あるじゃないか! 両手剣が!
ジャックたちが乗ったトラックに人々が飛び込んでくる。
クルトも最後尾に立ち、避難する人間に手を差し伸べていた。
「マーダーの数が……」
圧倒的な数に立ち向かう、貧弱な装甲車。
囮になった小動物型のファミリアはレーザーで焼かれていた。
百キロワット程度の出力でも生物には有効すぎた。
断末魔をあげる暇もなく、鳥型だったものたちが落下する。
「早く!」
マーダーがファミリアを狙うという特性を利用した囮だが、死にゆくペースも速すぎる。
熊型やライオン型のファミリアはマーダーを損耗させるべく、アントワーカーに飛びかかり、血まみれになっていた。
「……なんてことだ……」
彼等はほぼ人間と変わらない意識があった。
こうまで無残に殺されていいはずがない。
ワーカーが遠目で戦っている。槍と鋼版に取っ手をつけただけの簡素な盾。
動きもまるでなっていなかった。
「ああ…… 違う。MCSとやらが本当ならもっと軽快に動けるだろうに」
眼を覆うようなワーカーの動きに、クルトが嘆く。
「時間が無い。扉を閉める」
「なんですって? まだまだ避難者がいるんですよ!」
アシア人のセリフに抗議するクルト。
「確実にあんたたちを助けるためだ! 技術者なんだろ? 惑星アシアにはいない。希望なんだ」
「く……」
歯噛みするクルト。ジャックもケリーも暗く沈んでいる。暗澹たる気持ちは同じなのだ。
「扉を閉めるぞ」
扉が閉まる寸前、クルトが飛び出した。
「私はいい! いけ!」
そう叫ぶと一目散に走り出す。
「何をやっているんですかクルトさん!」
クルトを見つけた犬型ファミリアが悲鳴に似た声をあげる。
「君は! いいところにいた! 私をワーカーがある整備工場に連れていってください」
「戦おうっていうんですか! 知っているでしょ! 武器はないんです」
「いいから!」
「もう! 知りませんからね! こっちです!」
犬型ファミリアについていき、格納庫に入ったクルトはデッキに駆け上り、犬型ファミリアを掴んでワーカーのMCSに飛び込んだ。
「ボクもですか!」
「指示がいる。君もです。私は知らないことが多すぎます。サポートを頼みました」
「わかりました」
犬型ファミリアも覚悟を決めたようだ。
「ペダルとレバー。聞いていた通りですね。人型兵器がこんな操作で動かせるはずがない。これは意志を込めるための補助装置」
ワーカーは即座に機動した。
『クルト・ルートヴィッヒをパイロットとして承認しました』
フェンネルOSの起動シーケンスが発動する。
直後、機体のアビオニクス・チェックを開始する。
『BITをスタートいたします。パイロット初搭乗のため音声サポートを開始。
オペレーションシステム グリーン
ジェネレーター出力 グリーン
駆動システム グリーン
制御システム グリーン
姿勢制御システム グリーン
パワーセンサー グリーン
モニター グリーン 頭部破損現状影響なし
兵装システム グリーン 武装の設定を行ってください
通信システム グリーン 接続先無し
レーダー機能 グリーン
………
システムオールグリーン 』
「操縦に問題はなさそうですね」
「ありませんね」
犬型ファミリアも認める。
「管理タワーと話せるかな」
「はい。通信機器で接続できます。後部座席からサポートします。――繋げました」
クルトは頷いて管理タワーに呼びかける。
「管理タワー。聞こえるか。私の要求に応えることはできるか?」
『残り一時間以内ならば。現在ワーカーによるAカーバンクル排出作業を進めています』
管理AIが回答する。
「道理で戦力が少ないわけだ。ワーカーはAカーバンクルを抜き取り作業をしているんだな」
『その通りです。要求を速やかに述べてください』
ワーカーサイズの高周波治具があることは幸いだった。航空機の製造現場でも細かい部品には使う。
プラズマは燃料が必要で、継戦能力はない。
「ウィスとやらで工具を応用した器具ぐらいはあるんだろう? 可能ならこの防衛ドームで使用していた槍や剣みたいなものを欲する。両手剣があればなおのこといい」
ダメ元で一番希望の両手剣もあげた。
『「シルエット用の槍と木材伐採用の斧、剣のような形状ですが両手持ちマチェットがあります。どれを用意しますか』
