表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
別冊†恋姫  作者: 桜惡夢
秋奏七歌
127/127

27話


 ……秋蘭の機嫌が悪いわ。

奏太と離れているから、という訳ではないの。

どうやら、奏太の周辺に居る女性が足踏みしている状態というのが感じられるらしいのよ。

それで、もどかしくて苛々している、という訳なの。

……何? その可笑しな感覚は?


そう私は思ってしまった訳なのだけれど。

もしかしたら、これが夫婦の絆という物なのかしら?

…………違う?

浮気をしたりしたら女性は気付くけれど、そういう話は聞いた事も無い?

……既婚者である貴女達が言うのなら、そうなのね。

ええ、大丈夫よ、飽く迄も参考に聞いただけだから。


雑談をする様に女性の武官に話を振り、意見を聞く。

訊いてはみたけれど……それはそうよね。

普通に考えても可笑しいわよね。


ただ、秋蘭が特別なのか、奏太の影響なのか。

二人目(・・・)が居なければ比較は出来無いわね。



「──失礼します!」



──と、のんびりとしていた所に遣って来た兵。

その身形──胸元の奏太が考案した隊章を見れば一目で夏侯惇隊の者である事が判る。

黄巾党の象徴である黄巾から着想を得たという事だけが引っ掛かるけれど。

それも元を辿れば天和達の遣っていた事だから……

そこまでは、悪い印象ではないわね。


そんな事を考えながら、兵に訊ねる。



「何かあったの?」


「はっ! 偵察に出られていた元譲様から不審な一団を発見したとの報せです!」


「……発見しただけ?」


「……攻撃はしていない、という年押しが有りました」


「そう……」



伝令を任された兵が言い淀む。

それを見ただけで否応無しに不安になるわ。

まあ、春蘭にしては手を出さなかっただけマシね。

以前の孫策との一件が活きているのかしら?

それとも、その時の奏太への借りとか?

何にしても、攻撃は(・・・)していない訳ね。

不審な一団という事で捕縛位はしているのでしょう。



「此方に連れて来られるのかしら?」


「人数が人数の為、少々掛かりますが……可能かと」


「そう……それなら、連れて来る様に伝えて頂戴

──ああ、怪我人や病人が居る様なら無理はさせずに、改めて報せて頂戴

その場合は此方等から向かうわ」


「はっ! 了解しました!」



そう言うと兵は敬礼し、立ち去る。

……誰か同行させた方が良かったかしら?

正直に言えば、間が悪いのよね。

春蘭だけでなく、偵察に半数を出し、残りは就寝。

その為、今起きているのは私だけ。

私が動くとなると誰かを起こさなくてならない。

怪我人や病人の有無は判らないけれど……

取り敢えずは、偵察に出ている誰かの戻りを待つ事しか今は出来無いのが実状ね。

何事も無ければ良いのだけれど……






「劉備? あの義勇軍を率いているという?」


「はい! その劉備とやらです!」



 自信満々で華琳様の質問に復唱で返す姉者。

間違いでもないが、それはどうなんだ?

