第914話 山へ帰ろう
エイデンが戻ってきたのは、精霊王様にお願いした翌日の早朝。まさか、そんなに早く戻って来るとはと、ちょっとびっくり。
「南のほうに行ってたんじゃないの?」
起きて間もない私は、ログハウスの玄関先で大きなあくびをしながら、エイデンに問いかける。
「うむ。南のちょっと奥にいたんだが、五月が呼んでると言われたからな」
ニカッと嬉しそうな顔で言うエイデン。まるで大型犬のようだ。見えない尻尾がブンブンと振られている気がする。
私のほうもそう言われたら、まんざらでもない気分になってしまう。
ノワールはどうしたのかと聞けば、遅れて飛んでくるはずだ、とのこと。置いてきたのか、とちょっと呆れてしまう。
『こりゅうのぼうや、ひさしぶりだねぇ』
ユグドラシルのばあ様の、のんびりした声が響く。
「ばあさんも、あいかわらずデカいな」
『ほお、ほお、ほお』
気安い感じのやりとりに、二人(?)の関係の良さが伝わってくる。
「で、どうした? 村に戻るか?」
「うん、そう。そろそろ、あっちにも行ける時期だし、買い出しにも行きたいんだ」
ついでに『転移用の部屋』を稲荷さんに相談したいとも思っているのだ。
「そうか。ウノハナたちはどうする?」
ログハウスの周りに集まってきたホワイトウルフたち。ウノハナたちも尻尾を振りながらエイデンのそばにやってきていた。
『わたしたちも戻るよ』
『えー、俺はもう少し、狩りをしたいー』
『……あんただけ残る?』
シンジュに冷たく言われて、ムクがしょげる。
他のホワイトウルフたちはウノハナの周りに集まっている。三つ子の中の力関係がはっきりした瞬間だった。
それでも、うじうじやっているムク。
「あー、エイデンだ。もう帰るの?」
「ああ」
「やったぁ!」
ログハウスから出てきた人型マリンが喜ぶ姿に、さすがのムクも撃沈。マリンも残るだろうとでも思ってたのかもしれない。
結局、ホワイトウルフたちは狩りをしながら村へと戻ることにしたらしい。どれくらいかかるんだろう、と少し心配になるも、この子たちが冒険者や魔物に負けるイメージはわかないので、大丈夫な気がする。
稲荷さんが『転移用の部屋』を了承してくれた時用に、ログハウスはそのまま残して、私たちは帰ることにした。
エイデン航空は今日も順調。その日のうちに村まで戻ってくるとは、どれだけ飛ばしたんだよ、と思うくらい。
日が暮れる前に、山のログハウスの前に馬車を下ろしてくれた。
「おかえり~!」
まさかのちびっ子ノワールが嬉しそうに待ち構えていて、驚いた。
ノワールは途中でエイデンが山に戻っているのを察知して、先に山のログハウスへと方向転換したらしい。さすが、というべきなのだろうか。
久しぶりに戻ってきたログハウスの周辺は、すっかり春の気配。
「え、桜の蕾が膨らんでる!?」
花見をする時期には、まだまだ早いはずなのに、気候がよかったのか、暗くなってきていてもわかるくらいに、蕾が膨らんでいるのだ。
これは今年の花見は早くなるかもしれない、と思った私であった。





