エピローグ 第19話 EP Final 帰還の王女
自分が読みたい物語を、趣味で書いてます。
オリジナル小説のみです。
中学校の始業式の帰りに、オレと美月と鴉羽で、学校近くのドーナツ屋に来ている。焦げ茶色のレンガ造り風の大きな店舗である。
昼前で空いてるし、木陰を楽しめる大通り沿いのテラス席で、並ぶ白い丸テーブルの一つに陣取る。一本足の白い丸イスに座って、イスの脚が長くて、地面に届かない足をブラブラと動かす。
鴉羽が奢ってくれると言うから、誘惑に負けて付いてきてしまった。オレは、美月が嬉しそうだったから、いいんだけど。
オレの名は『新実 健二』。『内地』では、中学校に通う中学二年生の、ごく普通の男子だ。
◇
二学期が始まってしまったので、オレは中学校の制服、半袖のワイシャツに黒のスラックスに黒のスニーカーである。
美月と鴉羽は女子だから、中学校の制服、白の半袖ブラウスに黒のプリーツスカートに黒のスニーカーである。
美月は、オレのクラスメートで頼れる相棒で軍人。内地では普通の中二女子だ。体は華奢で、肩までくらいの長さのピンク髪で、年相応に可愛くも、芯の強そうな凛々しい顔立ちで、声が澄んで高い。
鴉羽 梨華は、黒髪のボーイッシュなショートヘアで、意識高そうな、大人びた感じの中二女子だ。聖高潔騎士団所属の軍人で、色々あって友だちになった。
まぁ、今は、どうでもいいな。
オレたち三人と同じテーブルの席の一つに、ユーナ王女様が座る。
ユーナ王女様は、灰銀色の長い髪の、高校生くらいの美少女である。儚げで清楚で、胸が大きくてナイスバディで、煌びやかながら清らかな、白いドレスを纏う。
ひゃっっっほぅっっっ!!!
歓喜! 圧倒的光栄!
「ユーナ王女様。内地にいらっしゃって大丈夫っすか?」
オレは、とにかく御声を拝聴したい情動で、瞳を輝かせながら聞いた。
ユーナ王女が、恥ずかしそうに赤面した。怖ず怖ずと、灰色のジグザグの柄の納まる灰色の幅広の鞘を、白い丸テーブルに置いた。
紛う方なく、ユーナベルムの『伝家の宝剣』だ。ユーナ王女様と合体していたはずの、超強力魔法品だ。
「……」
美月が徐に、白いレースの手袋を取り出す。華奢な手に嵌め、その手を胸の高さに掲げる。
「お気遣いは無用ですわ。ユーナベルム王国の王女ユーナは、死んだのですから」
微妙にユーナ王女の声と口調を真似ていた。
「!!!」
ユーナ王女が、赤面した御尊顔を更に赤面させて、白いレースの手袋を嵌めた両手で顔を覆った。
「美月! ユーナ王女様が御困りでいらっしゃるだろ!」
オレは慌ててフォローした。
漠然とだけど、美月はユーナ王女に好い印象を持ってなさそうな気はしてた。以前からユーナ王女の世間的評価が、自立心が足りない、男に媚びてる、と女子受けが悪かったのは否定できない。
美月が不満げなジト目でオレを見る。
「極秘情報だけど。『伝家の宝剣』が損傷を回復するために、ユーナ王女と合体していたのではないか、と聞いたわ。ユーナベルムの家系のみが高い適合性を示す特殊なアーティファクトらしくて、事例が少なすぎて憶測の域を出ないみたい」
「回復が完了して、分離したってわけか? 何だか、その関係性って、契約?、みたいだな?」
オレは、感心しながら美月を見返した。
折れた刀身を修復するためか。死に瀕したユーナ王女を生かすためか。或いは、その両方か。
もしかしたら、『伝家の宝剣』が適合者のユーナ王女を守ったのかも知れないわけだ。
赤面したユーナ王女が、白いレースの手袋を嵌めた両手を顔から膝へとおろす。赤面したまま、困り眉で、俯き気味に口を開く。
「皆様のお陰で、ユーナベルム騎士団の軍への復帰が許可されましたの。わたくしは詳しいことは分かりませんけれど、ユーナベルム城塞の奪還と、残存した魔物の殲滅の後に、ユーナベルムの復興に着手できることになりそうですわ」
「そりゃ良かったっす。応援してるっす」
「心より、感謝いたします」
オレは、王女様に感謝されるってのは、やっぱりどうにも照れてしまうな。
◇
「そろそろ、本題に入ってもいいか?」
鴉羽が焦れた様子で、チョコがけのドーナツをプラ皿に置いた。