一緒に話を聞いている桂花・稟・星の視線が冷たいぞ。

まあ、姉者だからなぁ……

華琳様も皆も何も仰有らない。

言えば話が本筋から大きく逸れてしまうからだ。


偵察に出ていた私達は戻ってきて華琳様から話を聞き、姉者が戻ってくるのを待っていた。

……「何も起きるな」と願っていた事は内緒だ。


姉者の方からは「問題無し」と有ったので待った。

到着した姉者達──正確には遭遇した一団の方になるが疲労困憊である事が一目で判った。

姉者達の移動に付いてくるだけで精一杯だった様だ。


ただ、それだけではなく、練度の低さも窺えた。

明らかに、調練をしている兵──軍隊(・・)ではない。

言い方は悪いが、どんな無能な主の下だろうが、調練を行っていれば、それなりには形になるものだ。

だが、それ(・・)が見られなかった。


──が、姉者の説明を聞いて納得した。

義勇軍であれば、その多くが一般人だ。

凪達が率いていた大梁義勇軍が特殊なだけで、義勇軍の多くは正面な調練など受けてはいないし、遣らない。

まあ、それは徴兵で集まった農家の三男四男等が多く為だったりするから仕方が無いのだがな。






「は、はじゅっ、初めまして! 劉玄徳です!」


「しょきゃっ、諸葛孔明と申しましゅっ!」



華琳様を前に緊張し、噛みまくる二人。

劉備の方は「おい……」と言いたくなる。

桂花が睨んでいるしな。

「その無駄な栄養を思考に使いなさいよっ!」等と言う罵倒が聞こえそうな殺気の籠った目でな。

勿論、実際には隠しているのだが。

知っているからこそ、私達には判る。


一方で諸葛亮に関しては「可愛いな」と思う。

思うのだが──私は直ぐに違和感を持った。

何と言うのか……周泰は可愛い。

しかし、諸葛亮は見た目は可愛いのだが……

──ああ、そうか、歳上(・・)だからか。

だから、見た目通りには受け取り難い。

私自身が出産経験も有るからなのだろう。

純粋さや素朴さという方向の可愛さではない。

少し歪な可愛さだから、といった所か。

上手く言葉にはし難いのだがな。


二人は凪達の様な同志ではなく、主従関係。

だからと言って、似るという訳ではない。

偶々、だろう。

まあ、あまり有名な有力者とは関係が無い様だからな。

こういった事に慣れてはいないのは仕方が無いか。

所詮は他人事(・・・)だから指摘も不要だ。




劉備達との謁見が終わり、二人が天幕を出た後、何とも言えない重苦しい沈黙が場を包む。

桂花が「ちょっと何か言いなさいよっ!?」と。

稟が「済みません、御願いします」と。

視線で促し、星は視線を合わせもしない。

……姉者? 劉備達と出て行ったから居ないな。

居た所で役には立たないがな。



「華琳様、大丈夫ですか?」


「……はぁ~…………御免なさい、大丈夫よ」



その原因である華琳様は深く溜め息を吐き、纏っていた怒気を散らされる。

桂花達が、ほっとしているのが判る。

まあ、私にしても、こんなにも御怒りになった華琳様は記憶に無いかもしれない。

それ程に珍しい事だった。



「劉備の事は貴女達も聞いてはいたでしょう?」


「ええ、一応は、ですが」



華琳様が仰有っているのは先程の謁見での事ではなく、黄巾党が現れて以降の情勢の中での劉備の事。

つまり、事前に掴んでいた劉備達の情報に関して。

──とは言え、然程多くはない。

あまり重要視はしていなかった存在でもある。


軍師としての立場であれば違うのかもしれないが……

──ああいや、そうでもなかった様だ。

桂花も稟も「劉備? 大して気にしてはいなかった」と顔に書いてある。

客観的な評価としては、その程度だという事だな。



「私はね、劉備の事を少なからず評価していたわ

私と孫策、其処に並び立てる一人かもしれない、と」



──が、続く華琳様の言葉には私達は驚くしかない。

「孫策に関しては兎も角、あの劉備を?」と。

一様に思ってしまう。

それ程に、華琳様の評価は意外なものだった。



「……そこまでですか」


「ええ、そこまでよ

勿論、私や孫策とは在り方──考え方が違うわ

奏太は私達を現実主義、劉備を理想主義と評したわ

成る程と思ったもの

私も孫策も目指す理想や抱く野望は有る

だけど、其処に至る過程では現実的に考える

対して、劉備は理想を掲げて人心を掴む

現実的な遣り方や考え方では舞台にも上がれない

それを理想を貫く事で成そうとしている

滑稽にも思える事を、大真面目に本気でね」


「……それは気にもなされますね」



さらっと奏太にだけは御話ししていたと口にされる。

妻としては、愛する夫への信頼は誇らしい。

「早く華琳様にも応えて差し上げろ」と思う。

ただ、同時に一家臣としては嫉妬も抱く。

それは桂花達にしても同じ事だろう。

然り気無い惚気だが、華琳様が誰よりも奏太を信じて、頼っているという事でもあるのだから。

まあ、そうなる華琳様の御気持ちは判る。

判るから、少し靄っとするが、それだけだ。

その嫉妬は長続きはせず、直ぐに消え失せる。



「けれど、実際に本人を目の前にして驚いたわ

何しろ、劉備自身に覚悟(・・)が感じられないのだから

そんな馬鹿な話が有るかしら?

