ジョイスティック操船
コウはヴォイたちを引き連れて、工廠要塞地上部分にある、山岳内部の基地に上がっていた。
「この工場施設が立ち入り禁止地区だな。工廠要塞からの製造物はここから搬入する。工場そのものも稼働可能だ」
ヴォイから説明を受けながら、彼らは五人乗りの車で移動している。運転がヴォイ。助手席にコウ。後ろ三人が女性陣だ。
「あれが新しい船か。キモン級強襲型移動基地艦だっけ」
キモンとは古代ギリシャの人名と聞いた。
宇宙射出用のカタパルトに乗っている巨大な船は三胴艦と呼ばれるタイプだった。
主船体の左右の副船体と呼ばれる船体で支える形だ。
「アストライアより高さと幅はないが長さはある。最前線に乗り込んで拠点展開するための船だ」
「本格的な戦闘艦か。アストライアは工場詰め込んでいるもんな」
「資材置き場だけでかなり場所取ってるからな」
「見慣れない船が二隻もあるんだけど」
見慣れない船がキモン級の左右に一隻ずつあった。
こちらもカタパルトに乗せられている。
「ああ、あれか。アシアが権限範囲に余力があったから、小型の強襲揚陸艦もついでに二隻持ってきたっていってたぜ」
「聞いてないな。あれでついでって呼べるほどの小型なのか」
「四百メートルはあるな。シルエットサイズで考えると小型かもしれん…… アシアの考えはわからん」
「十分大きい!」
ランプウェイを使いキモン級に乗り込む。目的地の戦闘指揮所に入る。
『お待ちしておりましたコウ。私はディケ。アストライアと連動する管理AIです』
「アストライア本人とは違うのかな?」
『違います。私はAIとして独立しています。通信不可な場所や違う惑星の場合、自己判断が求められる場合もありますので。性能的にはほぼ同様。互いのバックアップ機能も兼ねていると思ってください』
コウ以外の全員が軽く息を飲む。これはアシアがそれほどの超高性能艦を持ってきたことに他ならない。工廠システムであるアストライアのAIを再現できたほどの性能だ。
「わかった。よろしく。ディケ」
『はい。私が主にこの艦と、山岳内部基地全体を担当することになります。まずはパイロットハウスへ移動してください』
パイロットハウスは、操舵室のことだ。艦橋内部に収められることが多い施設だが、宇宙艦なので船体に内蔵している。
大きな室内は全天周囲のモニタになっており、大きな舵と、コントロール・コンソールで操船するようになっている。
『コウはこの艦長室にお入りください』
指定された場所は小さなボックスになっており、MCSと酷似している。二人ぐらいしか入れないような狭さだ。
その中に入り、着席する。
大きなスティックが左右にあり、正面はタッチパネル式の画面になっている。
『この場所であなた一人で操船が可能です。そのジョイスティックを使ってください。現在武装はありませんが、全ての兵装もこの場所で使用可能となります』
「ジョイスティック? そんなので船が操れるのか」
思いもよらぬ言葉にコウが思わず叫んだ。
『二十一世紀のコンテナ船や客船ではすでにジョイスティック操船は可能でした』
「知らなかったよ……」
船といえば大きな舵を握るというイメージしかなかったのだ。
『ゲーム感覚でどうぞ』
「その一言いるのかな?」
相変わらずのAIジョークである。ディケの性格からして本気で言っているのかも知れない。
『この場所への入室権限はコウ及び艦長及び副艦長のみとなります。コウは艦長をしないと思いますので、権限範囲を広げています』
「それでいい。ありがとう」
さすがに艦長は柄じゃないと自分では思っている。それよりもシルエットに乗っているほうがいい。
『航行可能範囲はアストライア同様、宇宙、空中、海上、水中となります。基本運用は海上となります』
画面に様々な状況の具体図が示される。
『本艦はオケアノスに登録されていますが、傭兵機構にはまだ登録されていません。メタルアイリス合流の日に登録する予定です』
「了解」
『本艦を所有するほどの新勢力が現れた場合、人類側が混乱することになる恐れがあります。まずはアシア管理下で登録しておき、メタルアイリスの承諾を得て、所属艦となります』
「この規模の艦を持つアンダーグラウンドフォースはどれぐらいあるのかな?」
『ネメシス星系では二十隻確認されています。アシアにあるのは十二隻です』
「思ったよりあるな」
『一つのアンダーグラウンドフォースが複数所有しています。隣に置いてある強襲揚陸艦規模なら八十隻程度登録されていますね。アシアにあるのは五十隻程度です』
「アシアの比率高くないか?」
『ネメシス戦域の主戦場ですから。惑星エウロパは防衛主体。惑星リュビアは陥落状態です。おのずと活躍の場もアシアに求められます』
やはりアシアは危険な状態なのだ。惑星管理AIアシアの残りのデータも早く奪回したいものだ。
『大気圏外脱出はカタパルトを使用します。また、空へ射出も可能です。ただし、現在この周辺はストーンズの支配下にありますので、しばらくは海底からの出入りを推奨いたします』
「了解した。山岳基地ということから、ゲートは閉じっぱなしも可能なんだな」
『その通りです。防衛ドームと違い、自然野外エリアがありませんが、当施設は防御に特化しています。本来は地下工廠を守るための基地でもあります』
「二段構えの防御形態か」
『長期間の籠城も想定しています。稼働こそしていませんが山岳基地には居住区域や、整備工廠、食料プラント自体もあります。地下とは完全に独立しています』
「つまり、それだけ地下の工廠が重要だったと」
『その解釈で問題ありません』
アストライアが管轄している工場はコウの想像以上に重要だったらしい。
確かに地下施設は生きていて、地上部分は停止、放置という状態で全施設停止していた。いざとなれば地下工廠の戦力で戦えたのだろう。山岳内部基地も地下工廠もそれぞれAカーバンクルが備えられていた。
「ではディケ。キモン級の収容能力を教えてくれ。格納庫の寸法もかな。兵器開発のときに参照したい」
『了解いたしました。ではパイロットハウスにお戻りください。そこでご説明いたしましょう』
コウはパイロットハウスに戻り、そこで四人と共にキモン級の細かい解説を受けることになった。




