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なぐられて影武者  作者: 十五郎
終章 レバンジオ王国の新しい1日
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5-2


 イストはノートに何かを書き終えた様子で、ペンを机において背伸びをした。

 ここは彼に与えられている自室。少々手狭だが、騎士階級の人間が王城に部屋を持っていること自体が希なので、持っているだけで十分であるとも言える。

 そんな小部屋に近づいてくる足音があった。足音からして相当に急いでいる。


「騎士イストっ!!」


 その人物は扉を開け放つと部屋の持ち主を睨み付けてきた。


「どうしました、スイナ様?」


「少し話をしたいことがあってえぇぇっ!」


 とりあえずスイナはいつものように跳び蹴りをかましてくる。それを当然のように顔面に受けるイスト。

 相変わらずである。


「お兄様とあの悪辣な魔女が正式に婚姻したわ」


「それはめでたいことですね」


「……ま、まあ、あのお兄様がきちんと真面目に政治をやりたいと言い切ったのはとても良いことね。相手があの女でなければもっとよいのでしょうけれど」


 大切な家族が結婚するのだから心境は複雑である。しかも、クラオジルスはタダノィルに婿養子として行くのだから不安は何倍にも膨れあがる。


「無理ですよ、王子はあのヒメコ姫だからこそ一緒になろうと決心したのでしょうから」


 イストは少し柔らかく微笑みながらスイナに教えるように話しかけてきた。

 心配性というか、過保護というか、スイナの行動はイストにとってはよくあることで微笑ましいことであった。


「でも、一人息子であるお兄様を外国にやってしまうだなんて、お父様とお母様はなにを考えているのかしら?」


「ちなみに、貴族議会から働きかけがあったわけではないので、あまりテクタイト殿をいじめないでくださいね」


「大丈夫よ。議長の指が反対方向にどのぐらい曲がるか実験しただけだから」


「うえぇぇぇっ!?」


「心配無用!」


「冗談だったのですか……」


「いや……人間の間接ってすごいんだと思っただけよ」


「ちょぉっ!?」


「90度は当然よね。それ以上に曲げていくと驚いたことに――うん? 貴方、何か書いていたのかしら?」


 恍惚そうな笑みを浮かべながら解説しているスイナが、イストの手元にあったノートに目を向けた。それをイストは「ああ、それは……」と話し出す。


「歴史が後世の覇者によって改ざんされてしまうのであれば、童話の形で残そうと思いまして……ね」


「なるほど。何であるかは理解したわ」


 スイナはノートを手にとってパラパラとめくり始める。


「つまり貴方は、この物語を『太陽を引っ張った王様』と同じように語り継いでいきたいというのね」


「ええ。それ以外にも歴史の事件を物語にして残していきたいですね」


 そう言って窓から見える景色を見つめるイスト。スイナはノートから目を離し彼の顔を見つめた。そこには何かを成し遂げたかのように、自信に満ちあふれた男の顔があった。しかし、疑問がある。


「それが貴方の夢?」


「はい、今のところは」


「じゃあ、昔に産婆が言っていたとかいうあの馬鹿げた夢は?」


 この度の一連の騒動が終わってから、イストはスイナに自分の過去について語った。その中で彼は自分の夢についても話した。


「まあ、あの産婆自体が詐欺師だったわけだけど……」


 レバンジオ王国としてその産婆の予言について調べていったが、その産婆は赤子が男の子であるとわかると決まってその話をするのだということがわかった。つまりは、イストの両親は軽く騙されていたのだ。いや、騙されていたと言うより、子供を必要以上に褒められて舞い上がってしまったということだろう。


