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ネメシス戦域の強襲巨兵  作者: 夜切 怜
ブリコルール

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規格外の非常識

 惑星アシアの傭兵機構本部は大混乱に陥った。

 オケアノスからの手続きがあったのだ。惑星間戦争のち、人類の量子データ化後に喪われたとされる強襲型移動基地艦キモン級一番艦の登録があったからだ。

 これほどの高性能艦は類を見ない。

 所有者はアシア直轄と表示されている。


 しかしアシア圏内の港を確認しても該当艦がいないのだ。

 未所属ならこの艦の所有を巡って戦争さえ起きかねないほどの、超遺物だ。未所属ではないがアシア直轄とはゆゆしき事態だった。


 アシアを救出したとされるメタルアイリスとストームハウンドの可能性が高い。早速駐屯地がある防衛ドームへ問い合わせをしたが、彼らは全軍出撃中らしい。

 全軍というところに嫌な予感がした。

 傭兵機構は各要塞エリア、防衛ドーム、独立施設など、全ての港や空港への確認作業に追われていた。

 

 そんななか、メタルアイリスとストームハウンドの全軍はコウに呼ばれ、指定された海岸に集結していた。


「そろそろ時間ね。全装備、全人員を伴っての集結依頼とは、コウ君のアジトに案内してもらえるのかな?」


 浜辺で海をみながらジェニーは面白がっている。隣にはブルーとリックがいた。


「この規模は輸送艦でも無理だろうからね。いくらコウ殿でも大規模宇宙艦を用意はできまい」

「前回の構築技士との交流作戦の成功報酬についての話もあるから期待するわね」

「コウ殿の力が増すのなら、我らにも喜ばしい」


 空を見ながら目を細めるリック。何か飛来する気配はない。


「あの人何を持ち出してくるか想像できない」

 

 ブルーの評価にリックも納得する。地底戦車を持ち出す男だ。


「通信ね。――彼らが到着するって。輸送機かな? 空に反応がない? 場所は合ってるわよね……」


 通信機を片手に話すジェニー。コウからの連絡があったようだ。


「連絡があったよ。もうすぐ到着するみたい。空ではなさそうね。陸路かな?」

「あの人、ちょっとおかしいから……」


 ブルーが海を指差した。ジェニーとリックがその先を見る。


 水平線から海を割り、巨大な船体が浮かび上がってきた。それは特徴ある三胴艦だった。決して潜水艦ではない。あらゆる領域で航行が可能な、宇宙艦に他ならない。

 船体が巨体すぎて距離感が狂うが、かなり沖のほうだ。

 三人は呆然としながら、その光景を眺める。


「ちょっと?」


 思わずリックがブルーに顔を向けて尋ねる。ブルーは視線を逸らした。


 船はまっすぐに彼らの方へ向かってくる。彼らの居場所から五百メートルほど離れた場所に船が乗り上げた。

 天を見上げるほどの大きさである。


「……はい。こちらジェニー。あ、了解。あ、はい。うんわかった。全軍、ハンガーキャリアーごとあの艦に乗れって? あ、そう。余裕よね……」


 声に抑揚がないジェニー。巨影を見つめる瞳は死んでいる。


「あの人、おかしいから」


 二度目を呟いたブルーの言葉に、二人は深く頷いた。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


 

 三人はアキに連れられ、戦闘指揮所に移動していた。

 隊員たちは艦内見学だ。宇宙艦に乗ったことがある者などそうはいない。


「よくきてくれた。ありがとう」


 コウは三人に礼を言う。隣ではアキが秘書代わりに立っている。アキは今日もスーツ姿だ。 

 皆に紅茶が出されている。


「話って?」


 挨拶もそこそこにジェニーが疲れた声を出す。きっとまた突拍子も無いことを言い出すに違いない。


「ジェニー。なんか疲れてない? メタルアイリスとストームハウンドが同盟を組んだと聞いてるからさ」

「実質的には我々がメタルアイリスに合流だがね。我々はもはや一つのチームだ」


 リックが補足する。ファミリアは主となりたがらない。メタルアイリスと共に歩むと決めたのだ。


「それなら話が早いな。お願いがあるんだ。俺たちをメタルアイリスに入れてくれないかな?」

「え?」

「前誘ってくれたじゃないか。だから。俺とヴォイとにゃん汰とアキ、そしてエメ。全員でメタルアイリスに入りたい。この艦や基地施設は使ってもらって構わない」

「……」

「たまに俺が依頼するかも。要塞エリアやアシア解放のさ。隊員からの依頼は別に構わないだろ?」

「……」


 静寂が場を覆った。

 破ったのはリックだった。腹を抱えての大笑いを始めた。


 ジェニーはうつむいて肩をふるわせて、小刻みに震えている。

 ブルーは黙って紅茶を飲んでいた。笑いを堪えているようだ。


「え?」

「……コウが悪いです」

 

