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畜生の断末魔~ゲームの世界に転生をした村人は原作を知らない~  作者: 梓川澪
第一章:断罪の運命にある唐紅の令嬢
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第一章 第一話 原作を知らない精霊族の村人

おはようございます、こんにちは、こんばんは。

気ままに執筆をしています、梓川澪です。

私のことは知らない人が大半でしょうが、私の他作をお読みになった方、今作を覗いて下さりありがとうございます。

始めましての読者様、暇潰しがてらに読んでいただけると嬉しいです。

 私は性奴隷のヒモである。

 いや、ヒモと呼ぶと語弊があるかもしれないな。

 不貞相手の夫に殺され死んだと思われる私は、何の因果か転生をした。

 多分だが、元いた世界ではないだろう。

 俗に言う異世界、という場所だ。


 たかだか二十と少しだけしか生きていない、若年の私が知る限りでは、言葉を発したら手から炎が吹き出したり、森に入れば見たこともない奇っ怪な生物が棲んでいるといったことは、地球ではありえない。

 当然、空想の中ではしかお目にかかれない、巨大な爬虫類に似た〈竜種〉なる化物が、空を飛んでいることもない。

 それが現実にあったら、即座に機動隊沙汰だ。


 ……おっと。

 少々、話がズレたかな。

 ともあれ、私――相馬(そうま)(かえで)二十一歳は、ノエル・カインディアとして異世界ルトラトスに転生した。

 転生をした私がまず察したのが、外国人に生まれ変わったのではないか、といった推測だった。

 ちっさい私を抱いている母親らしき女性の顔立ちが、西洋出身の知人に似ていたからである。

 まあ、特に出身や人種にこだわりがあったわけでもない。

 不幸なというか、半ば巻き込まれた形で殺された身であるので、記憶を保持したまま生まれ変われただけでも運が良いと、自身の心に言い聞かせるしかあるまい。

 そう、おぎゃーと生まれたばかりの私は暢気に考えていたのだが……。


 ――おかしいな。


 と、思い始めたのは歩行や発声が出来るようになった頃のこと。

 我が父、ルイス・カインディア氏が猟銃を背に帰ってきた。

 この男は、今世での実父にあたる人物で、朝方猟銃を持って近場の森に入り、そして夕刻になると獲物を獲って戻って来る。


 これまでは、小さい兎や栗鼠――。

 偶に熊や猪を戦利品として持ってきた事もあった。

 なので、私は狩人を生業としているのかな、とアホ面で思っていた。

 しかしながら、その日ルイス氏が家の床に置いたのは、異様に牙が大きいうさぎちゃんだった。

 狼の如き鋭い牙は、噛まれたら軽い怪我では済まないだろう。

 血抜きは既にされているようで、手慣れた様子でルイス氏は、その健康的な発達をしたうさぎちゃんを解体している。


 はてさて、このような小動物が世界にはいるのか。

 生まれてこのかた……いや、まあ一度死んではいるのだけど、そんな鋭利で凶刃な牙を生やしている兎に覚えはない。

 私が知っている兎は、小学生の頃に敷地の片隅で飼われていた『ヴァルキリー』という、誰にでも馬鹿みたいに噛みつき威嚇する雌の兎だけだ。


 もしかしたら、ここは世界の何処かに点在する秘境なのかもしれない。

 地理や生物学に精通していないので断定は難しいが、未だ発見されていない未知なる土地があっても不思議ではない。

 そこに密かに住まう、外界の文化と歴史とは隔絶された集落の家に転生をしたのかな。

 と、ルイス氏の解体現場を観察しながら、母の乳を吸って寝るのが仕事の私は、突飛な発想を広げていた。


 そんなこんなで、口下手だが元気な男の子に育った私は、狩人であるルイス氏の仕事を手伝いながら、今世での知識を養った。

 家の書棚にあった本を読んで分かったのだが、どうやら私が転生をしたのは外国ではなかったようで――。

 地球ですらない。

 太陽系に位置する星なのかすら怪しい。


 世界の名は――ルトラトス。

 滅却神(めっきゃくしん)ガイアによって、創造されたのだとか。

 物騒な呼称ではあるが、ひとまずは気にしないでおこう。

 世界の成り立ちや歴史を辿るのも興味深かったけどれども、私が関心を寄せたのは《魔法》だ。

 このルトラトスに生きる人々の身体には、魔力といったエネルギー物質が流れており、それを用いることで《魔法》を発動させ、超常の現象を発生させられる。


