第909話 南の小国家連合
イグノス様に余裕がないとは、何が起きてるのか、と心配になるのは当然のこと。
『ん~、ちょっと休憩しながら話をしようか』
まだまだ土の精霊たちは追いついていないこともあり、じゃあ、せっかくだからと、タブレットの『収納』から、折り畳みのテーブルと椅子、それにお茶の入ったポットに、稲荷さん特製の煎餅を取り出す。
『おや、それは稲荷のかい?』
椅子に座った風の精霊王が、嬉しそうに言う。
「ご存知で?」
『稲荷の力を感じるからねぇ』
私には感じ取れないファンタジーな力でわかったようだ。
『さて、イグノス様のことだったね』
風の精霊王様が、熱いお茶に息を吹きかけながら話し始める。
『ほら、この森にあった犬獣人の村のこと覚えてるだろ?』
「はい」
元は老エルフにそそのかされた犬獣人たちが、精霊たちの力を奪って自分たちの生活を豊かにしてきていた。
ただ、その力というのは、犬獣人たちの村だけではなく、別の場所へと流れていくようになっていたという。
その別の場所というのが。
『南の荒地を覚えているかい?』
「ん? うちの山の川向うのことですよね」
『そうそう。その荒地の先にある、南の小国家連合のことは知っている?』
「あー、なんとなく?」
南というと、マカレナたちが苦労して逃げてきた場所だ。
その他にも、王太子が面倒な令嬢に絡まれたとか、カスティロスさんたちが大変な目にあったとか。あまりいい印象のない場所だ。
『巧妙なことに、精霊たちの力は、あそこの中心となっている国に流れていくようになってたのさ』
「な、なんで、また」
『荒地ということもあるから、犬獣人同様に土地をなんとかしようとしたのか、と思ったらさ、違ったんだ……精霊たちの力を使って、異世界からの召喚を行おうとしていたのさ』
「えっ」
風の精霊王様の厳しい顔で言う。
――それって、帝国でやってたのと同じ?
うちでゴロゴロしているセバスの姿が頭をよぎる。
『かの地には、今では精霊はいない。いたら、すぐに使われて消滅してしまうからね』
「そ、そんなにですか!?」
『ああ。我々、精霊王ですら、力を吸い取られる。火のが怒りに任せて突撃したら、国に近づいただけで、ゴッソリ持ってかれたそうだよ』
「ちょ、ちょっと、それ、かなりヤバいですよね!?」
『うん。ヤバい。だからイグノス様とエイデン、ノワールが向かったの』
すでに南の小国家連合では、召喚に成功しているらしい。
ドグマニス帝国では、召喚の実験はほとんど失敗だったそう。南との違いは、老エルフとの関わりだろうか?
『そうは言っても、中程度の魔物程度。それも、奴らは制御できないのだから、笑ってしまうよね』
召喚をしている場所が、小国家連合の南側にある仲の悪い国の近くらしく、そのたびに、隣国へと解き放っているらしい。
だったら、コントリア王国は大丈夫なのか、と思ったら、まだ、召喚できる環境が整っていなかったらしい。
あくまで『《《まだ》》』だそうだ。怖すぎる。
「そ、それって、どこ情報です?」
精霊たちが近寄れないというのだから、彼らからではない。
『イグノス様情報。もう、南側は異世界への穴だらけらしいよ。それを埋めるのと、繋がった先の世界とのやりとりで、イグノス様も大変でさぁ』
「え、じゃあ、エイデンたちは?」
『異世界からの魔物退治と、原因となった老エルフ探し』
「お、おお……」
なんか、知らないところで、大変なことが起こっていたらしい。





