13 逆転の奇策
「ど、どうしましょう」
福住は先ほどから、ずっとおろおろしていた。戦い始めた二人を前にし、助けを求めるように石田を見やる。
「そうね。少し様子を見ましょうか」
慌てふためく彼女とは対照的に、石田はひどく落ち着いていた。涼しい顔で状況を眺めている。
「何言ってるんですか。危険ですよ。今すぐ止めせないと」
わたわた両手を振り回し、福住はなおも訴えを続ける。リーダーが頼りにならないと悟り、やがて彼女の視線は一人の少女へと向けられた。現時点で、RELICS最強の異能力者と目される人物だった。
優亜なら、騒動を止められるかもしれない。そう思ったのだが、石田に制されてしまった。
「いいえ、構わないわ。相川遼……彼の実力がどれほどのものか、一度この目で確かめておきたかったの。今後の部隊編成のためにもね」
トラブル発生をも利用し、チーム全体の利益に繋げようとする。それが石田令香という人物だ。
火花を散らす二人の異能力者も、もちろん脅威になりうる。しかし、ある意味で一番恐ろしいのは彼女かもしれない。
そんなことを思い、はらはらしながら福住は成り行きを見ていた。
目に見えない振動が迫る。
咄嗟に両腕で体を庇い、遼は防御を試みた。制服の下の皮膚がシルバーへと変化し、強度をぐっと引き上げる。
束の間、凄まじい衝撃が遼を襲った。懸命に足を踏ん張ったものの、勢いに押されて一歩、また一歩と後退を余儀なくされる。
砂埃が巻き上がる。
霞む視界の先で、神谷は舌打ちしていた。
今の一撃を受けてターゲットが倒れなかったことは、今までになかった。相手の能力が特殊だったからとはいえ、その事実は神谷のプライドを傷つけていた。
「しぶとい野郎だ」
今度は両腕を前へ出し、精神を集中させる。かっと目を見開き、神谷が声を張り上げた。
「なら、出し惜しみなしだ。……粉砕術、『念動突破』!」
白装束たちに放ったものとは、また違った技。上から下ではなく、正面へ繰り出される衝撃波。
『神谷くんの異能は、レベル二の念力なの。手の動きに応じた方向から念動力をぶつけて、相手を攻撃できるんだよ』
あのときの、福住の言葉が助けになった。おかげで大体の攻撃方向を予測できる。
また同じ攻撃を喰らっては、ひとたまりもない。直感的に横へ跳び、遼は攻撃を躱そうとした。
だが神谷の技の射程は、遼の想像以上に広かった。横一直線に薙ぎ払うような、容赦ない一撃である。
回避動作も虚しく、不可視の衝撃波が彼の全身を震わせる。耐火能力を帯びた皮膚で守られていても、そのダメージは殺し切れなかった。
木造の家屋へ叩きつけられ、一瞬だけ意識が飛びかける。
呻き声を漏らしつつ、遼はどうにか体を起こした。全身が痺れるように痛む。レベル二の念力を操るという神谷の実力は、やはり伊達ではないようだ。
「……どうした。もう終わりか?」
数十メートルも離れた位置から、神谷が嘲笑を投げかけてくる。これほどの距離を吹き飛ばされたのかと改めて感じ、思わずぞっとした。もし皮膚を硬化させていなければ、今頃生きてはいられなかっただろう。
「まだだ」
荒い呼吸を整えながら、遼は力を振り絞り、立ち上がった。
バーンアウトの連中をためらわず射殺するなんて、自分にはできない。他の方法があるはずだ。それを認めさせるまでは、絶対に諦めるわけにはいかなかった。
(……何か、ヒントはないのか。あいつを倒すための攻略法は)
状況は絶望的なまでに不利である。
神谷の念動力は、並みの銃器と変わらぬ射程を誇る。一方で遼の能力は、皮膚をひたすらに硬くして耐久力を上げるというもの。つまり、接近戦で殴り合うのに適した異能であり、神谷のようなタイプとの相性は最悪レベルだ。このまま策もなく戦えば、遠距離から振動を浴びせられ続け、何もできないままゲームセットとなってしまう。
激痛が全身を駆け巡る中、遼は必死に知恵を絞った。
ふと、微かな違和感に気づく。
確かに、体が痛むのは事実だ。しかし膝より下、足首の辺りには全くといっていいほどダメージがなかった。ほとんど痛みがない。
その事実を元に、遼は一つの仮説を立てた。他に打開策は思いつかない。一か八かこれに賭けてやろう、と覚悟を決める。
歯を食いしばり、遼は走り出した。ただ真っ直ぐに、神谷の立つ場所へ向かって疾駆する。彼我の距離を詰めんと、全力で走る。
「何の真似だ?」
鼻を鳴らし、神谷が馬鹿にしたように獲物を見る。
「自分から死にに来るとは、とんだ大馬鹿者だな。頭でも打ったのか?」
再び両手を突き出し、勝利を確信した表情で彼は叫んだ。
「望み通りに消し飛ばしてやる。……粉砕術、『念動突破』!」
空気が揺らぎ、辺り一帯を振動が呑み込む。まともに喰らえば、遼はただではすまないだろう。
「相川君!」
福住の悲鳴が、山奥の村にこだました。




