方向性の違いにより解散です
三人はファミリアの案内で防衛ドームの管理制御室に到着した。
「何が起きたか説明してくれ」
クルトが壁一面に広がるパネルに向かって問いかける。
『あなたがたが惑星管理超AIと接触したことを確認しました。当施設の権限において三人のIDを先行付与しました。あなたがたは【A級】の【構築技士】としての資格を有します』
「なんだって! A級の構築技士とはなんだ」
『あなたがた三人は当施設を含め惑星アシア全土の制御AIとの対話、命令、工場生産における最大限のサポートを受けることが可能です』
「君は私たちをA級といった。B級以下はいるのかね?」
ケリーの次にジャックが口を開く。
『後日、転移者の皆様がID登録することで構築技士資格の有無とランクは判明するでしょう』
「惑星アシア全土が一斉にアップデートといったな。そんなことが可能なのか」
『当施設の呼びかけにより、各要塞エリアの管理AIが協議。オケアノスに申請。受理されました。必要に応じてあなたがたは起業することも可能です』
「起業だって? 会社を作れってのか!」
『構築技士は技術者です。その技術を用いた生産した兵器の取引や軍事力保有のために労働が発生します。流動的な通貨が必要となるでしょう』
「うむ…… 大変ありがたい資格だがよそ者がいきなり会社を興しても問題ないのかね」
『この惑星は現在、傭兵管理機構が行政を代替していますが、行政に影響されることはない組織としての企業活動が行えます。徴税されることもありません』
「は! 法人税を払わなくてすむのはいいな!」
「私たちが三人で組めばドリームチームが完成だな」
「違いありません。A級構築技士が三人いる企業は絶大なシェアを誇るでしょう」
「ははは! 面白いことになってきたぜ!」
盛り上がるなか、ふとジャックが気になることを口にする。
「管理AIよ。教えてくれ。例えばどのようなサポートを行ってくれるのだ?」
『あくまで当施設の範囲内ですがワーカーを改良することができます。要素を申請してくだされば、提案図面をお出しします。あなたがたは何を重視したいですか?』
三人はお互いに視線をやる。
「私は装甲を重視する。パイロットの安全が一番だからだ」
「いいや! 戦争は機動力だ! いかに素早く戦場に展開するかが重要だぜ。性能がよくても鈍重では間に合うまい!」
「人型をしているのですから運動性でしょう。人型であることをもっと生かすべきです」
いきなり三人の方向性が食い違う。
そして三人ともメカに対しては妥協できるほど、大人ではない。
「おい。設計思想から異なっているぞ俺たち!」
「……こればかりはなんとも」
「ドリームチームは方向性の違いにより解散ですね」
重視するものが根底から違うようだ。一つの会社として起業するには向かない。
『提案です』
見かねた管理AIが口を出す。
「聞こうか。どのような提案だ」
『当施設には限りがありますが、皆様の権限は生きている管理AIには有効です。三人が別々の要塞エリアや工業に力を入れている防衛ドームに入り、起業して生産すると良いでしょう』
「ふむ。そういう手もあるか。それにそんな貴重な資格持ちが一箇所にいることはまずいな」
「ケリーの言う通りですね。我々のサポート限界が知りたい。それに他の構築技士資格はどんな能力があるか先に聞いておきましょう」
「クルトの言う通りだ。B級やC級の構築技士もこれから判明するだろうからね」
『承知いたしました。A級構築技士の詳細を説明します。兵器設計に関しては構築技士の概要をもとにまず当機が推奨する部品を組み合わせたものを複数提示します。選択されるパーツの能力。サイズ、強度、機能、他のパーツとの整合性のトータルデザインにいたるまを提示します』
「そりゃ凄い!」
ケリーが感嘆する。あれもこれもできそうだ。
『B級構築技士はA級よりも選択肢は少なくなります。選択可能なパーツは変わりませんので、最終的な差は少ないかもしれません』
「B級も強いな。逆に絞られている分、開発能力は高いかもしれない」
あれもこれも選択肢があると遠回りするものだとジャックは考えている。
『C級構築技士は、使用可能なパーツの一覧が全て表示されます。そのなかから構築してもらいます』
「待て。B級のような図面提案はないのか!」
『ありません。ですから構築技士本人の能力と積み重ねた基礎が重要になってきます』
「マジかよ。B級とC級の落差が大きすぎるぜ」
『D級は生産ラインの設定が行えます。E級は格納庫の修理施設を使用することが可能になります』
「D級とE級は…… いや。違うか。だからこそ起業して協業しなければいけないんだね?」
『その通りですジャック。一人に権限が集中することは望ましくありません。どのようなランクであれ、構築技士であるということは新たな特権となりますが責任も大きなものになります』
「そうでしょうね。兵器を設計……いえ。構築を行い生産もできる。その兵器を売る相手も考える必要もありますし、国がない以上防衛力は必要になります。敵の意図は不明ですが、構築技士は優先的に狙われることになりますね』
クルトがメリットとデメリットを考える。
権限は大きいが、その分マーダーに狙われる可能性も高い。
「まずは全員のID登録を早急に進めよう。混乱するから大型の要塞エリアに移動したあとのほうがいい」
『推奨します。ファミリアへの伝達も終了しました。一時間後、みなさま要塞エリアに移動してください』
「一時間後? ずいぶん急だな」
『当A732防衛ドームにマーダーの侵攻が確認されました。可及的速やかな移動をしてください』
「なんだと!」
『皆さんは惑星アシアに必要な人材です。どうぞご無事で』
「待て。君はどうなる!」
『当施設はエネルギー源であるAカーバンクルが移行され、停止します』
