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思し召し  作者: もい
19/19

10

さらに日にちを経て、体はきちんと回復した。

リハビリで医療棟に行く以外はずっと優美ちゃんと浩くんに部屋に押し込められていた。曰く、悪い気に晒されたあとは風邪を引きやすいらしい。なんじゃそりゃ。


ちなみに。

あの子たちのことを思い出したあと、色々と聞いた。


浩くんたちは、頻発する「些細な事故・事件」が悪い気によって起こされていないかどうか調査をするため、あの場所にいたらしい。


そこで、あの子たちに会った。


浩くんたちはあの子たちを浄化したかったらしい。嬉しいことも楽しいこともわすれたまま、知らないまま、消してしまうのは嫌だったと。

でも、浩くんたちの力じゃ、浄化に持っていくのはかなり難しかった。


そこに、山の神様が力を貸してくれた。

浄化への道筋を整えてくれた。


ここからは、優美ちゃんから聞いた話だ。


私の背中にいたのは、曽祖母ではなく、この祠の神様だった、らしい。


「神様が私にいらした時の、脈動?うんと、神様の気の動き?が紀久ちゃんの背中の方と同じだったの」

だから、人見知りしなかったのかな、と優美ちゃんは微笑んだ。


優美ちゃんは本当はかなりの人見知りで、初対面の人と買い物に行くなんて普段は考えもしないそうだ。


それと、内緒なんだけどねと話されたのは少し重い話。


国道から少し入った山の中で、あの子どもたちのお母さんの遺体が発見されたそうだ。

死後ひと月経過していた。


子どもたちの遺体は、自宅の押入れの衣装ケースに詰め込まれていた。暗くて、狭い場所に。


山の神様は、邪魔な異物を早くどかして欲しかったみたいだよ、と優美ちゃんは言ったけど、子どもたちをちゃんと連れて行ってくれた。


優しい、神様だと思った。


でも、なんで私の背中にいらっしゃったんだろう。


「なんでだろうねぇ」

と優美ちゃんがニヤニヤと笑ったけど、答えは教えてくれなかった。


なんかわからないけど、頭の中に神様の歌が流れた。じいちゃんの朗々とした声で紡がれる、終わりがない神様の歌が。


もしかしたら、”おんばあ”をしていた曽祖母のせいかも、とちらっと思った。


それから数日後、浩くんと優美ちゃんがちょっとだけワクワクした顔で教えてくれた。


「あのね、あの日からずっと頭に音楽が流れていて、なんだろうって思ったら、9人組男性アイドルの曲で。そしたら、浩くんが」

「紀久さんのひいおばあさんの話を思い出したんだ。その話を瀬越さんにしたらメンバー集めて俺が踊るって」


「あのね、今回、すごく山の神様にご助力をいただいてあの子たちは環の中に還れた。

それに浩くんがあそこで食われてたら、大変なことになっていたかもしれない。あの子たちもただ祓う…消してしまうだけになっていたわ」


「それに、お詫びもしなくちゃいけないのよ。私たちこんなお仕事しているのに、山の異変に気づけなかった。あそこの道、通勤で毎日通っている人もいるのに」


ダンスのことをを聞いた所長が、それなら、お詫びもかねてお祭りを開催しようか、といいだしたらしい。

早い方がいいだろうと、開催日はすぐに決められた。


ちなみに浩くんは初期メンバーだったがあまりのセンスのなさにダメ出しをくらい、メンバーをはずされたらしい。

「寮に、そのグループを愛してやまない人がいて、すごく厳しいダンス指導が入ったんだよ…」

浩くんの遠い目。

「瀬越さんは、センター張るならあと30センチ身長伸ばして、股下伸ばしてこいって叱られてた…」

理不尽な。


完全に体が回復した。

明日部屋に帰って明後日から仕事復帰だ、という日の朝。


今日がお祭りの日だ。

朝から寮がそわそわしていた。けっこう長いこと寮にお世話になっていたのに、見たことのない人もちらほらとラウンジにいる。

瀬越さんは髪をピンクに染めていた。

あれ?

センターは白じゃないの?


優美ちゃんに、子ども達と車で行こう、と誘われたけど、天気も良いので山の神様の祠まで歩くことにした。でも、最近まで寝たきりだったせいで体力が落ちていて、すぐ息が上がる。


「紀久さん、大丈夫?おぶろうか?」

浩くんが心配してくれるがそれはちょっと。

「大丈夫。ただ、もう少し、ゆっくりめで、お願い」


落ちた体力を戻すためにと歩くと決めたのは私だけど、少し後悔してる。帰りは車に乗せてもらおう。


亀のごとくの速度で歩く私の横を子どもたちが歓声をあげて走り抜けていく。中には浩くんを叩いて通り過ぎていく子もいる。浩くんが、痛いと叫んで笑ってしまった。


浩くんたちの会社はそういう「力」を持て余し、親と暮らすのが難しい子を預かって育てている、と龍与さんから教えてもらった。

浩くんと優美ちゃんも早々に親元から離れて、ここではない違う施設にいたそうだ。同じ支店に配属になったのは偶然で、ふたりとも驚いたらしい。

優美ちゃんは、龍与パワーがあった、っていってたけど。


子どもたちは坂道を下っていく。今日は国道の入り口を封鎖しているから車がくる心配はないけど、転びそうで怖い。

浩くんが、転ぶなよー、と子どもたちの背中に声をかけた。


山の神様の祠の前には、フードトラックが数台いて本格的なお祭りみたいだ。浩くんの会社の人だけかと思いきや、この山のふもとの地区の人たちなども集まっているそうだ。

「なんか、大勢いた方がいい気がして」

浩くんが笑う。

短い期間でよくここまで周知できたな、というくらいたくさんの人がいた。


祠の前には祭壇が組まれて、酒や榊、果物や野菜などが供えられていた。

ちらほらと、祠の前で手を合わせる人たちもいる。


祭壇の前に一人の白いスーツの男性が立った。見覚えのある背中だな、と何気なしに見る。

隣の浩くんの肩が細かく揺れてる。笑ってる?

