12 対立
気づけば装甲車の側を離れ、我を忘れて駆け出していた。
石田の命令を無視するのには良心がとがめたが、しかし、事態を傍観することなどできなかった。
走りながら、自身の異能を開放する。常人離れした身体能力が発揮され、遼は一跳びで神谷の前へ降り立った。
驚いている彼を無視し、遼は走った。今にも引き金を引こうとしていた男を押しのけ、白装束たちから引き剥がす。
「やめろっ」
さすがに、普通の人間では今の遼の腕力に勝てない。男は後ずさり、迷惑そうに遼を見た。
「何だ、君は。仕事の邪魔をしないでくれないか」
「……仕事?」
沸々と怒りが湧き上がってきて、遼は神谷の指揮下にあった部隊を睨みつけた。今や、先ほどまでRELICSに対して抱いていた尊敬は失われかけていた。
「俺たちの仕事は、バーンアウトによる被害を止めることじゃないんですか。何で人殺しをしようとしてるんです」
「人殺しだあ? 聞き捨てならねえな」
何か言おうとした男を制し、神谷は遼へと近づいた。指揮していた立場として、自分が対応するつもりらしい。
品定めするように遼の全身を見て、神谷が鼻を鳴らす。言い分があるなら聞いてやるよ、とでも言いたげだ。遼は深く息を吸い込み、意を決して話し始めた。
「バーンアウトの構成員は、確かに人々を傷つける敵かもしれない。でも彼らは加害者でもあり、被害者でもある」
「ほう?」
神谷が眉をぴくりと動かす。構わずに遼は続けた。
「……俺はバーンアウトに捕らえられたとき、記憶を改ざんされる前に逃げ出すことができた。彼らはそうじゃなかった、というだけだ。彼らだって、元々は普通の人間だったはずだろう。それなのに命を奪うなんて、絶対に間違ってる。他に方法があるはずだ」
「新入りの言う通り、奴らもまたバーンアウトの犠牲者かもしれねえよ。だけどな」
有無を言わせぬ口調で、神谷が反駁を始める。一触即発となった二人を、他のメンバーたちは戸惑いつつも見つめていた。
「見逃せば、奴らはまた必ず人々を襲う。さらなる被害が出るんだぞ。お前の中途半端な優しさは、結果的に人を殺すことになるんだよ」
ベルトから吊るしていた拳銃を引き抜き、神谷は遼へと真っ直ぐに向けた。
「今ならお咎めなしにしてやる。そこを退け」
「嫌だと言ったら?」
金属の塊を見て、遼が半ば喧嘩腰に応じる。
「……こうするまでだ」
出し抜けに神谷が発砲し、銃弾が遼の腹へと命中する。彼がふらついたのを見て、福住がひっと悲鳴を漏らした。
しかし、相川遼は倒れない。奥歯を噛みしめ、その場に立ち続けている。
「なるほど。お前の耐火能力とやらは、なかなかのものらしいな」
自分が銃弾を撃ち込んだはずの箇所を見て、神谷がにやりと笑う。
制服の生地は破れているが、銃弾は遼の足元に転がっている。破れ目から覗く銀色の皮膚が、衝撃を受け止めていた。
銃は効かないと悟り、神谷が拳銃をホルスターへ戻す。代わりに右腕をすっと前へ出し、いつでも能力が使えるように構えた。
「どうしても上司の命令が聞けないのなら、仕置きが必要だ」
神谷が右手を突き出すのを見て、遼は軽く目を見開いた。
「……力づくで従わせてやる」
強烈な念動力が、彼を襲った。