第913話 ユグドラシルのばあ様(2)
私はユグドラシルのばあ様に許可を貰ってから、彼女の木の根本近くに、ログハウスをタブレットの『収納』から取り出した。
ログハウスの側で真上を見上げる。太い枝がはっていて緑の葉で覆われているせいで、完全に空は見えない。
しかし、そろそろ午後のお茶の時間。折り畳みのテーブルと椅子も出して、私は一休みすることにした。
足元にはホワイトウルフたちと聖獣バスティーラの姿のマリンが寝ている。
風の精霊王様は、エイデンを呼びに行っている。私の仕事が終わったので、村に戻るためだ。南の国のほうは大丈夫なのか、少し心配ではある。
「ここにも『どこ〇もドア』があれば、移動が楽なんだけどなぁ」
思わず言葉が漏れる。
エイデン温泉へ行くためのドアが立ち枯れの拠点の小屋にある『転移用の部屋』と同じ物があれば、移動はかなり楽。
しかし、アレは稲荷さんにお願いして作ってもらっただけに、ここにもお願いするのは、難しい気がする。
でも、この獣王国の森への移動がしやすければ、オババさんたちの薬草採取もだいぶ楽になるはずなのだ。
ちなみに、一緒に来ていたオババさんたちは、だいぶ早い段階で、獣人の村の若手冒険者チーム、狼獣人のドゴルくんたちと一緒に戻っている。
さすがにエイデンはいなかったので、徒歩になっているが、ベシーちゃんとリンダちゃんを乗せたホワイトウルフたちもいたので、大丈夫なはずだ。
『「どこ〇もドア」とはなんだい?』
ユグドラシルのばあ様が問いかけてきた。
なので稲荷さんのことを話すと、『ああ、あのかみさまかい』と、ばあ様もご存知の様子。
「稲荷さん、ここにも来たんですか?」
『いや、うちのまごからきいてるのさぁ。ちょっと、こわいかみさまだってね』
「え、そうですか?」
『まぁ、かみさまだからねぇ』
私に怖いイメージがないのは、あまり神様な面を見ていないせいかもしれない。
『そんなべんりなものがあるなら、ときどきようすをみにきてくれるとうれしいんだが』
ユグドラシルのばあ様いわく、私が来てから、ユグドラシルの若木たちが元気を取り戻しているらしい。
どこにそんな木が? と思ったら、ばあ様の周りの木々の間に、ぽつぽつと生えていたらしい。
他の木々に紛れてしまって、全然わからない。
実際、巨大な木であるというだけで、目で見るだけでは特徴的な木でも葉でもないのだ。若木ともなれば、他の木々と大差がない。
だから、よその土地のユグドラシルの若木は、人々に気付かれることなく伐採されてしまうのだそう。
『でも、せいじょさまのうえてくれたこたちは、おもしろいほどそだってるねぇ』
私が植えたユグドラシルの苗木といえば、獣王国の近くの山や、『魔王の卵』を拾った帝国の森のことだろう。
ばあ様から見たら、孫の子供、いわゆるひ孫くらいな位置づけだろうか。
「そうなんですか?」
しばらく様子を見に行っていないので、今の状況はわからない。
『ああ、もりもりそだって、いるようだよ』
フフフ、と楽しそうに笑うばあ様に、私もホッとした気分になった。