「でも、私は産婆を恨んではいませんよ」


「そうなの? だって貴方はその予言のおかげで自分の夢が国を治めることだと思いこんでいたのでしょう?」


「それはそうですが、夢に向かって色々と勉学に励んだおかげで王子の影武者になり、こうしてスイナ様に出会えたのですから」


 ストレートな物言いに対してスイナは顔を赤くしながら「ふ、ふーん」と興味なさそうに呟いた。そして視線は再びノートへ。


「……お兄様が優秀なのはとても良い設定ね!」


「はい。実際に王子は『やればできる子』ですからね。これからタダノィルは時間は掛かるでしょうが、きっと住みよい国になるでしょう」


「ドラゴンは魔神と悪魔にしたのね」


「はい。結末は再封印した現実と違い、空の彼方に飛ばしてしまいましたが……」


「アウレヅィア・セメンを悪用しないようにするには、大地から消え去ったとする方が良いとワタクシも思うわ」


 スイナはあのときのイストの言葉を思いだした。確か、「夢は見るだけのものでもなく、授かるだけのものでもなく、叶えるためのものだ」とか言っていた。「だからこそ、叶えるための過程も大事にしなければならなく、楽をしてはだめなのだ」とも言っていた。最後に彼が「それに、私にはシリアスは似合わないようです」と笑いながら言ったのは蛇足だったのかも知れないが、彼らしいなと思って安心もした。

 人の高慢さに辟易していたアウレヅィア・セメンにはとても良い解答だったようで、すぐに封印に応じてくれたのだった。その封印ついでに、あのミイラジジイを取り込んで封印されてくれたのは良いことだったと思う。

 スイナは童話を読み進めていく。


「……うん?」


「どうしましたか?」


「あれ? ワタクシって貴方にお兄様と悪辣魔女が婚姻しそうだなんて言ったことあったかしら?」


「いいえ。スイナ様からの口からそのことを聞いたのは、先ほどの『正式に婚姻した』ということだけでしたが、何か?」


 ピシリ。

 スイナの足下の床にヒビが入った。たぶん、地の精霊行使とかそういう危ないことをしたからだろう。


「それなのに、なんで童話の中でお兄様と悪辣魔女が婚姻しているのよぉっ!?」


「はっはっはっ……簡単なことです。この度、王と王妃にお二人の婚姻話を持ち込んだのはこの私ですから!」


「自慢げに語るなっ、この歴史改ざん犯めぇぇぇぇっ!!」


 そしていつものようにスイナはイストをブン殴って去っていった。

 しばらく壁にめり込んでいたイストは、ゆっくりと起き上がってスイナが落としていった童話のノートを拾い上げた。

 それを机に置き、童話の最後のページを開き、ペンを走らせた。


「めでたし、めでたし……っと」




【了】

というわけで、イストとスイナの物語はこれにて終了です。

最後まで読んでくださってありがとうございました。


なお、この小説の世界観を作るきっかけになった物語がありまして、暇を見つけてそちらを執筆していきたいと考えています。

そちらはイストのようなギャグ体質の主人公じゃありませんし、お姫様もスイナのような暴力魔でもありません。基本的にシリアスです。まあ、ちょっとネジが飛んじゃっているような「自称・吟遊詩人」のマッチョマンとかは出てきますけど。


あらすじはこんなの↓

 ザルジバという大国をクーデターで乗っ取った若い王子がいた。彼は「大陸国家主義」を掲げ、大陸全土を支配しようとしていた。その姿を見て一部の歴史家は覇王クロゥバルドの再来と言った。

 そんな彼の征服によって国を滅ぼされた一人の姫。彼女は一人の騎士を伴って逃亡生活をしていた。ある日、山で山賊に襲われているときに狩人の少年が助けに入ってくれた。その少年の村はザウルスを狩る狩人の村で、ドラゴンをもしたゴーレムという兵器を作るために竜核を集めていた。そう、その村はザルジバの属国であるトナリス公国の村だった。やがて村にも山賊が侵入し、姫は自分の身分がばれてしまう。その時村人が取った行動は、姫と騎士を追い出し、二人を招き入れた少年も追い出すことだった。

 そして三人は供に旅をするようになる。最終目的地は古の都ベルセポルツ――

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