↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
別冊†恋姫  作者: 桜惡夢
朱に交わば、赫く染む。
PR
44/137

二十八話


 最終決戦も終盤戦であり、大詰めを迎える。

終盤戦に参加していた兵達は共に全滅している。

その為、勝敗の行方は主君と将師に委ねられた。


先ず黄蓋と夏侯淵の闘いは曹操の激励が効いたのか夏侯淵が辛くも勝利した。


孫権と馬超の闘いは両者譲らず。

槍士としての経験値・鍛練量では馬超が上回ったが孫権の目覚めた虎血(・・)の勢いは凄まじく。

両者相打ち、という結果となった。


周泰と趙雲、甘寧と楽進の闘いも同様なのだが。

実は、楽進は過去に朱荒に命を救われ、氣の基礎を教えられていたりする。

その為、甘寧に食らい付けたのは一種の意地。


曹操と孫策の闘いは孫策が健闘したと言える。

あと半年──いや、三ヶ月、時が有ったなら。

その結果は──最後は運や意地が決めただろう。

だが、現実は孫策の敗北である。


一息吐き、曹操が向かう先には求め続けた男。

闘志も武器も折れてはいないが、疲弊し、膝を着き肩で息をしている夏侯惇達。

その中に立つ朱荒の姿が有る。

彼女達を傅かせ佇む姿は君臨する王者の如く。

それを見て、曹操は苦笑せずには居られない。

「…本当、貴男の存在自体が覇王の証よ」と。

反董卓連合に参加し、狙っていたのに。

孫策に持っていかれた事は今でも不満に思う。

──が、その一方では孫策に、運命に感謝も懐く。

何故なら、こうして本気で殺り合える可能性は実に限られている事で、この先の可能性は皆無。

勝っても負けても、最初で最後だと判るから。


そして、それは曹操に限った話ではない。

朱荒と縁絲が有り、決戦に参加する軍将の殆んどは朱荒との真剣勝負の機会を心から愉しんでいる。

だからこそ、この一戦は最終決戦と呼べる。


 思わず見惚れてしまう程に、様になる姿。

その立ち姿までもが、流石と言うべきか。

此方は可能な限り多くの軍将を打付けに行ったのに半分以上を脱落させられてしまっている。

季衣・流琉・白蓮は実力不足。

秋蘭は黄蓋との闘いの疲労が有る。

此処までは…まあ、仕方の無い事、想定内よ。

だけど、先程救護班により搬送されて行くのを見た斗詩・紫苑・桔梗までが脱落したのは想定外。

これに関しては私としても流石に焦らされる。

残るは私、春蘭・涼・霞・焔耶・恋・愛紗のみ。

しかも、体力に自信の有る六人が疲労困憊って。

本当に…「何れだけなのよ、貴男はっ!」と。

少々八つ当たり気味に叫びたくもなる。


そんな彼が私を見て小さく溜め息を吐いた。



「…伯符でも役不足だったか」


「貴男が鍛えていなければ、尚更だったわね

そういう意味では、今現在、戦場(ここ)に残っているのは殆んどが貴男に鍛えられている者、という事になるわね」


「……まあ、確かに…そうなるか」



寧ろ、それでも残っている春蘭が素直に凄いわ。

それは彼にしても同じ様で、一瞬だけ春蘭を見た。

勿論、孫策と当たりさえしなければ残るだろうとは思ってはいたのだけれど。

「この娘が彼に鍛えられたなら…」と期待を持たず可能性を考えない、という事は難しいわ。


ただ、それはそれとして、残るは私達八人だけ。

構図的には七対一だけれど…余裕は無いわね。

はっきり言って、決戦の勝敗を決める内容の部分で相手の主君──大将の首級を取った段階で終了なら更に早く決着は着いていたでしょうね。

要は孫策を倒し、私が生き残れば良いのだから。

だけど、それでは面白くないし──勿体無い。

こんな機会は二度と無いのだから。

群雄割拠という舞台らしく。

私達も全力で闘い(舞い)たいのよ。



「貴男の事だから大丈夫でしょうけれど…

まあ、一応、訊いて置くわね

今更「一対多は卑怯だ」なんて言わないわよね?」


「ああ、それも無数の戦い方の一つだ

何より、勝つ為に(・・・・)なら当然の選択だからな」



そう言って不敵に笑う辺り…変わらないわね。

いいえ、成長しよう(変わろう)と振れないのよね。

貴男の、自分という在り方(もの)が。


春蘭以外に、視線を送り、「判っているわね?」と目配せし、予定通りの戦い方に切り替える。

遣らずに決着が付けられるなら、それが一番。

だけど、孫策には悪いけど、敗けられないのよ。

今後の事を考えると尚更にね。

だから、彼の言った様に私達は勝ちに行く。


 愛鎌・絶を構えた曹操が朱荒に向かって疾駆。

孫策と闘った後とは言え、現状では最も体力的にも精神的にも余力の有る彼女が先陣を切った。


曹操が朱荒と数合撃ち合った所に乱入する夏侯惇。

持ち前の負けん気の強さと曹操への忠誠心。

何より、生まれて初めて知る自分より強い男を前に本人は気付かない程に夢中に成っている。

その為、「此処で退けるものかっ!」という彼女の咆哮の意味は少しばかり違ってくるのだが。

それを指摘し、揶揄う余裕の有るのは曹操のみ。

その曹操が遣らないのだから、些末な事である。


続いて小休止で息を調えた張遼と魏延が参戦。

二人は残った面子の中では既に限界が近いと悟り、殆んど捨て身に近い戦い方へと切り替えた。

自身が朱荒の一撃で離脱する事になろうとも次へと繋ぐ隙を作り出せれば、結果としては十分。


その意志を汲み、華雄・関羽が間合いを気にせずに朱荒へと肉薄し、張遼達の作った活路(みち)を拡げる。

更に曹操が「隙有らば…」と朱荒の死角を攻め。

呂布が活路を塞がせない様に強引に割り込み。

武器を捨てた魏延が、張遼が、朱荒に抱き付く。

綺麗に勝とうなどという甘い考えは不要。

どんな手を使ってでも、勝たなくてはならない。

この一戦は、そういう闘いなのだから。


二人を引き剥がそうとする朱荒を更に関羽・華雄が動きを封じる様に力を絞り出して押し込む。

──漸く、人一人がギリギリ通れるという程度の、細く、脆く、危うい、たった一本の活路(みち)が開く。

其処に、身が削れようが御構い無しに躊躇無く飛び込んで突き進めるのが──魏武の大剣・夏侯元譲。


得物を封じられ、回避も不可能な無防備な朱荒(獲物)