義勇軍とは言え、千を超える命を背負っているよ?

それなのに…………っ……」



華琳様が右手を握り、小さく机を叩かれた。

理性が働くから、その程度の音に留まるが。

姉者なら──いや、孫策なら、壊している所だな。

あの二人は自分の感情に正直だからな。


それはそれとして。

其処に込められた苛立ち──憤怒は理解出来る。

私達の立場からしても「巫山戯るな」と言いたい。

ごっこ遊び(・・・・・)がしたいのなら、他所で遣れ」と。

そう言いたくなってしまったのだから。



「……っはぁ~…………まあ、それは置いておきましょう

それよりも、今の問題は劉備達の話していた事よ」


「黄巾党の部隊に敗れた(・・・)、という事ですね」



黄巾党にとっては劉備達の義勇軍は要警戒対象。

本来であれば、接敵を避けるべき相手だ。

それなのに──黄巾党は仕掛けてきた。

襲撃をする側だった義勇軍は虚を突かれた格好になり、体勢を立て直せないまま敗走する事に。

劉備達の本隊は人数を半分以下に減らした。


──が、これには、そうなった理由が有った。

劉備を支える文武の両腕。

軍将の関羽・張飛、軍師の諸葛亮・鳳統である。

その内、関羽と鳳統が別行動中だった事だ。

其処を狙われた。


襲撃──攻撃を仕掛ける側だったなら、勝てただろう。

だが、一度混乱した組織を掌握し、立て直せる者が不在だった為、為す術が無かった。


劉備の義勇軍の弱点──関羽以外に手綱(・・)を握れる人物が存在しない事。

それを見抜かれ、突かれた訳だ。


当然、この仕掛け──結果も偶然ではない。

黄巾党は狙って、そうなる様に仕向けていた。

結果論にはなるが、そう諸葛亮は話した。

悔しそうに、小さな手を震える程に握り締めながら。



「先日の曹軍(ウチ)と孫策の所が打付かった事を含めても、明らかに誘導しているわね」


「……参謀(助言者)が付いた、という事でしょうか?」


「どうかしら……

正直、この程度なら情報収集さえ出来れば、少し兵法や軍略を齧っていれば出来ると思うわ

寧ろ、重要なのは、その情報収集に関してね」


「劉備の所であれば内通者の可能性も有りますが……」


「ええ、宅や孫策の所となると、ねぇ……」



外部から(・・・・)見て判る様な情報だけではない。

明らかに、主要な人物の性格や得手不得手、思考の傾向といった情報を黄巾党は掴んでいる。

だからこそ、劉備達は敗走せざるを得なかった。


私達も事前に協力関係を結んでいなければ、以前の様に再び衝突していた可能性が高い。

また、混成軍を編成していた事も大きい。

混成軍(アレ)は御互いにとっての人質(・・)も兼ねる。

その存在が有るから、御互いに冷静になれる。


尤も、この案を出したのは奏太だ。

真意を知る桂花と周瑜の顔は渋かったがな。

ただ、それは御互いに自陣の問題児を考えての事。

それ故に奏太に対する評価は上がった。


因みに、孫家側では周瑜と祭しか知らない。

此方等は華琳様と私、桂花と奏太だけだ。



「全く……こうなる事を知っていたみたいね

こうも奏太の懸念していた事が当たると怖くなるわ」



そして、表向き(・・・)の理由が、釣り餌(囮役)だ。

これは孫策達も含め、混成軍に配属していない主力達に伝えられている。

……ああいや、姉者には言ってはいなかったな。

姉者は嘘や隠し事が下手過ぎるからな。


さて、奏太達の方はどうなっているのか。

もしかしたら、関羽達を助けているかもしれない。

こういう時にこそ、奏太は引く(・・)からな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