表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/36

その19「最強チームと胡蝶の夢」




タクミ

「それで、名字も同じなんだな?」


ユニコ

「はい」


ユニコ

「実は夫婦だった……とかの方が良かったですかね?」


イツキ

「何がだよ……」


ユニコ

「それで、こちらの方は、アマノさんとはどういう御関係ですか?」


タクミ

「ノガミ=タクミ。イツキとは、一緒にダンジョンに潜る仲だ。よろしくな」


ユニコ

「はい。よろしくお願いします。ノガミさん」


ユニコ

「アマノさん……ちゃんとお友だちが居たんですね」


イツキ

「違うが?」


タクミ

「照れ屋なんだ」


ユニコ

「そうかもしれませんね」


イツキ

「…………」


イツキ

「って、そろそろ予習を……」



 そのとき、チャイムが鳴った。



イツキ

「あ……」



 イツキは呻いた。


 予習に使える時間は、もう無い。



ユニコ

「残念」



 ユニコはくすりと笑った。



イツキ

「なんか今日……休み時間短くないか?」


タクミ

「いや? いつも通りだと思うが」


ユニコ

「そうですよ。いつも通りですよ」


イツキ

「お前、今日が始めてだろ」


ユニコ

「言われてみれば、そうでした」


イツキ

「はぁ……」


イツキ

(けど、そうか)


イツキ

(いつも通り……。そりゃそうだよな)


イツキ

(いきなり休み時間が、変わるわけ無いっての)



 すぐに教師が、教室に入ってきた。



イツキ

「っと……」



 イツキは慌て、自分の席へと戻った。


 2限目の授業が始まった。




 ……。




 授業が終わり、また休み時間が来た。



イツキ

「…………」



 イツキは、教室の右側を見た。


 最後列の、右端の席だ。



ミカヅキ

「…………」



 ユニコの護衛、ミカヅキが、背筋を伸ばして座っていた。


 彼女はユニコと同様、クラスから孤立していた。


 本当は、クラスの皆も、気になってはいるのだろう。


 彼女に対して、ちらりと視線を送る者も居た。


 だが、彼女はユニコの仲間だ。


 迂闊に話しかけて良いのか、分からない様子だった。


 ユニコと関わるということは、自分たちの罪を直視するということだ。


 だから、動けなかった。



イツキ

(あっちもぼっちか)


イツキ

(俺のせいじゃないけど、俺が原因だよな。俺のせいじゃないけど)


イツキ

「…………」



 イツキは立ち上がった。


 そして、ミカヅキの方へと向かった。



イツキ

「なあ」



 イツキはミカヅキに声をかけた。



ミカヅキ

「……? 拙者でござるか?」


イツキ

「ああ。ちょっと頼まれてくれるか?」


ミカヅキ

「何でござるか?」


イツキ

「休み時間に、ユニコと話してやってくれるか?」


ミカヅキ

「しかしそれでは、警護への意識が疎かに……」


イツキ

「学校だし、あのニゾウって人も居るんだし、大丈夫だろ」


ミカヅキ

「確かに、兄上なら……」


イツキ

(兄妹なのか)


イツキ

「それに、メンタルケアだって、護衛の一環だろ?」


ミカヅキ

「なるほど?」


イツキ

「そういうわけで、よろしく頼む」


ミカヅキ

「了解でござる」



 ミカヅキは、席を立った。


 そして、ぴょこぴょこと、ユニコの方へ歩み寄っていった。



ミカヅキ

「ユニコどの~」


ユニコ

「はい? 何でしょう?」



 2人は会話を始めた。


 それを見ると、イツキは自分の席に戻った。



イツキ

(……これで良し)



 そして、次の授業の予習を始めた。


 ふと前を見ると、タクミも勉強をしている様子だった。



イツキ

(マジメかよ)