「は? 両手用マチェットだって? 手斧ではないのですか」
『見た目は剣です。エスパダ・アンチャというスペインの剣が中央アメリカに伝わり、トゥーハンテッドアンチャという刃渡りの長い刃が北米にも流れました。そのアンチャが両手持ちマチェットとして運用されたのです。突きも可能ですよ。ワーカー用なので森林伐採兼護身用ですが実務的には斧のほうが好まれます』
「あるじゃないか! 両手剣が!」
クルトは歓喜した。まさに探していた工具は、この両手用マチェットだった。突きも可能とあれば理想的な武器だ。
趣味であるドイツ流剣術は神聖ローマ帝国にまで遡る。失伝した剣術技法だったが、二十世紀から二十一世紀にかけて当時の写本をもとに復興を目指し、スポーツ化もされた。主に両手剣を用いた技法が特徴である。
「なぜそんなに喜んでいるんです?」
犬型ファミリアが訝しんだ。クルトの喜び方が尋常ではないからだ。
「私の趣味である剣術が生きます。戦闘能力が著しく向上しますよ。――管理AIよ。冷間加工用の治具を加工。合板切断用の携行プラズマトーチや高周波切削工具を両手用マチェットのような形状に加工して転用は可能ですか?」
『両方可能です。要求に応じてワーカー用精密機械高周波切削具転用のワーカー兵装を構築、製造します。所要時間五分必要です。実行しますか?』
「実行してくれ!」
クルトはその五分の間に、犬型ファミリアに質問して知りたいことを確認する。
『完成しました』
四分四十秒ほどで完成し、無人クレーンによって運ばれてきた。
「十分です。私は戦闘にでます。いくつか生産してください」
『承知しました。十セット製作いたします』
即席の両手持ち高周波ブレードと、大型の両手持ちマチェットを背中に吊したワーカーが整備工場を出る。
「Ho!」
クルトは雄叫びをあげ、アントワーカーに斬りかかる。
高周波ブレードは易々とアントワーカーを斬り裂いた。むしろ拍子抜けするぐらいだ。
続け様、ファミリアを追い回すアントワーカーを斬り倒す。バッテリー駆動のマーダーは高次元投射装甲ではないので、ワーカーでも十分戦える。
レーザーの被弾は気にならない。出力が低すぎてウィスの高次元投射装甲によって無効化される。ダメージが来る前に倒せてしまう。
何より動きが一般兵と、足運びから位置取りまで動きが違うのだ。
「可動部回りに制限がかかっていますね。鎧をきているようです」
「作業機に無茶をいわないで。人間の動きはある程度再現できますよ」
「作業にはそれ以上必要なかったということですね。しかし戦闘は違う。やはり運動性…… 運動性こそが命……」
クルトはぶつぶつと呟いている。
「強いけど大丈夫かな!」
背後のファミリアが怯えていることにクルトは気付かない。
「眼を覚まして! アントコマンダーが迫ってきています!」
クルトのワーカーはすばやく建物の影に隠れてレーザーの射線を防ぐ。
アントコマンダーレベルのレーザー砲は高次元投射装甲でも危険だ。
「……装甲も欲しいですね」
クルトは認めた。高次元投射装甲というものならば、装甲圧であの程度のレーザーは無力化できただろう。
「はい! 装甲は必要ですよね!」
その意見にはファミリアも賛成だった。
「しかしもっと運動性があれば先に撃破できます!」
「相手は光線ですよ! 光なんですからね!」
「射線さえ合わせなければ大丈夫ですから。先に斬り殺します」
「ダメだこの人!」
耐えきれずファミリアが悲鳴をあげた。
「こうです!」
姿を消したクルトのワーカーを見失ったアントワーカーは最寄りのファミリアを攻撃し始めようと砲塔を旋回させた。
その瞬間を狙ってローラーダッシュで飛び出したワーカーは、高周波ブレードで砲身を斬り飛ばす。
返す刃で胴体のリアクター部分と予測した部位を破壊した。
「もう一機迫っています!」
レーザーが有効ではないと知るや別のアントコマンダーは巨大な足を振り下ろす。
高周波ブレードで受け流そうとするが、割れてしまった。
「同じAスピネル製リアクターです。刃の薄い高周波ブレードでは受けきることはできません!」
犬型ファミリアはクルトにそう諭す。
