象徴の系譜
コウたちが王城工業集団公司から戻って間もなく、次は兵衛と話をすることになった。
TAKABA設立はコウ自身にとっても他人事ではない。
しかしその前にコウにはやるべきことがあった。
コウはアノモスとパルムをアストライアに招く。アストライアは傍聴に撤することにした。
「ビッグボス。あんたに呼ばれるとはろくな予感がしないんだが」
「アノモス殿。それは言い過ぎですよ。とはいえ同じく警戒はしているのですが」
苦笑しながらも同意の意を示すパルム。
「二人に相談があってね。少し踏み込んだ話になるんだが」
コウはかいつまんで、アシアの騎士という称号に関してとその候補がフラックであることを伝えた。
また最前線には高レベルの構築技士が必要になる可能性も考慮し、備えている前提を話す。
二人は納得して賛意を示す。
「フラックなら問題はないでしょう。彼はファミリアに育てられ、愛されている。何よりアシアの声を聞き届け、聖杯を使いこなしたのを俺は目の当たりにしている。彼以外にアシアの騎士という称号は考えられないな」
アノモスにしてもあの奇跡はマーリンの秘策であり、聖杯伝承を強めた効果もあったとはいえ、フラック以外に行えたとは思えなかった。
「俺としても賛成です。彼はビッグボスと同じくファミリアやセリアンスロープも分け隔て無く接してくれる人物です」
偏見と先入観が強い惑星アシアにおいて、ファミリアがヒトという大前提をもっている。アシア人としては希有な資質だ。
「賛成してくれて何よりだ。本人には伝えてある。勝手に後継者指名したら、俺なら嫌だからな」
「当然です」
「ええ。本人の承諾は必要です」
「そこでだ。二人にはフラックの護衛を頼みたい。もちろんあくまで俺に万が一があった場合の話なんだが」
「ビッグボスにもフラックにも手出しをさせません」
「アノモスの言う通りです。万が一など起こさせません」
「頼もしいし、疑ってはいない。しかし、だ。超AIの力は想像を絶する。現に二人のA級構築技士が魂を燃やしてようやく届く領域だ」
「それは…… 十二神の一人ディオニソスと超AIエウロパという極めて例外的な事例です! そう何度も再現があるとは思えません!」
コウが言及した事実にパルムが異を唱える。
「認識が甘いぞパルム。あいつらは超AIだし強大な力をもっていたが、ヘルメスはもっと以前から動いていた。超AIアテナを誕生させ、セキュリティホールにするぐらいには」
パルムが言葉に詰まる。
狐耳のセリアンスロープには、コウの言葉を否定することができなかった。
「備えるんだよ。必要なんだ」
「わかりました。備えは大事です」
コウが二人の顔に鋭い眼差しを向けた。
それは兵衛との稽古を思わせる、真剣勝負を意味する。
「単刀直入にいおう。フラックにも万が一があった場合、アシアの騎士はアノモス。もしくはアノモスとイオリの子供を候補としたい。アノモスに何かあればパルムが継承すると定めた。嫌な役割だが、受け入れてくれ」
「ボス!」
「コウ様!」
突然の宣言に、二人は声を失った。
「待ってくれ。俺がアシアの騎士候補など、あってはならない。俺はフラックと違う。ファミリアを護ることさえできなかった男だ。それに生まれてもいない子供を候補にするなど、あんたらしくもない」
「俺などもってのほか! 俺はセリアンスロープで、ラニウスにすら搭乗できません!」
二人の言い分をコウが受け止める。
「アシアの騎士フラックに何があったら全力で護る。それこそプロメテウスの火を使ってでも」
「俺には荷が重すぎます。再考を」
二人の言葉を聞いて、コウは首を横に振る。
「フラックに万が一があった、想定外を想定した対策だよ。そこまで想定しないといけないほどの事態が差し迫っている」
「何故そう言い切れるのです?」
「意識不明状態のエメが呟いた言葉がある。ネメシスマキアと」
「――大戦ですか」
パルムが絶句した。それはまだ彼等に知らされていなかった事実だ。
「ヘルメスはストーンズを使ってマーダーを投入し、惑星アシアの戦力を削いだ。転移者の登場によって戦線は膠着状態だったが、一人目のアシアを解放したことで状況は変わりつつある。だがそれはあくまでスフェーン大陸での話に過ぎない」
「質問に答えろビッグボス。何故俺とパルムなんだ」
「ファミリアを喪う辛さを知っている男と、俺と長年一緒に戦ってきた友であるセリアンスロープだからだ。二人とも。よく考えてくれ。個々の価値観は大事だよ。けれどストーンズ侵攻前のセリアンスロープやファミリア軽視の価値観に戻していいのかどうか、だ」
「そういわれると辛いな」
「そこまで見据えてですか……」
パルムは戦友と断言したコウに感動したいところだが、今は感情的なものは捨ててコウの大局を計る時だ。
