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04 バーンアウトの真実

 目を覚ますと、手首と足首に冷たい感触があった。バンドのようなもので体を固定されているらしい。身をよじってみたものの、拘束具はびくともしなかった。

 どうやら自分は、手術台か何かの上に寝かされているようだった。


 先刻、謎の白装束に焼かれた皮膚がひりひりと痛む。彼らに遼を殺すつもりはなく、あくまで身動きを封じるために炎を放ったようだ。多少の手加減はしてくれたのかもしれない。

 しかし、白装束たちはいかなる原理に則って無から火炎を生みだしたのだろうか。

 薄暗い部屋に、突然明かりが灯る。白く眩しい光に、遼は反射的に目を細めた。



「お目覚めのようですね」

 眼鏡を掛けた、痩せた男が遼を一瞥した。彼の後ろには、白衣を着た数人の男たちが従っている。彼らが何をする気なのか分からず、遼は漠然とした恐怖に襲われた。


「あんたたちは何者だ。俺をどうするつもりなんだ」

 手術台を取り囲むように立った男たちに、遼は強張った表情で問うた。眼鏡の男が束の間考え込む素振りを見せ、それから鷹揚に頷く。


「いいでしょう。どうせ君の記憶は改ざんされる。新しい人生を歩みだす前に、面白いことを教えてあげますよ」

 右手の指で眼鏡をくいと押し上げ、男は笑った。

「私たちは『バーンアウト』。簡単に言えば、異能力者の集まりです。もうすぐ君も、その一員となる」



「……異能力者だと?」

 聞き慣れない単語に、遼は眉をひそめた。

 だが、白装束の男女のもっていた力は、そうとでもしなければ説明がつかない。彼らは通常の物理法則を超え、何もない空間から意のままに炎をつくりだしたのだ。


「現在の科学技術を駆使すれば、人工的に異能力者を生みだすことも可能なんです。……あ、そうそう。私は宇野といいます。以後お見知りおきを」

 眼鏡の男が歌うように言い、部下に合図をする。白衣の男たちが遼へ近づき、無理やりワイシャツを脱がせる。上半身を裸にされ、遼は戸惑った。


「おい、何するんだ。やめろよ」

 彼の言葉を無視して、男たちは宇野の指示でてきぱきと作業を進めていく。胸に電極を貼りつけ、腕に何本かの注射を打つ。そして、宇野の前に手術用のメスを用意した。


「大丈夫。麻酔は打ちましたから」

 のんびりとした口調で言い、宇野がメスを握る。途端に強烈な睡魔が襲ってきて、遼は意識を保つのに必死だった。


「悪く思わないで下さいね。君のような一般人に詮索されて、私たちの存在が公にされては困るんですよ」

「……俺を、さっきの白装束と同じにしようっていうのか」

 絞り出した台詞に、宇野は軽く目を見開いた。

「察しがいいですね」


 さっき、宇野は記憶を改ざんするとか言っていた。おそらくあの男女も特殊な手術を受け、洗脳されてバーンアウトの操り人形にされたのだろう。

 そんなことをされてたまるか。遼は懸命に体を捻り、メスから逃れ、できる限りの抵抗を試みた。

「あんたらの目的は何なんだ。異能力者の仲間を増やして、一体何をしようっていうんだよ」


 たちまち白衣の男に押さえつけられ、元の体勢に戻されてしまう。宇野はその光景を、にやにやと笑いながら眺めていた。子羊を見つけた狼の目をしていた。

「主にパイロキネシスの使い手を増産し、さらに規模の大きな超災害を引き起こすことでオリジナルを発掘する。それがバーンアウトの使命です」


 彼が何を言っているのか、異能力について無知な遼には理解が及ばなかった。けれども、宇野が最後に言った台詞だけは嫌というほど呑み込めた。

「君のような一般人は今まで知る由もなかったでしょうが、十年前にファイア・ボムを発生させたのも、私たちの功績の一つです」


 衝撃で体が震え、怒りでおかしくなりそうだった。明日の天気の話でもするかのような口ぶりで、宇野はこともなげに言う。

「一気に広範囲を焼き払えるという点において、自然発火はきわめて効率的に命を刈り取れる。私たちは関東内陸部の各地で一斉蜂起し、輝かしい戦果を収めました」

「……ふざけるな」


 言いたいことは腐るほどあった。

 でたらめを言うなと叫びたいところだったが、宇野の言葉には有無を言わせぬ説得力があった。

事実なのだと認めるしかなかった。今目の前にいる男たちが、十年前の惨劇を引き起こし、数え切れないほどの犠牲者を出したのだ。

 そして、その死傷者の中には当然、相川壮一も含まれる。


「お前が……お前たちが、父さんを殺したのかっ」

 悲痛な叫びを漏らしたのと同時に、麻酔の効力が増してくる。眠りについた遼の肉体に、宇野が容赦なくメスを差し入れた。

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