ブリコラージュ
本日二回目の更新となります。
アストライアに到着してから三日経過した。
端末を使い開発ツリーとにらめっこしていたコウに連絡が入る。
医療カプセルの少女が目を覚ますらしい。コウは念のため用意していたものをポケットに入れ、医務室に向かった。
カプセルの側にはにゃん汰とアキがいた。ヴォイはアストライア外の施設に向かっていた。
コウが到着してほどなく、カプセルのカバーがせり上がる。
少女はまったくの無表情だった。
「はじめまして。俺はモズヤ・コウ。わかるかな?」
「わかる、コウ。私は…… 名前が思い出せない」
少女は小さな声だが、はっきりと答えた。
「そっか。無理に思い出さなくていいよ」
千年以上の冷凍睡眠は記憶に多くのダメージを与える。師匠は新たな人格を造った方が早い。しかし、それはしたくはないとも言っていた。
「あ、そうだ。これを。ちょっとだけ我慢してくれよな」
コウはポケットから取り出したメタルアイリスの帽子を、少女にかぶせた。
少女はきょとんと帽子に触れる。
「アキ。にゃん汰。医療用のウィッグはあるかな? あと、この子におしゃれを。俺、そういうのわかんないからさ」
女の子だ。年端もいかない娘でも、頭髪はやはり気にすると思ったのだ。
「お任せを!」
「付いてくるにゃ」
二人は少女を連れ別室に行き、しばらくして戻ってきた。
金髪のウィッグがよく似合う。コウの服に似たジャケットスタイルだ。コウの帽子はまだ被っていた。将来は絶対美人になると確信させる美しさを持っている。
「コウみたいなラフっぽいのが希望にゃ」
「何着せても似合うんですけどね」
二人は姉のように接している。セリアンスロープの本領発揮だ。
「アストライアに名前付けてもらった。エメです。よろしくです、コウ」
相変わらず抑揚を感じさせない声だが、精一杯喋っていることがわかる。
「エメっていうんだね。よろしくな」
コウは笑いかけた。エメは最初、戸惑っていたが、やがておずおずと切り出した。
「この帽子もらっていい? コウ」
「いいよ。気にいったなら良かった」
エメはこくんと頷いた。
「私は猫のミー……師匠の記憶を受け継いでいる。コウ。あなたの助けができたらいいと思う」
師匠の名前はミーだったのか。今更ながらコウは知った。
「ありがとう。これからもよろしくな」
エメはこくんと頷いた。
「あとは師匠…… お願い」
「ん?」
「コウ。わかるか。私だ」
口調ががらりと変わった。師匠、と直感した。声はエメそのままだが、元々中性的な声だったせいか思ったほど違和感はない。
「師匠?!」
「ああ。彼女の記憶容量が大きく、積極的に受け入れてくれたおかげで魂とでもいうのか。私の意思もまたそのまま彼女の側にある。時間は残された」
「時間って?」
「彼女の人格を今は私がサポートしている。彼女の感情や人格が一定の回復をした時、私は消えるだろう。だが、本来はないはずの時間だ。エメのサポートを含め、これは僥倖だ」
「そっか。良かった、のかな」
「良かったとも。私が表に出ることはほとんどないが、安心できるだろ?」
「ああ!」
コウは破顔した。師匠の意思がそこにある。それだけで十分だ、
「だが、のんびりはできないぞ?」
相変わらずの師匠にコウは苦笑した。それでも師匠と再会ができた。それが本当に嬉しかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
コウは戦闘指揮所の端末で様々なデータを閲覧する。
五番機強化にどのような情報が必要かをまず知る必要があるのだ。
「難しく考える必要はない。構築技士の資格を持つ者は、研究者や開発者ではないのだから」
エメのなかの師匠が告げる。
「どんなものが欲しいのかイメージし、それが出来るように部品を取り繕う。そして古くて新しい兵器を作る。それが君のできること」
「専門的な知識があまり必要ないのは助かるよ。部品の選択、か」
「モノを設計する存在がアーキテクトなら、ブリコルールはあるモノを使って新しい物を作る存在だからね」
「楽そうで難しいな。新しい物か」
膨大なパーツを組み合わせて新しい兵器を作る。楽しそうな作業だが、何から手を付けていいか分からない。
「とびっきりの超AIが開発した無数の部品を選び出す作業はコツがいるかもね」
「素人ができるかな」
「だから素人の日曜大工、なんだろうな」
「気楽にできるって意味か。馬鹿にできないという意味か……」
オケアノスと対話型で調べていく。ネット検索している気分だ。
「最終製品の要求性能をまとめる作業だね。コンセプトを決めて、こんな性能が欲しい、と」
「部品屋にはあまり縁が無い言葉。非現実的なものはダメだよな」
「あえて要求してみるのもありだ。思いがけない組み合わせができるかもしれないよ。あくまでオケアノスは提案するだけ。実際組み合わせるのは君だ」
「矛盾する要求出してしまいそうで怖いな」
「矛盾、いや相反する過剰要求なんて当然だ。兵器に限らず乗り物は、安くて軽くて防御力が高くメンテナンス性の高さが求められた上、衝突安全性まで要求されるだろ?」
「プレス加工の人や板金屋さんが泣いてたな」
自動車は軽量化の波で高張力鋼のボディが増えていた。プレス加工はライン化されているが、それでも軌道に乗るまでは相当な苦労があったと聞く。
また鋼板と違って超高張力鋼の修理は難作業。嫌がる板金屋も多くて当然だ。事故でそのまま廃車になるケースは多い。
「要求するコツがあるのさ。軽い、は何トンまでか。防御力が高い、は硬度だけの話ではない。メンテナンス性にも色々ある。そこを絞っていけばいい」
「戦車が何トンとか戦闘機が何トンとか考えたこともなかった」
「コウは自分の自動車の自重やパワーウェイトレシオは気にしたことあるだろ? それに車内の居住性や燃費だって性能だ」
「あるな。そいうことか」
自分のいた時代の戦車や戦闘機のことからまず理解しないといけないことが面倒ではあったが、確かに二十一世紀基準で考えたほうが要求はしやすい。
オケアノスから引き出せる情報が増えていくのは楽しかった。
「コウ。慌てなくていいから」
今度はエメが心配してくれている。
「ありがとう。エメ」
エメもまたコウの隣で検索作業をしている。コウにも理解できる情報を選択して教えてくれるのだ。