勝利を確信した夏侯惇は勝鬨を上げる様に叫び。


──来た路を引き戻される様に、吹き飛んだ。


驚愕による思考停止、一瞬の空白。

その致命的な状況に曹操が叫び、回避を促す。


しかし、それを許す程、朱荒という男は甘くない。

張遼・魏延が、華雄・呂布、そして関羽が。

夏侯惇に続き、脱落してしまった。


その光景に冷や汗を流すのは曹操──ではない。

待機している救護班の兵達。

想像を絶する朱荒という人物を前に。

彼等の思考力もまた、疾うに限界を越えていた。

──が、朱荒の声で我に返り、仕事を行う。

其処に曹操が声を掛け、六人を近くで休ませる様に指示し、改めて朱荒と対峙する。


疲労で肉体は限界でも、六人の気絶は僅かな間。

規定上、敗けたと判っていても「まだっ…」という強靭な意志が彼女達を突き動かす。

今尚、失われない彼女達の闘志への御褒美。

特等席での結末の観戦を、曹操は与える。

その背中が、「しっかりと見ていなさい」と。

言葉にせずとも、雄弁に物語っている。



「全く…何処まで手古摺らせてくれるのよ」


「そう言う割りには愉しそうだな?」


「それは勿論よ、私自身、ず~っと追い続けている背中が今、手の届く所に有るのだもの

我慢しよう(・・・・・)だなんて思わないわ」



 そう、例え、私一人の力ではなかったとしても。

それも含めて、この一戦の勝利は譲れない。

孫策に、ではない。

朱士清──この(大馬鹿)にだけは。



「だから──覚悟しなさいっ!」


「ああ、遣ってみせろ」



 そんな朱荒の言動に対し「何を偉そうにっ!」と夏侯惇辺りなら叫びそうなものだが。

既に否応無しに実力差を思い知らさせれている。

だから、何も言えない。


ただ、それでも彼女達は曹操を信じ、見届ける。

誰よりも長く、誰よりも強く、誰よりも求めたのは曹操に他ならないのだから。


朱荒の武力は桁違い──天災に等しい程だ。

しかし、決して無敵でも無尽蔵でもない。

曹操も、曹魏の将師達も、最初から一手しか考えず決め打ちしている訳ではない。

ある意味、計算し易いが故に。

最も可能性の高い方法を選び、準備をし、注力し、その先にも幾つかの手を用意していた。

ただ、その悉くを突破され、現状と(こう)為っている。


だからこそ、曹操は勝つ事だけを考え、集中する。

今の朱荒は確実に盾も、鎧も、失いつつ有る。

それでも、一撃で逆天(・・)する矛は健在。

怯まず、怖れ、勇まず、猛り、退かず、攻める。


その攻撃は苛烈であり、繊細で、大胆で、妖艶で。

復帰し、特設の櫓上から成り行きを見守る脱落した孫策や両軍の将師達の目を引き付ける。

同時に、彼女達は女同士だからこそ感じ取る。

曹操の、朱荒に対する想い、その猛りの丈を。


それ故に、曹操の武は“求愛の舞”でもある。

朱荒と関係の有る者は、知らない所で他の女性とも関係を築いていた事に対する不満や嫉妬も有るが、それ以上に、「私を放って置いてっ!!」という憤怒に異議無く同意していたりする。


状況で言えば、最早応援としては曹操一色。

