第907話 精霊たちとさくらんぼの苗
ウノハナたちが魔物を狩りに行ってしまった。彼らの様子だとかなり大きな魔物のよう。
「大丈夫だとは思うんだけど……」
風の精霊王様とシンジュが残ってくれた。精霊王様がいるだけでも安全だとは思うものの、ここでさくらんぼの苗木の準備をしている間、周囲になんの守りがないのは、やはり不安。
タブレットで『タテルクン』を開き、ウッドフェンスを設置していく。
――前にウッドフェンス越しに、大きなオークと目が合ったしなぁ。
北の拠点近くでウッドフェンスを作っていた時に、初めて生きた魔物と遭遇したのを思い出す。その時は獣人たちとホワイトウルフたちに守ってもらった。
あの時の、ニターッと笑った顔は、今思い出しても、ブルッと身体が震える。
ウノハナたちの『デカいの』の大きさが予想できないので、それなりの作業スペースを確保した上で、一番大きいサイズのウッドフェンスを設置した。
『心配性だなぁ』
「いやいや、デカい魔物が見えるだけでも、怖いもん」
精霊王様は呆れるけれど、私の感覚はおかしくはないと思う。
安心した私はさくらんぼの苗木の準備を続ける。
『もう、おおきくしていい?』
『???』
『!!!』
「ちょっと待ってね~」
土の精霊たちのヤル気が凄い。
さくらんぼの種を埋めた黒ポットが、合計30個できた。『収納』にしまっておいた如雨露を取り出す。
「水をお願いできる?」
『まかせろ~』
水の精霊が嬉しそうに返事をすると同時に、空っぽだった如雨露の中に、水が徐々に増えていく。
「ありがとー」
『えへへへ』
水でいっぱいになった如雨露は、なかなかの重さだ。私はゆっくりとさくらんぼの種の埋まっている黒ポットに水をあげていく。
「じゃあ、芽が出るようにお願いできる?」
『まかせろ~!』
『!!!』
『♪♪♪』
黒ポットの周りをひょこひょこと踊る土の精霊たち。他の精霊たちも真似して踊っている。
ニョキッ
ニョキッ
ニョキニョキッ
「おお~!」
全部の種から芽が出て、スルスルッと伸びていく。全部が全部、伸びていく様子は、なかなか壮観。
だいたい膝くらいの高さまで伸びたところで、ストップしてもらった。
「ありがとう。凄いね!」
『えへへ』
『♪♪♪』
自慢げな精霊たちが可愛い。
「じゃあ、次は植えていくかな」
一旦、すべての黒ポットをはずして『収納』にしまい、まず1つを植えてみる。『ヒロゲルクン』で植えたい場所を整地して、そこに苗木を植える。
「お、おおお?」
整地した場所以外は黒ずんでいたのが、じわりじわりと黒みが消えていく。こんなに目に見えて効いてる感じだったろうか。
『ほほ~、さすがだなぁ』
セバスが生まれた『魔王の卵』が召喚された時、凄い瘴気を浄化した時にも、さくらんぼの木が活躍したけれど、黒い靄と黒い土地とでは浄化スピードは違うかな、と思ったのだけれど。
「……なんか、前よりも早くなってない?」
私が驚いている間に、苗木の周りでは土の精霊たちが踊り続けている。
『おおきくなぁれ~』
『おおきくなぁれ~』
『お、お、お~』
『ほ、ほ、ほ~』
小さな光の玉たちからも微かに声が聞こえてきた気がした。