 私だって、年頃の男の子だ。

 そんな好奇心を擽る単語を聞いたら、心なしか浮かれる。

 前世の私は成人しており、童心など枯れ果てていたが、しかし。

 思い返せば、子供の私は母親のヘソクリを盗み、その金で異世界を題材にしたゲームを買って遊び、そして盗んだことがバレて大目玉を食らっていた。

 私がやっていた作品は長閑な田舎で、《魔法》を駆使して農場を営み、時には農場の周囲にある森林で魔物を狩ったりなど――。

 いまとなっては、どうしてその作品に惹かれたのか謎だが、当時の私には魅力的だったのだろう。


 なので、異世界や《魔法》と言われ、詳しい説明はいらないし混乱もしない。

 洞察力は下の中程度しか無いが、冷静に物事を見れるのが、私の数少ない長所だ。

 前世がどうであれ、現在の私はルイス氏と、そして母のフレイ氏の一人息子であることに変わりはない。

 まだ未来を自分で選択出来るような年齢でもないので、成り行きに任せるしかなかった。


 そんな、なるようになれ精神のノエル少年は――。

 成人をして定職に就き、途中で退職をすると各地を転々と旅しながら流浪人となった。

 随分と話が飛んだように思えるかもしれないが、それまでの経緯を長々と語るほど、私の人生は面白いものでもないので割愛させてもらった。

 ちなみにだが、両親――ルイス氏とフレイ氏は、私が十代の前半に流行った病で死んだ。

 あっさりと死んだので、驚きもない。

 とりあえず、死体が腐って〈腐屍人(ゾンビ)〉化されても処理が面倒だった私は、両親の亡骸を《魔法》で焼いて火葬した。


 これは、のちに知ったことなのだが――。

 私は〈人間族〉ではないようで。

 ルトラトスに存在する数多の種族のうち、〈精霊族〉といわれる種だった。

 何故、それを自覚したのかというと――。

 私の愛嬌のある容姿が三十を過ぎても、幼少と然程変わらず、そのうえ〈精霊族〉にしか扱えない特殊な《魔法》を使うことができたからである。

 他にも要因はあるが、私は不老で長命なのを悟った。

 父も母も他界したので、聞きようも無いが、私が〈精霊族〉だということは、必然的に両親も〈精霊族〉になる。

 それを私に黙っていたのは、私の力を利用しようとする権力者などから守る為だったのかもしれない。


 ルトラトスでは、〈精霊族〉は希少な種族だ。

 大陸の果てにある樹海に小規模の集落が築かれ、しかし他種族との関わりは皆無に等しい。

 現代――傀亡暦(かいぼうれき)738年に於いては、現存するのかすら不明で。

 正確な数を知る手段も限られ、幻に近い存在にされている。

 まあ、こうして私がいるのだから、絶滅はしていないけど。

 私自身、他の〈精霊族〉に出会ったことはない。

 かといって、自ら探そうとも思っていなかった。

 外見は〈人間族〉と似通っている為、一見して見分けが付かないし、〈精霊族〉の集落に向かうにも色々と障害が伴う。


 ――と。

 そこまで考えると、スッと目を開けた。

 長椅子に腰を沈めている私は、眼前に座る人物を見る。

 どうやら商談の最中、相手の自分語りがつまらな過ぎて、下らない過去を思い出していたようだ。


「それで、ケビン。用件は何かな」


 私は重い瞼を上げ尋ねる。

 身体を強張らせた男は言った。


「あの……僕はカイル……です……」

「いいや? 君はケビンだよ。私がケビンだと言っているんだ、間違いない」

「え、えーと……」


 ケビンが困った様子で視線を彷徨わせる。

 商談の時間は有限だ。

 私は話の先を促す。


「君の用件を聞こうか、ケビン」

「あ、はい……」


 ケビンは諦めたように肩を落とすと、気弱な声で話しだした。


「ノエルさんは……その……人情に厚い悪質な情報屋だと、そう伺っています」

「相反する評価だね。誰が言っているのかな、そんなこと」

「僕……です」

「嘘、少し言葉に詰まったね。本当は?」

「……ロズレリア公爵様です」

「あの穀潰しの戦闘狂か」


 私は長椅子の間に置かれている、テーブルの上に手を伸ばす。

 カップに入れられた褐色の飲料を口にした。

 淹れてから時間が経っているので、冷めきっている。


「ロズレリア公は、虚言癖が凄いんだよ。だから、彼女の発言は鵜呑みにしないほうが良いよ。……でないと、君は嘘を真実だと思ってしまい、場合によっては嘘付きになってしまう」