「くそ。なんとかならないのか」
『生産ラインの変更を達成できず申し訳ございません』
「そんなことで謝るなよ!」
ケリーが泣きそうになる。わずかな時間で、この管理AIにも愛着に似たものが沸いていた。
『それでは構築技士の皆様。移動を開始してください。早く!』
管理AIが強い語気で三人に命じた。
三人は名残惜しそうに管理室から立ち去る。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
収容された人々のもとへ戻った三人はその足で大型トレーラーに乗せられる。
「ボクたちが時間を稼ぎます。皆さんは早く逃げてください」
犬型ファミリアが三人に声をかけた。惑星アシアを説明してくれたファミリアだ。
「ワーカーが二十機程度と装甲車が四十両か」
「パイロットは志願制なので十数機しか稼働しません。惑星アシアは意志を尊重されるので。ファミリアは五千人います。大丈夫です。時間稼ぎぐらいはできるでしょう」
「待て。ファミリアはシルエットに搭乗は不可能なんだろう?」
「建機も動かせますよ。それがなければ、みんなで体当たりします」
「やめろ! お前らだって意志はあるんだ。逃げろ!」
「そういってくださる人たちのために我々は動くのですよケリー」
ファミリアが笑う。
「運がよければコアが回収されて再生もできます。我々は他の二種族と違い、工場で生産されるロボットのようなもの。たくさんいます」
「そういう問題じゃない!」
「ほら! 敵影が確認されました」
アント型のマーダーが迫ってきている。
「……何機いいるんだ?」
「三百機程度ですね。バッテリー駆動で小型レーザー砲を積んだアントワーカー型とソルジャー型。Aスピネルを採用して大型レーザー砲を積んだアントコマンダー型です」
この時代のアントコマンダーはレールガンではなく、大型レーザー砲を搭載している。
「蟻の群体行動を模しているのか」
「はい。アントコマンダー型が十機。一機を倒すのにワーカーが二機必要です。だから時間を稼ぐしかありません」
「無理だ。あいつらがもし我々を狙うなら」
「その心配はご無用。マーダーはファミリア、セリアンスロープ、ネレイス、最後に人間の順で襲うことが判明しています。ファミリアがいる限り囮になれるのです」
「よくねえ!」
ケリーが怒鳴った。ファミリアを犠牲に助かるといわれても嬉しくなどない。
「我々は君たちが死ぬことを由としない。たとえロボットでもだ」
「あなたたちは惑星アシアの命運を握っているのですよ。【構築技士】。わかったらさっさと退避してください」
構築技士という言葉に力をいれて笑う犬型ファミリア。
「行きましょう。ケリー。ジャック。我々は生き延びねばならないようです」
クルトは悔しそうに唇を噛む。
「また会おうぜ! ファミリア!」
「ええ。また会いましょうね。ケリー」
そういって戦場に向かうべく多くのファミリアが集う。
映画でみた、動物たちが一致団結するかのような光景。
「乗り込みましょう。私たちが最後のようです」
クルトが三人を促す。避難民は惑星アシア人も含まれる。
避難用トレーラーの横を装甲車が走っていく。
装甲車の構造に驚いた。船のようなラムを思わせる巨大な槍がついている。
「銃がないからあの槍で体当たりするのか」
あまりのことにジャックが呻く。
「Aスピネルで車体は頑丈です。それにアントコマンダーはAスピネルを採用しています。つまりあの槍でなければ致命打を与えることはできないのでしょう」
「みろよ。鳥が機械の蟻に体当たりしている……」
「犬型ファミリアを追って逃げ惑っていますね」
「シルエットワーカーが少ないぞ! 六機程度しかいない! どうなっているんだ!
ケリーが戦闘をみてすぐに気付いた。
「志願制といっていましたね。パイロットが退避を選んだのでしょう」
装甲車には小動物型のファミリアが乗っている。
犬や猫型のファミリアは連携を組んでアントワーカーを取り囲み、返り討ちにあっていく。
クマ型やパンダ型のファミリアはアントコマンダー進軍を阻止するために奮闘しているが、力尽きていく。
数分の間にこの惨状。
クルトの脳裏にはこの惨劇が焼き付けられていた。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
ドリームチーム即解散でした。設計思想が違いすぎましたね。
構築技士のランクルールはep159に詳しいです。
さらりと重要な事実。アップデート、企業創設の提案は各施設の管理AIによって行われたということです。
惑星アシアの人間は流通や通貨の概念、労働概念まであやしいです。
便利になった弊害でもありますね。勉強しなくてもいきていきますが、学校はありますし勉強はしています。
マーダーはエニュオ以外はアントシリーズしかまだありません。
レールガンもまだです。レーザー砲は設計図を引いた奴がいます(Hさん)。集光による攻撃は旧日本軍ですら実験していたので、超AIなら余裕といいたいところですが技術制限によって出力はそんなにありません。ウィスによる高次元投射装甲には弱いですが、同じウィスによる
ワーカーとソルジャーはバッテリー駆動なので近接突撃装甲車(仮称)でも対応できるという形です。コマンダーの大型レーザー砲は100MW級ぐらいかなと想定しています。
アント型のみの侵攻は素早く内部に強襲をかけて内側から破壊するか、防衛ドームは取り囲んで数日囲んで壁を削ります。じりじり追い詰められていく感でとても嫌な侵攻です。エニュオでどーん! というのはかなりあとの戦術です。今回は前者ですね。
コウのいた時代を書いたからこそ書ける前日譚ですね。
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