 ブルーが冷ややかに告げた。


 ジェニーが顔を上げた。顔が真っ赤だ。

 つかつかとコウの元へ歩み寄り、つるし上げる。


「あんたねえ! これほどの戦力を持って入隊したいってどういうことよ!」

「落ち着こう」

「私達が! あなたの! 指揮下に入るの! あなたが代表!」

「ジェニー。落ち着いて。何を言っているかわからない」

「私には君の言っていることのほうがわからないがね。いや、言いたいことはわかるんだが」


 リックは笑いをやめない。ツボに入ったのだろう。


「第一この艦、どこの所属よ?」

「今はアシア直轄艦。今日登録したばかりだ。ジェニーの許可が降り次第、メタルアイリス所属艦にする予定だったよ」

「……」


 ジェニーが美しい顔をますます紅潮させる。

 ブルーもついに笑い出した。コウが初めて見る少女らしい笑いだった。


「ああ、もうだめ! リック。ブルー。説明してやって。このあんぽんたんに! 今の私じゃ無理!」

「コウ。ふふ。はーおかしい。ごめんなさい。こんなに笑ったの久しぶりで」

「俺には何がなんだか」


 大変なことをやらかしてしまったのは三人の表情でわかる。アキは無表情。何か知っているのだろうか。


「こんな惑星間戦争時代の超戦艦がいきなりアシア直轄で登録されて、次の名義がメタルアイリスに代わったら私達がアシア直轄軍ですって言ってるようなもの。いきなりトップクラスのアンダーグラウンドフォースです」

「うぅ。実際、アシアにもらったものだしなあ」

「ふふ。あなたは規格外の非常識です。あー、おかしい」

「アキ! 長い間眠ってたのはしってるけど、コウに常識ぐらい教えなさい!」


 アキは汗を浮かべながら無言でそっと目を逸らした。自覚はあったらしい。


「アキさん?」


 思わずアキのほうを見る。裏切られた気分だ。


「……ノーコメントで」

「まあまあ。いいじゃないか。合流するのは決定だ。あとは代表がコウかジェニーだけの問題だ。私はお断りだよ? 何せファミリアだから」

 

 リックが核心を突いてきた。にやにや笑っている。この状況を愉しんでいるようだ。


「それはジェニーが」

「コウ君に決まってるでしょ!」


 不毛な言い争いが始まった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



 助け船が思わぬところから入った。


『皆様。この艦のコントロールを担当しているディケと申します。今後ともお見知りおきを』

「ディケ」

「ディケ」

「ディケとは……」


 皆思うところがあったのだろう。同時にその名を呟いた。神話ではアストライアの別名でもある。


『メタルアイリスについてですが、代表である隊長はジェニー。副隊長がリック。コウは表に出ない、フォースの技術顧問のような待遇でどうでしょうか』

「技術顧問って俺が?」

『コウは指揮官には向いていません。部隊を率いるのはジェニーがよろしいでしょう。リック。二人のサポートをお願いします』

「了解した。副隊長ならば仕方あるまい。ディケ殿に頼まれて断れるファミリアなどいないがね」

「納得いかなーい!」

「諦めましょう、ジェニー。ディケのいうことは理に適ってます。コウは明らかに指揮官には向いていません」

「そうそう。俺は前線に斬り込むぐらいがちょうどいい」

「私だって前線出るんだからね? んもう。わかった。それで飲みましょう。ただし、コウ君。君はボス! 技術顧問って柄でもないでしょ! いいね!」

「なんだよボスって!」

「影の支配者然として構えてればいいの! あんたは。裏ボス!」

『エチゴノチリメンドンヤというものです。コウ』

「ディケ、たまに変なこというよな!」

『代表権決定完了。では皆様を基地へ案内しましょう』

「決まりなのか!」


 コウの抗議に誰も反応しない。決まったようだった。


「基地とかもまた凄いんじゃないでしょうね? この艦を収容できるんでしょ?」

「防衛ドーム以上の規模はあるけど、自然区画はないし、要塞エリアほどの大きさはない。宇宙射出用のカタパルトも完備され……痛い、ジェニー。頬つねらないで!」


 思わずジェニーの手が伸びる。両手でコウの頬をつねってきたのだ。

 穏やかに微笑んで見守るリックとブルー。関わりたくないような気配さえ感じる。


「あなたの目的は何? 世界でも征服するつもり?」

「アシアを助けてストーンズを壊滅させたいだけだ」


 それを聞いて、ふっとジェニーが肩の力を抜いた。


「オッケー、ボス。それがボスの望みとあらば。私は隊長として成し遂げましょう」


 目が笑っている。頬をつねるのはやめていない。


「はっはっは。ボス。君のジェニーへの無茶振りは凄いものだよ。多少はつねられなさい。そして私も副隊長として、目的に邁進するとしよう」

「ボスー。よろしくね」


 ブルーが手を小さく振っている。距離感が凄い。


「私達もボス呼びで統一しましょうか?」

「頼むからやめて。アキ」


 アキが真顔で聞いてくる。

 心からの哀願だった。


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