 ロズレリア公爵のことは、昔から知っている。

 私が仕事を辞め各国をフラフラとしていた時期に、ある事件がきっかけで関わるように……いや、絡まれるようになった。

 私としては、面倒極まりない。


 現在、私が滞在をしている此処――レクズザリド神聖国の国境線に、広大な領土を持つ公爵家だ。

 貴族の階級でも、それなりに偉い方らしいが、私にすれば会う度に問答無用で殺傷性の高い、凶悪な《魔法》を最大出力でぶっ放す、イカれ女だ。

 彼女が憲兵に捕まらないのが不思議だが、腐っても公爵。

 裏で根回しをしているのだろう。

 あんな危険人物は、さっさと法の下に裁いて牢の中に入れておいてもらいたい。


「――それに、私は情報屋でもなければ、ノエルでもない」

「え……?」

「各地を放浪している、根無し草の旅人……のようなものだよ」


 そう、私は情報屋ではない。

 何なら、仕事もしていなかった。

 常時、財布の中身が寂しい流浪人。


「……で、でも……聞いてきた特徴と一致していますし……」


 チラリ、とケビンがこちらの容姿を窺う。

 誰に何を聞いたのか知らないが、僕の容姿に顕著な部分はない。

 何処の街にもいる、ありふれた青年の姿。

 平々凡々な容貌をしている。

 前世では目立ったかもしれない銀色の短髪も、ルトラトスでは普通だ。

 男性の平均的な身長より少し低めで、ほっそりとした体格。

 禄に運動もしていない身体は、筋肉が付いていない。

 幸の薄そうな顔はやつれ、肌は艶を失っている。

 目の下にある隈は、連日夜更かしをした影響。

 服装に無頓着な私は、何年も使い古した安物のスーツをダラリと着ていた。


「私は見ての通り、旅人だよ」

「……み、見ての通り……?」


 そうは思えない、とケビンの目が言っていた。

 私は肩を竦める。


「旅人には見えないかな」

「はい……その……」

「じゃあ、何に見える?」


 一呼吸置いて――。


「……引きこもりの無職」

「間違ってはいないね、うん。良い観察眼だよ、ケビン」


 あはは、と私は笑う。

 人差し指を立て続けた。


「――だけど、惜しいね」

「惜しい?」


「うん。年中、引きもこもりだし……仕事もしていない、探す気もない……ついでにやる気もない。……しかし、ただの無職とは違う」


 ケビンが怪訝な顔をした。

 私はソーサーにカップを置き、堂々と告げる。


「世界を旅する流浪人であり、そして……昔、馴染みの奴隷商から買った性奴隷の脛を齧って生きている、ヒモだ」


「……は、はあ」


 反応に困るケビン。

 私は簡潔に教えてあげる。


「私は辺境の農村生まれの平民なんだけどね。幼い頃に両親が死んじゃって……けれど、生きる為にはお金が必要だった。金銭を得るには、最低限の知識……教養が必須条件だ。故に、私は勉強に励んだ。……それで、性奴隷を買ったんだ」


