ワイルドキャット&ガンスミス
開発ツリーの件の打ち合わせも終わり、次は五番機の強化方針を話し合っていた。
ヴォイはコウの戦闘データなどを参照したようだ。
「コウの戦い方を分析したが、機動力と装甲の底上げが必要だな」
「前時代的な戦い方って言いたいんだろ? 最初にケーレスと戦った時、ウィスを載せて斬るほうが強いと教わったんだが」
「それは間違いないんだけどな。一番効率的にダメージを与えることができる。ただし、ダメージレースしか見ていない。接近するリスクを考えるとやはり飛び道具は必要だな」
「ああ。それは実感した」
「趣味とやらで刀剣類に慣れすぎているというのもあるな。これは利点でもあるが。マンティス型相手によくやるよ」
ヴォイは呆れ気味に言っている。大きな熊の手で器用にタブレット型端末を操作している。
「装甲関係は戦車ツリーを研究すればいい。機動力はヘリや戦闘機だな。何、実際作る必要はない。作ってもいいけどね。俺たちが戦える」
「お前たちを戦いには出さないぞ。俺に任せておけ」
「気持ちはありがたいがね。必要性はある。作ってくれ」
コウは返事をしなかった。ヴォイにも、コウが必要以上に彼らを大事にしていることが伝わってくる。
「装甲材もだな。とはいっても、新機軸な装甲材の多用は禁物だ」
「補給の問題か」
「そういうこと。ま、ようはどこにでもある町の整備工場の設備で直せるもの、が重要ってこった」
「それは凄くよくわかるよ。俺の時代でも、スーパーハイテン鋼の修理すら熟練の整備工場が必要だったからね」
「鉄に様々な元素を加えたものが中心なのはネメシスでも一緒さ」
「なんか馴染みある言葉すぎてこれ以上、聞きたくない。アルミやチタン合金は大嫌いだ。チップはすぐ飛ぶし加工不良が多い」
「トラウマか? ま、ここらの話は通じるってことだな。ナノカーボン素材は優秀だが、名称を色々変えようがセラミック材。割れるのは宿命だ。補強もできん。割れたらそのまま交換しかできないことを考慮して設計しないといけない。高いしな」
それはコウにもわかる。21世紀になかなかセラミックが普及しなかった理由は、単価だ。ハイテン材やS45Cなど普及している鋼材はキロ100円~200円。セラミックは1000円~2000円。製造するにしてもこの差は大きいだろう。
アルミもそうだ。コストがかかりすぎた無人電気トラックはわざわざアルミの比率を減らし、鋼材に戻したという。
兵器である以上コストも大事だろうが、単価も重要視されるのは、コウにもわかる理屈だ。
「じゃあこの時代もチタン合金?」
「用途や部位による。チタン系の合金も、もちろん多用されているが空中戦も可能な高級機用だな。軽くて優秀だが、一度ひびが入ると割れやすい。何より装甲材としては軽すぎる。装甲にはある程度の重さも必要、ってことだ。軽量化しつつ防御力をあげるにはいいから、部位によって使い分ける」
「この時代はチタン合金とかアルミは加工しやすいだろうな」
「加工物にはウィスを通さず、ウィスを使った治具で加工するやり方が主流だな」
五番機は、現在の装甲材を換装することが検討されている。
ヴォイは整備面も考慮しつつ、どんな素材がいいかコウの相談に乗っているのだ。
「ま、鉄をベースにコウのしってる元素が入っていると思えばいいさ。稀少金属でいえばタングステンはわかるな? あとはタンタルとかハフニウムだな」
「後ろ二つは馴染みがないなぁ」
「かもな。コウのいた時代より遙か未来とはいえ、宇宙の構成物質は変わらない。みたこともない新素材金属、というのは少ないはずだ。真空で生成されたナノマテリアルぐらいか」
「そんなのは想像もつかない」
「鋳造のハイエントロピー合金とかコウの時代にもある製法もある」
「いや、それ知らない……」
「アストライアがみっちり教えてくれる。楽しみにな」
意地悪くヴォイが笑った。思わず心の中で、助けて師匠と叫ぶコウ。
「あとは――なんにせよ飛び道具は持とう。距離を取るのが大事なのはよくわかっているだろ?」
「その機会がなかったというか。何せ五番機を拾ったのが廃墟だった」
言い訳を呟くコウ。ヴォイはふっと笑う。
「ここにはシルエットサイズ用の武器なんてないが、創り出すことはできる。とくにそこの女性陣は専門家だ」
「え?」
二人を見ると頷いた。
「私が燃焼系火器の砲塔や銃身などの作成、調整。にゃん汰がカスタム系ですね。私はガンスミスなのですよ。シルエットのですけどね」
「そうか。じゃあ俺にあった銃を見繕ってくれる、ことでいいのかな」
「任せるにゃ。ちなみに私はワイルドキャットのデザイナーにゃ。銃や弾のカスタム職人といえばいいかにゃ」
「山猫?」
「そうにゃ。口径変更や炸薬やガスの量を調整し、改良したものに換装するのが仕事にゃ」
「凄いな二人とも」
「といっても、コウにはレールガンのほうがいいかもにゃ。あれは高次元投射装甲に有用にゃ」
「レールガンは専門ではないのですが、ここの施設さえあれば作成は容易です」
「弾も安価で済むにゃ」
「いや…… 燃焼系の銃でお願いできないだろうか。軽ガスガン式だっけ。あのライフルで。師匠に聞いたが初速はレールガンに負けないらしいし」
二人の反応は意外だった。
顔を見合わせて、呆然としていた。
変なことを口走ったのだろうか、と不安になってくる。
「ほら。俺近付いて斬るタイプだし。充電とかでエネルギーをレールガンに回したくないんだよ。故障も結構あるって聞くしね」