「創造意識体の尊厳が重要なのか。それは確かにアシアの騎士の根幹たるものだろう」
「アキとにゃん汰から聞いたよ。セリアンスロープの扱い、とくに女性の扱いも酷かったが、男は使い捨てに等しかったと」
「その通りです。俺もまたシルエットベースで眠っていたセリアンスロープ。惑星間戦争時代のセリアンスロープ受難の時代を知っています。だからこそビッグボスの価値観が眩しかった。これに意を唱えるセリアンスロープはいないでしょう」
「宗教を作るのはなしだからな」
「それこそあなたが死んだら初代アシアの騎士として偶像化し、信仰はより強固なものになりますよ。これは俺が画策しなくても、です」
「信仰の自由はあるが…… 話が逸れるな。二人には引き受けてもらいたい。実権も何もない、ただの象徴だ。気軽にな」
その言葉を聞くや否や、呆れた声を出すアノモス。
「正気かビッグボス。アシアの騎士は確かに実権はないが、その人物の言葉は多くの創造意識体を動かすぞ。それぐらいの象徴だ」
「その通りです。アシアの騎士の名のもと、ファミリアとセリアンスロープ、ネレイスは集結するでしょう。それを支持する人間もです」
「とはいえ強権はない。ただの象徴だ。EX級構築技士という資格なども継承されることはないだろう。オケアノスとのアクセス権ぐらいは手に入るか」
「十分すぎるぐらいの強権だぞ」
「システムに近いから力にはなってくれないぞ。最近少し人に寄り添ってくれるようになってきたけれど」
あんまりな言いようだが事実なので仕方がないと、アストライアも内心同意する。
これはヘスティアやテュポーンによる指摘に次ぐ指摘でしぶしぶ動くようになったといえる。テュポーンのほうが人間に寄りそうなど皮肉な話だ。
「想定外の想定というがボス。強大な攻撃で俺たちが全滅したらどうするんだ。大規模破壊攻撃はあんたがパンジャンドラムで実証したし、ゼウスの雷霆だって忘れてはいない」
「ちゃんと考えてあるさ。その時は影武者部隊から選出される手筈だ。これは想定外の想定外だから、伝えてはいない。転移者とネレイスしかいないが、それこそ非常事態だからな」
「なんだと……」
絶句した。よどみなく答えるコウが本気だと悟ったからだ。
「確認したい。アシアの騎士という称号についての定義だ。フラックは直系だろう。俺とパルムが候補である理由もわかった。しかし影武者部隊まで範囲となると具体的な定義があるんだろう?」
「あるよ。アシアの騎士とは超AIアシアとともにあり惑星アシアの創造意識体と寄り添う。ウーティスの宣言を引き継ぐ者だ。影武者部隊全員にその資格がある」
アノモスは軽く嘆息した。コウは本気で考え抜き、彼等をここに呼び出したのだ。
死を覚悟し、万が一に備えている。
「どうしてですか?」
パルムが斬り込んだ。素直な疑問が浮かんだからだ。
「ご自身の死を当然と受け止めています。あなたが嫌がった葉隠れの精神そのものではないですか」
「それは違うよパルム。俺は不器用だからな。居合でいうと、一度抜いたら振り抜くしかない。そして剣術の腕でもヘルメスのほうが上だろうさ。素体がいいからな」
ヘルメスの肉体はコウがよく知っている人物だ。
今や外観は大きく違っていても、剣術は体に染み込み、そして武芸の神でもあるヘルメスを模した超AIなら使いこなすだろうという確信。
「コウ様。ヘルメスの肉体を殺しても、超AI本体を殺すことにはなりません」
「わかっているよ。だけど俺と五番機なら、ヘルメスの魂を殺せる可能性があるんだ」
「どういうことでしょうか?」
「アシア解放作戦を思い出して欲しい。エウロパに侵食されたアシアを俺たちラニウス乗りが殺そうとした。結果的に助け出すことには成功したが、六番機などは遠く離れたエウロパの魂にダメージを与えた。死の概念を宿したシルエットなら分霊を通して超AIの魂を殺せるということだ」
コウがさらりと告げた事実は、二人にとって衝撃的なものだった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
前回でたアノモスとパルムの継承順位についてです。
アノモスはコウとの合わせ鏡です。間に合ったコウと間に合わなかったアノモス。アシアの騎士候補ということで両者は近づきつつあります。
影武者部隊は巻き込まれですね。とはいえ三位以下も決めておかないと大変なことになります。
幸い日本には徳川家という良い見本がありますね!
ヘルメスの肉体は殺せるがヘルメスは殺せないという命題に対し、コウは一つの結論に達していました。
アシアを殺せるならヘルメスも殺せるはず。
次回はその深掘りです!
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