2.確かにお姫様だけど
目を開けると見知らぬ天井が見え、ベットに寝ている私に、ヒゲを生やした白人系の風貌をしたお爺さんが、「姫様、お加減は如何ですか」と私に声をかけ、「ご主人様にお知らせを」とメイドらしき女性に叫んだ。
私は、ぼんやりとしながら、日本で飛行機が落ち、女神らしき人に声をかけられた事と、この世界での自分の事も思い出した。
私はアスカル辺境伯の娘キャサリン、12才。「お嬢様が乗った馬車に大岩が落ちて来たんです。御者も亡くなり、お嬢様もダメかと思われましたが、丁度馬車の残骸が幾つも大岩に挟まって、お嬢様は奇跡的に怪我もなく助かりました。本当に良かったです。爺やも、後を追って死出の旅路にお付き合いしようと思った所でした」と。
私はキャサリン・アスカル、としての自分を徐々に思い出した。ずいぶん前に年齢は小さな子供だったのに、爺やの身長を軽々と追い越してしまった自分。腹はデップリと前に突き出している自分の事を。確かにお姫様になってはいたが、身体のデカさとデブさは日本人だった時以上ではないだろうか、と思ったその瞬間、私の掛け布団を見上げるように高々と押し上げている自分の巨大な腹から「グーッ、グルグルグル」と大きな音が部屋中に響き渡った。「おっ、お嬢様、お腹が空かれているご様子。大事を取って、ベッドでお食事をお召し上がりください」と爺やが言うと、同時に父のアスカル辺境伯が部屋に入って来て「キャサリン、目が覚めて良かった。医師は問題ないとは言っておったが、目を覚ますなりに、腹が減っているとは、流石キャサリンじゃ」と言い、爺やと父の二人かかりで私の背中に腕を伸ばして私の上半身を起こした。
私は思い出した。私は小学6年生程の年なのに、貴族の中では一番の大男と言われる父と同じ程の身長と2倍以上の体重を誇る巨体にまで育っていた超巨漢少女なのだった。私の上体は爺やが独りで持ち上げるのは絶対に無理なので二人がかりなのだろう。私はお姫様らしいが、日本人だった時に比べて更に輪をかけた巨漢デブ少女に生まれ変わっていた。私がこのまま18才まで育ったら、どこまでこの巨体が更にデカくなっているのだろう。心の中で強くダイエットを誓った。素敵な結婚はどうしたんだ、神様!
所が、ベッドにとてつもなく巨大な簡易テーブルが置かれると、メイド達によって、部屋に次から次へと持ち込んで来られる食べ物の量に愕然とする。大きな鳥の丸焼き数羽分、豚や牛らしき焼き物や煮込み料理などの、様々な料理の山。更に巨大なホールケーキも3つ。父が、「まだ、無理をするでない、キャサリン。父が食べさせてあげよう。もうお前にご飯を食べさせるなど8年ぶりかもしれんな」とか。私は4つになっても父親にご飯を食べさせてもらっていたのか。甘やかし過ぎだろう。だから、こんな超デブの身体になっている。
「キャサリンは甘えん坊さんだからなぁ」と父はまるで幼児のように食べやすくして私の口の中に膨大な量の食物を凄い速度で詰め込んで行く。こんな量、どれだけ食べるのに時間がかかるのか、と思い、またダイエットを決めたにも関わらず、私の食べる速度はとても速く、全てを平らげるのはあっと言う間だった。
次の朝には、食事量を減らすには自分の精神力が余りにも弱すぎるとの結論に達し、自分の身体の作りに唖然とした。そこで運動量を増やす事にした。
辺境伯の子は女であろうと武術の鍛錬は嗜みであった。まずは最近また私の身体には小さくなってしまった板金鎧に自分でなんとかハルバートで切れ目をアチコチに入れ、なんとか身体が動かせまでに大きくし、鉄の板を鎧中にビッシリと貼り付けて、立ち上がるのも精一杯の重さにした。そして、ハルバートにも鉄板をグルグル巻きにして重くした。
元々のキャサリンという子はあまり運動をしなかったから、ここまでデブになったのだろう。
それから毎日、フルプレートアーマーを着てハルバートをブンブンと振り回して朝から晩まで走り抜いて過ごし、贅肉の山の奥の筋肉がどんどんと大きく盛り上がって行くのを毎日感じてはいたが、食欲もますます亢進してしまって逆に太ってしまった感じがした。
毎日筋肉痛で朝起きられない位だったが、必死に頑張ったせいか、2週間程で、身体中に巨大な筋肉の山がモリモリと盛り上がっていて大きく動いているのが感じられるようになった。ただ、外見からはタダのデブなので、その変化は分からないだろうが。基礎代謝が上げて痩せる、の計画は頓挫した。たぶん代謝が上がった分、食欲も亢進したからだ。
暫くすると、私用のフルプレートアーマーとハルバートが新調されてきて目の前に置かれた。軽く見た目で、板金鎧はペコペコの鉄板でできているような印象しか持てない。なんとなく鎧を拳をグーにして殴ってみた。すると、私の巨大な拳が鎧にめり込んだだけではなく、鎧が腹の部分で真っ二つに割れてしまった。
爺やを見ると、鎧の隣に控えた職人頭に「どういう事だ」、と詰め寄っていた。「姫様が身に付ける、大切な鎧に、このような不良品を献上するとは、貴様、命はいらんのか」と激怒していた。
私は逆に女だから、と軽い仕様にしてくれたのだろう、と嬉しかったのだが、流石にこんなに柔な防具で蛮族との戦いに出て行くのは怖すぎる。
私は自分で付け焼き刃で修繕した鎧とハルバートを持ってきて、「これくらいの重さの倍はあって良いから丈夫な、最上級の鎧とハルバートを作って来て。今日1日は私の手作りの鎧とハルバートを貸し出すので参考にして」と言うと、職人たち3人が大きく頭を下げ、鎧を運ぼうとしたが、3人掛かりでは持ち上がりもしなかったので、私が彼らの荷車まで持っていってあげた。
「姫様はお優しい」と爺やは涙目になっていた。普通のお姫様はこんな事はしないんだろうな、と日本人庶民の感覚が抜けないな、と思った。
私には兄が二人もいるので、私は本来なら嫁に行かされる立場だが、流石にこんなデカデブ巨大女を父に嫁として押し付けられる男性が可哀相過ぎる。私は騎士としてこの領地を守る戦士になろうと心に決めた。辺境伯は北の蛮族の襲来から帝国を守る立場であり、だから辺境伯は大公並みの地位を帝国では認められている、との知識がある。当然、強い戦士は幾らいても足らない。私がそれらを率いられる程強くなろう、と思った。でないと、本当にタダの超大食らいの役立たずの穀潰しだ。
あの神様みたいな人は、素晴らしい結婚生活が約束されている、とか言っていたが、まあケアレスミスで大切な人物を死なせる所だった神様だ。ウッカリなんだろう、と。
その後、父が寄ってきて、「キャサリン、手合わせをしよう」、と言い出した。ある程度は寸留めのように武器をぶつけ合う。「キャサリンはもう領内ではトップの腕前だの。もう一端の戦士じゃ」と言われた。




