第131話 異世界仕様な種に驚く(稲荷さんが)
あんなデカいのが飛んでくるなんて、山自体が潰れそうじゃん。
「でも、ノワールが来るかもって言ってたんですよねぇ?」
「え、ええ」
「じゃあ、ノワールに古龍様に伝えるように言ったらいいじゃないですか、大きい身体で来られたら困るって伝えてって」
「は?」
「だから、大きい身体で来られたら、家にあげませんよって伝えれば?」
「……それって、身体の大きさ、変えられるってことです?」
「まぁ、古龍って言うくらいですし、魔力駄々洩れするくらいですし、できるでしょ」
……いやいや、知らんがな。
異世界の常識なんですか、それは。
とりあえず、戻ったらノワールに、古龍に小さいサイズで来てください、と伝えることにした。
帰り際に、稲荷さんからは、なぜか壺に入った梅干しを貰ってしまった。なんでも、農作業に手伝いにいった老夫婦から分けていただいたのだとか。この梅干しの種で、梅の木を増やすのもいいかもしれない。
「ありがとうございます。これで、梅の木が増やせそうです」
「……はい?」
「一度試しにって、梅干しの種で苗ができたから、敷地に植えたんですよ。そしたら、この春に梅の実まで生ったんで、もう少し増やしてもいいかなぁ、なんて思ったんです。でも、新しい梅の実は、これから梅シロップ作るから、種を取り出すのは、もう少し後かなぁ、と」
「……いやいやいや」
「?」
「普通、梅干しの種から、芽でませんって」
「はい?」
「いやぁ、梅の木なんてありましたっけ? 全然、気にしてなかったけど」
「ありますよ? 風呂小屋の裏手に」
「気付きませんよ! そんな場所!」
まぁ、確かに、風呂小屋の他に小屋が3つ(薪小屋・倉庫・車庫)も並んでいては、目につかないかもしれないか。
「でも、実が生ってますし」
「……はぁ(これは、あれか、元聖女ってのもあるのか? いや、あちら特有なのか?)」
「なんです?」
「いえ、あの、でも、本来ですね? 塩分のせいもあって育たないはずなんです。本来は」
「……異世界って凄いですね」
「……ソーデスネ」
もしかして、さくらんぼや柿の木も? ……と思ったけれど、言わないでおいた。稲荷さんが、すでに遠い目になってるし、アレもなんか言われそうな気がしたから。まぁ、さくらんぼはそれなりに花見も出来たし、実も生ってるし、よしとする。うん。
「それじゃ、軽トラ、お願いします」
「……ええ。いいのがあったら、ご連絡しますよ」
「よろしくお願いします」
私は、稲荷さんにそうお願いすると、軽自動車に乗って、あちら側へと戻る。
種の話をしたせいか、今日買った果物や野菜に種がないか、と考えてみる。
「種、種、種ねぇ~」
今日は気にしていなかったからなぁ、と思っていたのだけれど。
「あ! あるじゃん」
苺が。つぶつぶ苺の種があるじゃないか!
「いや、しかし、あれ、取るのめんどくさくないか?」
むーん、と思いながら、私は帰り道を急ぐのだった。