「ならばこれを使うまでです」
背中に吊したマチェットを両手で握る。
「良い長さです。イメージとは違い、刀身も適度な幅があります」
マチェットは手斧のようなイメージはあるが、本来はスペインから伝来した剣が原型だ。
ワーカーは新たなアントコマンダーの頭部を切り飛ばし、殴打するべく振り上げられた脚部も斬り飛ばした。
「すごい…… ワーカーがこんなに動けるなんて」
「私も予想外ですよ!」
ファミリアの驚嘆にクルトは同意する。自分でもここまで自在に動かせるとは予想外だった。
「ゲリラ戦術でいくしかありませんがね。Aスピネル解除作業まで、あと何分ありますか?」
『残り35分想定です』
「あと35分ですか。やるしかありませんね」
ドイツ人青年は静かに呟く。
やれるだろうという確信をもちながら。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
その話をクルト・マシネンバウ所属の、犬型Lファミリアのカルラから聞いたとき、アストライア艦内は静まりかえった。
「無謀で笑うでしょう? クルトさん。その戦いが初の実戦なんですよ」
笑う者はいない。コウは気まずそうだ。
「さすがは俺の師匠の一人だ」
そう呟くのがやっとだった。
「この師弟、似たもの同士すぎる……」
にゃん汰が語尾にニャをつけ忘れるほどの衝撃だった。
「いや? クルトさんよりは無謀ではないはずだけどな」
「転移直後、わけもわからずマンティス型と大剣一本でやりあった人がいう資格はありませんよね?」
アキも同じ意見らしい。
「両手剣欲しがる理由はわかるな。五番機は最初から両手剣装備だったから助かった」
「どこぞの誰かさんは鞘を欲しがってましたね。しつこいほど」
ブルーが紅茶をすすりながら当時を指摘する。
「コウは師匠から高周波ブレードが折れやすいと聞いて使用することは考えもしなかったんですよね」
「うん。まあ。そうだな。折れない大剣のほうが安心感はあるさ」
事実である。
「ジェニーが高周波ブレード、私がパイルバンカーを愛用しています。携帯には便利ですね。しかし高周波ブレードはクルトが構築したものとは知りませんでした」
『あり合わせの機材で作った即席兵装。まさにブリコラージュです』
アストライアがクルトの判断を讃える。
「そうか。だからクルトさんもずっと両手剣を改良し続けていたのか」
「五番機の試製大剣はクルトさんの技術も入っていたはずですよ。ヒョウエさんと技術交流もしていましたからね」
五番機の試製大剣は今や正式大剣として量産されている。
刀よりも丈夫で、質量もある。とくにラニウス系の愛用者は多い。
「最初にあったA級構築技士たちのなかでもコウとクルトと相性良かったもんね」
ブルーが当時を思い出し、懐かしそうに眼を細める。
「懐かしむほど昔じゃないだろ。A級構築技士のみんなとは相性が良かった」
「そうだったわね」
そういってブルーは薄く微笑む
「二人の世界に突入しちゃったにゃ。カルラ。先を続けてにゃ」
「わかりました。ボクにとっても懐かしい話ですから聞いてください」
そういってカルラは話を続けるのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
若かりし日のクルト。
どこぞの誰かと似た経緯をもっています。
Lファミリアのカルラは再登場。フラフナグズの後部座席で置かれていたファミリアで、ハーフトラックを運転しプロメテウスの火用いてクルトを救出しました。
トゥーハンテッドマチェット。手斧と訳されることも多いですが、こいつはどうみても剣です。剣鉈に近い?
起源を調べたらスペインのブロードソード系ぽい。
開拓時代につけられ、馬に乗せていたようですね。
惑星アシアでは大木を切るのにワーカーが使っていましたが、斧のほうが人気です。
高周波振動剣と高周波高熱剣があります。今回は高熱のほうですね。
現行のものは携行性が高く可変機には便利で、ジェニーも愛用しています。
今回クルトが使用したものは工具の即席転用で雑な作りなので大型です。
コウたちの会話を入れられるのも、後からの振り返りのおかげですね!
応援よろしくお願いします!