剣を持っていないシルエットの多くが、弾切れした場合に銃剣を装備して接近戦を行っているのも実際みている。マンティス型との戦闘で充電中に距離を詰めることもできた。
強力なレールガンより、機動力を優先した武器を選択したかった。
「ダメなら、いいけど……」
「ダメじゃありません! コウに相応しい武器を私が作ってみせます!」
普段穏やかなアキが立ち上がって興奮していた。
「任せてください。あなたに相応しい武器、私達が作り上げてみせます」
にゃん汰が請け負った。語尾ににゃがつかないところをみると、かなりの本気が窺える。
理由を知っているであろうヴォイが苦笑している。
「コウの好み…… 銃剣は必須ですね」
「よくわかってる」
「大切な人の好みですから。あとはコウの戦闘スタイルを加味して調整していきます」
コウが大切な人、といわれて顔を真っ赤にした。そんなこと女性に言われたのは初めてだ。
「既存ベースの情報データはコウの権限で引き出せる。現存するシルエットのデータ、かたっぱしから調べるよ」
にゃん汰も自分の端末を引っ張り出して真剣に見入っている。
「私達、コウにとって不要品にならないで済みそうですね」
アキがぼそっと呟いた。
「不要品とか何言っているんだ。頼りっぱなしなのに」
ぎょっとしてコウが言った。何故そんなことを突然アキが言ったか皆目見当がつかなかった。
「ごめんなさい」
耳がしゅんとなり、うなだれるアキ。不安のあまり口にでた言葉だったのだろう。
「すまないな、コウ。お前の選択がこいつらにとって、信じられない気持ちなんだ」
「どういうこと?」
「後日話してやるよ」
「気になる。アキもにゃん汰もヴォイも俺にとって不要なんてありえない。くれぐれもそんなことは思わないでくれ」
「はい。ありがとうございます。コウ」
「おう。どんと頼れや」
ヴォイが豪快に笑った。頼りすぎもよくないのだろうが、今は本当に頼もしかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
夜。アキは犬型に変身してコウの側で寝ていた。女性の姿はコウが恥ずかしがったのだ。
寝入っているコウを確認すると人型に戻り、加工室に行く。
研究室では、にゃん汰がモニターとにらめっこしながら何やら計算していた。
「夜更かしですね、姉さん」
「あなたたちがいちゃつくのが見ていて辛いからね。アキ、あなたは好感度高すぎ」
いつもとはまったく違う真面目な口調だが、からかっているのだ。
「姉さんが言いますか? にゃ、とか語尾にまで猫アピールしておいて」
アキは知っている。ぶさ猫状態のにゃん汰を可愛いと言い切ったコウへの想いを。
もともと猫型ファミリアの師匠を大切に扱い、こんな秘密基地にまで付いてきたコウに対し良い印象しかなかったのだが、あれが決定打。アキに負けないぐらい、にゃん汰が好意を抱いているのは間違いない。
「日本のサブカル研究したら、あれぐらいがいいと思ったの」
にやりと笑った。悪い顔の笑みは、普段が演技であることを示していた。
「まさか実銃がいいと言い出すとは思わなかったけどね」
「今日はごめんなさい。コウの前で変なこと口走ってしまって」
「いいよ。気持ちはわかるから。惑星間戦争のときは猫も杓子も光学兵器だらけだったね」
「――私達は燃焼系の火気兵器担当。惑星間戦争で試験用に作られ、需要なしですぐに凍結されてしまいましたね。本当に不要品扱い」
「指向性エネルギー兵器全盛だったしね。電動兵器のレールガンすら弾代がかかるから時代遅れになる可能性があった。レールガンの弾作りはつまらない仕事だったな」
ため息をついた。本当に嫌な思い出らしい。
「ほんっと、トラウマよね。必要ないなら作るなっつーの。愛玩用や人間との婚姻に使われなかっただけましだけどね」
彼女たちのように作られた生命体も、個人の意思は尊重される。
強引に、そのような意図に使う勢力もいなくはなかったが、すぐに冷凍睡眠に入った彼女たちは無事で済んだ。
「コウならいいですよ、私は」
「本人はその気なさそうだけど」
「今日は、一緒に寝るなら犬型でお願いと懇願されちゃいました。この姿はかなり恥ずかしいみたいですね」
「チャンスと思ってない? あんた」
「ばれてる!」
二人でくすくす笑う。
「オケアノスかアシアか、それともソピアーか。私達にコウを巡り会わせてくれた、もしくはコウを支えるために造られたのかも、って思っちゃいました。師匠には本当に感謝しています」
「運命の人って? 言い過ぎだね。――笑えないわ、本当。刷り込みレベルのちょろインね、私達」
自嘲を思わせる言葉だが、にゃん汰の唇は優しくつり上がっている。悪くはないと思っているようだった。
「いいじゃないですか、楽しいですよ」
「氷より冷たい女ってあんたが言われていたなんて、コウは絶対信じないだろうね」
「今の姉さんもね」
「大丈夫にゃ。コウは女にだまされやすいにゃ。私達が見てあげないといけないにゃ」
にやっと笑い、コウの前の口調に戻るにゃん汰。
「犬型の素直さが羨ましいにゃ」
「姉さんもやればいいのに」
「猫型には猫型なりの愛情表現はあるにゃ。家族を見守ることに関しては猫型も負けないにゃ」
「ツンデレって奴ですか。負けませんからね」
「アキ、ちょっと古いにゃ。本業をおろそかにしないよう気をつけるにゃ」
「ちゃんとやりますってば。データくださいね。姉さん」
「用意しといたにゃ」
二人は仲良く並んで端末にデータを打ち込み、作業を再開した。