仲間で有る孫策達ですら、曹操に声援を送る。

規定では、朱荒が勝てば大陸は孫呉の物なのだが。

孫策の今の本音としては「え?、大陸の覇権なんて今更要らないわよ──って言うか、それって敗けた曹操が得じゃないのっ!、今の面倒な仕事も殆んどしなくて良いし、子作り・子育て・幸せな家庭とか──勝っても敗けても曹操万歳じゃないっ?!」だ。

つまり、戦う前から完全に敗けていた訳で。

それなら曹操に勝って貰いたいのが孫策の本音。

その駄々漏れには傍に居る周瑜達も呆れる。

ただ、気持ちが判るだけに、何も言わないだけ。


──とは言え、一騎打ちの趨勢は微妙な所。

開始時点で言えば、曹操に部が有っただろう。

しかし、武の経験値では圧倒的に朱荒が上。

曹操の体力を巧みに削り、自身は消耗を抑える。

勿論、そう簡単には曹操も遣らせはしないが。

ジリジリと拮抗状態へと近付けられてゆく。



「────っ!」



そんな戦いの最中、曹操は舌打ちしたくなる。

その気持ちを孫策達は嫌と言う程、理解出来る。


朱荒が手にしていた槍を破壊したと思えば手放し、直ぐに側に有った剣を拾い上げ、戦う。

体術を基本としながらも、臨機応変な戦い方。

得物を選ばす、得物に依らず。

その武は正に変幻自在にして、天衣無縫。


以前、孫策達が洛陽戦で苦労させられた要因。

ただ、あの時とは違い朱荒に自ら降る理由は無い。


曹操は一旦、絶を手放し、朱荒同様に剣を拾う。

そのまま撃ち合いに持ち込み、武器破壊を狙う。

──が、朱荒に対し、曹操の剣技では劣る。

先に曹操の剣が限界を迎え、鍔元で折れる。


曹操は朱荒に向かって柄を投げ付ける。

軽く躱す朱荒だが、曹操の手には既に絶が。

足払いの様に振り抜かれる絶を朱荒は剣で受け流し──曹操は絶の刃先を強引に地面へと突き刺す。

反射的に飛び上がる朱荒。

其処を狙い身体を空中で捻り、回し蹴りを放つ。

当然ながら、その程度では朱荒には決まらない。

だが、朱荒の剣は折れる。

自身の身体を使い死角から蹴り上げた折れた剣(・・・・)


朱荒は柄を投げ捨て、蹴りに対して腕を盾に。


──その瞬間、曹操は北叟笑んだ。

使う武器を誘導し、宙に浮かせ、武器を手放させ、回避不能な状況を作り出す。


曹魏の将師の皆から情報を集め今の朱荒の戦い方を研究していた。

それは当然だが、曹操だけは原型(・・)を知っている。

だからこそ、朱荒の唯一の隙を見出だせた。


蹴りは防がれる──が、構わない。

そのまま身体を捻り反対の足も使い、蟹の鋏の様に朱荒の胴を挟み込む。


地面に仰向けに倒れる朱荒の上に馬乗りになる形で曹操は朱荒の喉元に短刀(・・)を突き付けていた。

それを見て、朱荒は瞠目し──苦笑する。



「………はぁ…俺の負けだ」


「──もう二度と、私は貴男を離しはしないわ」



 そう言って彼の唇を奪う。

漸く、私は取り戻したわ。

此の掌に貴男を、貴男との未来をね。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。