ユーナ王女様の件が本題に決まってるだろ?!、とはいかないか。
「反省会をするぞ!」
鴉羽が、ボーイッシュな声で力強く提案した。
オレは、懲りないなぁ、と感服する。
「反省会って、あれは、勝ちでいいだろ? 鴉羽さんが、一回投げたじゃん」
「その一回までに、何十回投げられたと思っている?! あれのどこが勝ちだ?!」
鴉羽が興奮気味に反論を荒げた。
転校したはずの鴉羽が二学期の始業式に登校してきたと思ったら、また三人でレサリアに挑む羽目になった。結果は、推して知るべし。
「鴉ぅぅぅ! 負けたのかぁぁぁ!? ダっセぇぇぇ!」
別のテーブルのキョウが、大口を開けてガハハと笑う。
キョウは、鴉羽の先輩だった超戦闘狂少女である。オレンジ色のボサボサの長い髪をして、歯がギザギザしてて、ロックバンドのボーカルみたいなベルトの多い服を着る。露出も多くて、すらりと細い、撓りの強そうな筋肉質の肢体が見える。
「先輩は黙ってドーナツでも食べていてください」
鴉羽が恥ずかしそうに赤面した。
鴉羽が赤面するのは、初めて見たかも知れない。覚悟のキマっちゃった軍人にありがちな、表情の変化の乏しいタイプだ。
「焼き肉が、食いたかった」
角刈りタンクトップの巨漢が不満を述べた。
「バっっっキャロウぅぅぅ! 焼き肉なんざぁ、外地でも食えるだろうがぁぁぁっ!!!」
「ギャハハハハッ! シャレたドーナツは内地でないと食えないって!」
キョウと、ベレー帽にストライプシャツの小男が、巨漢に反論した。
戦場で世話になった礼を、と鴉羽が三人を呼んだそうだ。
レオンさんも来てるけど、隊の皆に土産を頼まれた、と店内に注文に行ってる。
◇
ユーナベルム戦場で一年に亘り暴れまわった四つ角の魔物『ヴォモス』の討伐に成功した。
ユーナ王女とユーナベルムの騎士団の復権も達成した。
戦争だから、全部が大団円とは行かないけれど。手の届く範囲だけでも、後悔せずに済む結果になって。
「ワっ、ワタシもっ、鴉羽さんの勝ちだと思う!」
美月が、必死な口調で鴉羽を擁護した。鴉羽は美月にとって念願の、初めてできたクラスメートの女子の友だちだ。
「ゲシュペンストまで! 温い! あれのどこが勝ちだ?!」
美月が嬉しそうだから、それだけでもハッピーエンドってことでいいんじゃないかな。
ユーナ王女が、赤面したまま、困り眉で、俯き気味に、怖ず怖ずと口を開く。
「それにつきまして、新実様に、御協力いただけませんかと」
「いいっすよ! いつでもお手伝いさせていただくっす!」
オレは全文を聞くまでもなく即答で快諾した。
「あっ、ありがとうございます! 新実様!」
笑顔でオレの手を包み握るユーナ王女の背後には、壮年のユーナベルム騎士が立つ。ユーナ王女の身辺警護だと思う。黒のスーツでビシッと決めて、顔も体格もオーラも怖い。
「ユーナ王女様は、普通の日常を御取り戻しあそばされた。替わりに、超常の御力を失ってしまわれたのである」
「それはそれで、良かったと思うっす。あれは完全に、人間には過ぎた力、って感じだったっす」
そして何より、ユーナ王女様が御無事だったのだから、本当に良かった。
特訓だの戦場だので忙しく、あっと言う間に過ぎてしまった夏休みも、無意味じゃなかったと報われる。マイナスじゃなかったと安堵する。
ハッピーエンドだった。オレは、たぶん、好運にも何も失わずに済んだ、ハッピーエンドだ。
戦争だから、全部が大団円とは行かないだろうけど。
好い! 王女様のいらっしゃる生活! 好い!
オレは笑顔で、二学期を迎えられた。
でも、蟠りが無いわけじゃない。
オレの、『心剣士』の魔法は、レオンさんの言ったように、救いになるのだろうか。
なるなら、あの侍女さんは、救われたのだろうか。
ユーナ王女様は、救われたのだろうか。
オレは、誰かの救いに、なれたのだろうか。
心剣士と灰銀の魔女
第19話 EP Final 帰還の王女/END
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最終話です。ありがとうございました!




