目覚めたら仲間がいた。
春休み最後です。
正直、あまり筆は進みませんでした。
目覚めると白い世界。
「っ…。」
目に入ってきた光が痛い。
思わず一度目を閉じて一呼吸置いてから覚悟を決めてゆっくりと瞼をあげる。
再び開いた目に飛び込んできた世界は最初に白い天井が見えた。
どうやら俺はベッドで寝かされているようだ。
次に少し目を動かして右のほうを見た。
窓だ。
外はカラッと晴れて太陽光が眩しい。ちらっと鷹か烏かわからないが鳥が見えた気がする。
「…ぅあ……。」
とりあえず生きているようだ。
首を回そうとするとわずかな痛みと固定された感覚がある。
腕で様子を探ろうとするも痛みは無いが鉄のように重い。
それでもなんとか首の固定された部分に触れるとギブスが巻かれているようだ。
首が動かないんじゃ仕方ない。目を動かして周囲の状況を見てみる。
まず視覚の前に嗅覚が情報を告げる。わずかに漂う消毒液の匂い。
次に目に入ってきたのは天井に吊るされ、俺の左と足元を囲っているカーテンとその隣にある点滴だ。
聴覚もようやく機能を取り戻したのかうめき声が聞こえる。ここから導き出される結論は
病室だ。
まだ明るいから昼間くらいなのだろうか。
ええと、俺はポイント26で巨大なアーティファクトに壁に叩きつけられて、シエルに助けられて…それで、それで?
記憶が無いからおそらくそこで気を失ったのだろう。シエルが救護班を呼んでいただろうから、基地の医療棟に運ばれて、治療されてここにきた、という感じか。
と考えていると扉を開く音が聞こえた。
足音はこちらに近づき、カーテンを一気に開けた。
「あ、マサト!ようやく起きたのね、よかった。」
目を動かしてみると白いタオルと洗面器を持ったシエルだった。
「大丈夫?背中と首、まだ痛む?」
「…ああ、少し痛いけど大丈夫。それより」
俺はシエルに体を起こしてもらいながら聞いた。
気になっていることは1つ。素朴でカレンダーのないこの部屋で最も今の自分には他人に聞かないと把握できない問題だ。
「シエル、俺…何日寝ていた?」
「うーんと、確か…2日くらいかな。」
「2日!?2日もだと!間違いは無いよなシエル!」
「う、うん。どうしたの急に。」
まずいぞ。これは非常にまずい。
2日も寝てたならそれなりに重傷だった筈だ。それから筋肉もだいぶ落ちているだろうし、隊にも迷惑をかけてしまった。
前線復帰できるのはいつになるのか。
「ちょっといいかな?シエル君。」
考え込んでいたからか俺は見慣れないメガネをかけた男の人がいつのまにか入ってきた事を知らず、気がつくとシエルのとなりにいた。
「あ、ワルテ先生!お疲れ様です。」
どうやら男の人はシエルと顔見知りのようだ。しかもシエルは男の人を『先生』と呼んでいる。うん、全くわからない。
「えっと、どちら様ですか?」
と話しかけるとこちらの方を向き、
「おお、自己紹介がまだだったね。私の名前はワルテ=ティオン。君の主治医さ。まずは目覚めてよかったよ、マサト君。」
と笑顔で言った。
ワルテ先生の出してくれた薬のおかげか、1日後には随分と痛みは楽になった。
昼下がり、シエルが俺の寝ている病室に来たので今の部隊の状況を聞いた。
部隊は俺以外の負傷者を出すことなく2日前に後続の部隊と入れ替わり、今は訓練と束の間の休暇となっているそうだ。そんな大事な休暇を俺の治療のために使っているシエルの考えがよくわからない。ちなみにネルは母親のいる街に帰っていて、もうすぐこちらに帰ってくるらしい。
シエルに
「せっかくの休暇なのに俺なんかの治療に費やして大丈夫なのか?」
と聞くと、
「うん、チームメイトには早く回復してほしいし、せっかく仲間になれたのにすぐ会えなくなるのは寂しいからね。」
と言った。
その後、談笑していると勢いよく扉が開いた。俺のいる位置からは誰が入って来たのかわからないがシエルは見えたようで
「あ、遅いよ!こっち、こっちだよ。」
と扉の方に声を掛けた。
そしてようやく俺の見える場所にその人物は来た。
「…久しぶり、ネル。」
「おう、元気そうで何よりだ!マサト。」
ネルはそう言って太陽のような笑顔を見せてくれた。
その笑顔を見て少しホッとした。無理をしたことに対して怒られると思っていたからだ。おそらく怒られていたら1時間は説教されていただろう。
だが、その太陽のような笑顔は崩さずに続いてこう言った。