なに?と思っていると、男性は朗々と歌い始めた。

知ってる。この曲は

「神様の歌だ」

曽祖母が歌っていたと言う歌。祖父がよく聞かせてくれた歌。小さい頃に一緒に歌った歌。回るような旋律で終わりがなくて。お気に入りでずっと歌っていた。

「…じいちゃん?」

回るような旋律の一回りを歌い終わると、音楽が流れ始める。


男性が振り返った。私に気がついて、大きく手を振る。

「じいちゃん、なんでいるの?!」

浩くんが大爆笑した。


わっと、歓声が溢れる。


祭壇前に、ダンスメンバーが揃った。白いスーツを着たじいちゃんが、センター位置に立つと、さらに音が大きくなる。


「なんでじいちゃん!?」

「うん、紀久さん倒れてから目を覚ますのが遅かったから、勤務先を通じてご家族に連絡を取ってもらったんだ」

浩くんが目尻に浮かんだ涙を拭いながら教えてくれた。


「なんで、なんで」

「おじいさんが、おもしろいから紀久さんには秘密にしよって。ずっと寮にいたのに気づかなかったの?」


気づかなかった。…と言うか私、あまり部屋から出なかったわ。なんか浩くんとか優美ちゃんにブロックされて。


「おじいさん、家族代表でみえたんだけど、真っ黒な紀久さんを見ても動じなくてね。島崎部長が同業と間違えてた。

うちの母(曽祖母)もよくこうなってましたよって笑う始末だし。

なんかね、予感もあったんだって。おじいさん、紀久さんのひいおばあさんがやたら謝る夢を見たって」


曽祖母がなんで謝るの?

「ひいおばあさんが、神様との付き合いが深かったせいじゃないかってうちの部長が」



「それで、あの日、()()()()その場にいた紀久さんから、ほかの神様の存在を感じて、山の神様が利用したんじゃないかってさ」

「そんな、そんなたまたまって」

「なんか、神様界隈ではよくあることみたいだよ。偶然は必然、みたいな。神様は手繰り寄せるみたいだね」

浩くんがよくわからないけど、といった。

私の方がよくわからん。


「ちなみに、おじいさんはノリノリでセンターに立候補してた。孫が世話になった礼は俺がするって言って」


ああ、じいちゃん、やりたかったんだね…。


「じゃあ、センター志望の30センチ身長を伸ばした瀬越さんを押しのけて…?」

あ、でも朝見た時、身長は伸びてなかったね。頭がピンクだったからそっちに気を取られていたよ。

「ううん。瀬越さんの身長は伸びなかったし、MV見た瀬越さんが、俺はピンクになるって」


ああ、うん。瀬越さんはそうかもしれない。



曲が始まる。

孫が言うのも何だけど、じいちゃん、一番キレがいいよ。一番ノリノリだね。


瀬越さんはピンク色のつなぎを着て楽しそうに踊ってた。じいちゃんとタメを張るキレとノリの良さだね。

うん、その位置が似合うよ瀬越さん。

瀬越さんが音楽に合わせて前に出てくる。

きゃー、と歓声が上がる。瀬越さんがバク転をしたのだ。会場が一層盛り上がる。瀬越さんはドヤ顔で踊っている。

うん、そこなら身長30センチ伸ばさなくても、股下も自前でいいね。しかも、キメどころがたくさんあるから目立つね。


あ、じいちゃん、やめて。バク転は無理だよ、歳を考えて!


周りにいる女の子が、あの人ピンクの人すごいね、と話してるのが聞こえる。

うん、瀬越さん、自分で出会いも見つけられそうだよ。よかったね。


「瀬越さん、いい位置で踊ってるねぇ」


「うん、身長も伸ばさなくてよかったし、股下位置も自前でいいしね」


子ども達に囲まれて、優美ちゃんも龍与さんも笑っている。高良さんは子どもたちにじゃれつれて、すごくいい笑顔で相手をしている。お父さんか。


ふと、思った。

あの子たちもきっと暖かな光の中で、安心に包まれているだろう。

きっと、そうだ。


空を見上げた私の手に浩くんの手が触れた。

そのまま、どちらともなく手を繋ぐ。


「あの、紀久さん」

「なあに?」

「えっと、スマホ、プライベート用で買ったんだ。もしよかったら、連絡先を交換しよう。そして、また、遊びに行こう。二人で」

「…うん、もちろん。また、一緒にドライブに行こうね」


二人で、赤い顔を見合わせた。もう一歩、二人の距離が縮まる。

指を絡めて繋ぎ直す。


すずよかな風が火照った頬を撫でて行った。


また歓声が上がる。じいちゃんも、瀬越さんも絶好調だ。


見上げた空は明るく、暖かな日差しが降り注ぐ。

山の祠の前にはたくさんの人。

楽しそうなおしゃべりと歓声。

子どものはしゃぐ声。

みんなが笑っている。


良き。


満足げな声が、風に乗って聞こえた。


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