「……ん?」


 私は乾いた口内を潤そうと、珈琲を飲む。

 ケビンはより疑問を深まったように眉を寄せていた。


「大分、端折りませんでしたか……?」


「どうだろ……そうかもね。別に、人様に聞かせるような武勇伝でもないし……ここは、読み聞かせをする場でもない」


 私は目を細め、対面に座るケビンを見据えた。

 変わらない平坦な声で問いかける。


「ケビン、君はさっきロズレリア公爵に聞いて、私のもとを尋ねたと言ったね?」


 私は座った状態から動いていない。

 威圧もしていないのに、ケビンは怯えた様子で目を逸らし肩を震わせた。


「私は彼女、ロズレリア公爵とは顔馴染みでね。懇意にしてもらっているんだ……不本意ではあるけど」


 スーツの内ポケットに仕舞ってあった煙草とライターを取り出す。

 口に咥えると、火を付け吸った。


「そんなロズレリア公爵が、昨日の夜中に伝書竜(でんしょりゅう)を使って手紙を送ってきてさ……」


 伝書竜(でんしょりゅう)はルトラトスで、一般的に使用されている運搬手段だ。

 緊急時の連絡や配送で、用いられるケースが多い。


「その手紙にはロズレリア公爵の直筆で、こう書いてあった。『傀儡の晩餐会(ティペナト)と共謀してレクズザリドの転覆を目論んでいる内通者が判明した。その名は』――」


 と、私が名前を告げようとしたそのとき。

 目先に鈍色の鋼が迫り、咄嗟に首を捻る。

 それは革製で作られたソファーの背もたれに刺さった。

 刀身が短い、短剣だ。

 私はケビンに顔を戻す。

 彼は投擲をした体勢で、下を向いていた。

 この商談をする部屋に来て今に至るまで、ケビンはずっと黒い外套を被っており容貌は判らない。


「……ふ、ふふ……ふふふ……」


 ケビンが不気味に笑う。

 そこに焦りは見えず、感情が乗っていなかった。


「どうしたの? お腹でも痛い?」


 私は吸い終わった煙草を、灰皿に捨てる。

 刺さった短剣を抜いて、手の中で回した。

 借り物の部屋なのに、備品を壊してしまった。

 これは誰が損害を賠償するべきかな。

 避けた私にも、責任はあるのだろうか。


「いいえ? お気遣い痛み入ります。……ですが、ご心配は無用です。私の身体は傀儡の晩餐会(ティペナト)の魔導技術により強化されていますので、腹痛になることはございません」

「へー」


 ケビンの口調が変わり、低い冷たい声音になった。

 顔を上げ、私と視線を合わせる。

 フードの奥に光る紅が、私を射抜いた。


「今日は純粋に、ノエルさんに依頼をしにきたつもりだったのですが……まさか、先んじて私を嵌める罠を張っていたとは。強者と戦うことしか頭にない娘だと思っていましたが、私の浅慮だったようですね」


「合ってるよ。ロズレリア公爵は、基本的に相手を殴ってから物事を考える。知略に関しては、齢七歳の子供にも劣るよ」


 苦笑して、私は内心で訝しむ。

 ケビンは罠とか言っているが――。

 はて、何のことかさっぱりだ。

 私は宿屋の店主に、依頼をしたいと思っているケビンを紹介され、こうして商談を設けた。

 ロズレリアが送った手紙の内容も、小難しい政治の話が綴ってあったので、大半は読み飛ばしている。

 目に止まった傀儡の晩餐会(ティペナト)のことを、口にしただけ。

 私の発言に、深い意味合いはない。


 傀儡の晩餐会(ティペナト)は、たしか〈邪神族〉を崇拝するカルト的な集団だったかな。

 あんまし覚えていないけど……。

 近年では悪魔召喚を行ったりとか、過激なテロ行為が活発だといった話を人伝に聞いた。

 ケビンが傀儡の晩餐会(ティペナト)の構成員だとして、私に何の用事があったのだろう。

 怪しげな儀式の協力が目的なら、お断りである。

 私は表面上は善良な市民だ。

 犯罪の片棒を担ぎたいとは思わない。


「――しかし、あの脳筋馬鹿は鼻が良いんだよ」

「鼻……?」


「うん。その嗅覚の性能は、さながら魔獣だ。どれだけ《魔法》で隠蔽をしようと、彼女の鼻は誤魔化せない。真偽を嗅ぎ分け、そして本質を暴き出す」


 ケビンは口を閉ざした。

 立ち上がり、私は短剣を手にする。


「君が何処の組織に所属してる誰だろうと、私は構わないし興味もない」

「目的が人民を生贄にした儀式だとしても?」

「うん……? え? なに、そんな陰惨なこと企んでるの?」

「ええ。愉快でしょう」


 ケビンの口角が吊り上がった。

 全然、愉快ではないが……。

 可能なら、やめていただきたい。

 このレクズザリド神聖国が滅ぶと、私の稼ぎ口が減ってしまう。

 そうなれば、娼館で娼婦を買うお金が足りず、性欲を満たせない。

 大変な事である。


「君を見逃すと、私は欲求不満になりそうだ。すまないけど、ここで処理させてもらうよ」

「ふふ、出来るものなら……ん? ……欲求? 何の話ですか」

「私は女好きという話さ」


 短剣を掌で回転――。

 それを指で弾いて、ケビンに飛ばす。

 高速の不意打ちに反応が遅れ、短剣が額に突き刺さった。

原作を知らない村人、悪の組織の幹部と対峙する。

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