「っとその前に。おい、マサト。なんか言うことないか?」
「…えっと。」
あ、笑顔が冷たい。やっぱり怒られるのか、まあだいたいわかっていたけども。
「他人を頼りたくないのは分かるが、休憩せずに1人でポイント攻略に行った挙句、手榴弾の残弾の確認不足、さらに連絡時の油断!いつもは大丈夫だったと言っても今回みたいなトラブルが起きたら余計に部隊に迷惑がかかるだろう。」
「…はい。」
「だいたい、犬型のアーティファクトが出てきた時点で『あ、これ自分には無理だ』と判断して俺を呼べよ。」
「え、でも今仲間に迷惑かけるからダメみたいなこと言わなかった?」
ネルは頭を掻きながらあーもうなんでわかんねぇかなと呟いた。
え、俺なんか間違ったこと言ったっけ。
「俺には頼れよ!俺とお前はチームメイトなんだから。これでわかったか?」
うーん、ネルの言いたいことはわかるようなわからないような。
要は部隊に頼らなくてもチームに頼れってことか?1人で抱えるのではなくチームメイトと一緒に戦ってほしいって言う意味なのだろうか。
「…ふふ。」
いままでずっとネルの説教の間、黙っていたシエルが急に笑い出した。
「『俺には』じゃなくて『俺たちには』じゃない?私もチームメイトなんだからわたしにも頼ってほしいな。」
「たしかにそうだな、シエルもチームメイトだ。頼るべき人はいるのにお前はまだ頼らないつもりか?」
「…いや、俺が間違ってたよ。これからはシエルにもネルにも頼ることにするよ。ずっと他人に迷惑を掛けないようにと思って頼らなかった。だけど頼らないと仲間じゃ無いもんね。」
「そうだぞ。それにこうやって頼らなくて怪我された方がよっぽど迷惑だからな。」
とネルは言って笑った。どうやら満足したみたいだ。1時間コースじゃなくて本当に良かった。
「そうだ!」
とシエルは手を合わせていった。
「どうしたんだ?シエル。」
「この間ね、久しぶりに支部の売店に行ったんだけど、こんなのがあったの。」
と言ってポケットから何かを取り出した。
「売店のおばちゃんが言っていたんだけど、お揃いのものを持っていると絆が深まるんだって。だから身につけられるペンダントがいいかと思ったの。」
シエルの手には3つの丸い形のチャームがついたペンダントがあり、
「この緑のがネルので、この赤いのが私ので、この青いのがマサトのね。」
と言ってネルには手渡し、俺には首につけてくれた。
チャームを見ると深い青であり、俺の愛銃である瑠璃の色に似ている。
そういえばネルの銃は常盤という名であり深い緑色をしている。もしかすると持っている銃の色と合わせて買ってくれたのかもしれない。
ただ、そうなるとシエルは萌黄だから黄緑に近い色を選ぶはずなのに何故か赤だ。ただ単に色がなかったのだろうか。
「ありがとう、シエル。大事にするよ。」
「そうしてくれると嬉しいわ。」
シエルはちらりと近くにあった時計を見た。もうすぐ4時になるところだ。
「あ、そろそろ面会終了の時間ね。宿舎に戻って武器の手入れと部屋の片付けしないとね。」
「部屋の片付けか。1人部屋だと片付けなくてもいいやってなるから俺の部屋散らかってるんだよぁ。マサトの部屋はどうなんだ?」
部屋かぁ。ここ2、3日はベットでの生活だからおぼろげにしか思い出せない。でもまあ確か物が床に散らかってたりはしていないから多分綺麗な方だと思いたい。
「綺麗…だと思う。」
「なんだよ、その歯切れの悪い返事は。」
「床には物を置いてないけど服は割と椅子に掛けっぱなしだったりしているから…。」
「じゃあそれを片付けろよ。」
「めんどくさいんだ。」
「あのさ、2人とも。本当にそろそろ行かないと。話題提供しといてなんだけど話し込まないで。」
「おう、そうだな。じゃまたな、マサト。」
「うん、またね。ネル、シエル。」
2人は手を振って帰っていった。
仲間か…。今まで頼らなかったことが迷惑になっていたのなら頼るべきなのだろう。
これ以上迷惑をかけるわけにも行かない。それに、あの時助けてくれたシエルに恩返しもしなくてはいけな
いだろう。
「よし、まずは怪我を治すところからだな。」
そこから俺の戦いはまた始まるんだ。
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大体これで4分の1くらいだと思います。