!?』

『それを知り、見分けられる者は、今ではエルフくらいしかおりませんから』


 ユグドラシルは、自分の力を分け与えるに値する者にだけ、ユグドラシルとしての姿を表し、力を分け与えると言われている。

 それ以外の者には、ただの『木』でしかない。そして、切り倒されてしまえば、本当にただの『木』になってしまう。


『まったく。おれはユグドラシルだ! と、思い切り主張すればいいものを』


(それは、おばあちゃんに言って)


「まったく……五月!」

「うん?」


 芋を両手に持ち、見比べていた五月に、エイデンは声をかける。


「まだ、木材は必要なんだよな」

「うん、全然足りない」

「よし、ちょっと、トッてくるわ」

「……よろしく」


 彼の『トッてくる』の意味を想像し、エイデンだしね、と諦める五月。


『お気をつけて』

『……下手をするなよ。五月にはイグノスがついてるからな』

『!?』


 胡散臭い笑みを浮かべていたレディウムスの顔が、一気に青ざめたのを見て、溜飲が下がったエイデン。

 ニヤリと悪い顔をしたかと思ったら、一気に大きな古龍の姿に変わり、大空を飛んでいく。


「まったく……最後に、とんでもないことを(しかし、神に連なる者ですか。これは貴重な縁になりそうですね)」

「うん? どうしました?」


 今度はかぼちゃのような物を手にしながら、レディウムスに声をかける五月。


「いえいえ、もしよろしければ、こちらのボドウリなどいかがです?」


 内心、ワクワクしながら、商売人の顔に戻るレディウムスなのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