 イツキはタクミから視線を外し、自習を再開した。




 ……。




 4限目になった。


 ダンジョン実習の時間だった。


 5組の生徒たちは、特別教室に移動していた。



アンコ

「それじゃ、いつも通り、パーティを組んでもらうわけだが……」



 アンコの視線が、ユニコたちに向かった。


 実習のパーティは、ほぼ固定だ。


 だからこそ、編入生をどうするか、きちんと決める必要が有った。



アンコ

「編入生、お前たちのレベルは?」


ユニコ

「60層です」


ミカヅキ

「63層でござる」


アンコ

「…………!」



 2人のレベルは、アンコよりも格上だ。


 彼女は驚かざるをえなかった。



「60って……」


「ディープシフターってことだよな……?」


「ホントに?」


「ノハラちゃん並みじゃん」


「なんで4組じゃないの?」



 教室内がざわめいた。


 ユニコたちのDレベルは、学生の水準では無い。


 トッププロ並と言えた。



アンコ

「アマノ……」


ユニコ

「私ですか?」


アンコ

「ややこしいな。ユニコで良いか?」


ユニコ

「はい」


アンコ

「お前、ディープシフターか」


ユニコ

「はて?」


アンコ

「この世界に、マインドアームを呼べるのか?」


ユニコ

「いえ」


ユニコ

「そういうのは、私には出来ません」


アンコ

「…………?」


アンコ

「レベル60なら、呼べるだろうがよ」


ユニコ

「私は、特別な体質なので」


アンコ

(体質……?)


アンコ

(亜人の体が、マインドアームに干渉してやがるのか?)


アンコ

(……まあ良い)


アンコ

「ダンジョンでの戦闘経験は?」


ユニコ

「それなりに。人並み以上には、戦えるつもりです」


ユニコ

「学生の足を引っ張るようなことには、ならないと思いますが」


アンコ

「そうか……」


アンコ

「エンマの方は、普通にディープシフターなんだよな?」


エンマ

「そうでござるな」


アンコ

「ん……。ちょっと強すぎるな……」


アンコ

「編入生同士、2人で組むってのはどうだ?」


ユニコ

「出来れば……私はアマノさんと一緒が良いのですが」


アンコ

「モテるな? 少年」



 そう言ったアンコの目つきは、どこか不機嫌そうだった。



イツキ

(なぜ睨む……)


アンコ

「そっちの……エンマの方は、希望とか有るのか?」


ミカヅキ

「拙者は、ユニコどのの護衛でござる」


ミカヅキ

「護衛対象であるユニコどのと、一緒が良いでござる」


アンコ

「ん……。お前らまとめて、アマノチームで良いか」


ミカヅキ

「感謝でござる」


アンコ

「それじゃ、パーティを組んで、リンカーを取りに来い」


イチロー

「待って下さい」



 アンコが授業を進めようとしたところで、イチローが口を開いた。



アンコ

「何だ?」


イチロー

「編入生に、アマノをキャリーさせるんですか?」


アンコ

「マツイ」



 アンコは真顔になり、イチローと目を合わせた。



アンコ

「お前の言う、キャリーってのは何だ?」


イチロー

「え……?」


アンコ

「アマノには、ダンジョンが無い。つまり、パワーレベリングが出来ない」


アンコ

「結局アマノは、個人の戦闘成績でしか、評価されない」


アンコ

「編入生がどうやって、アマノをキャリーするって言うんだ?」


イチロー

「それは……。強力なサポートスキルで……」


アンコ

「お前たち、サポートスキルが使えるのか?」


ユニコ

「いえ」


ミカヅキ

「全然でござる」


アンコ

「だとさ。納得したか?」


イチロー

「はい……」


アンコ

「ほら、時間が勿体無いぞ。リンカーを取りに来い」



 イチローの他に、異議を唱える者は、無かった。


 不満が0なわけでは無い。


 だが、それよりも、授業時間が惜しかった。


 それに、今のイツキを糾弾するということは、ユニコをも敵にするということだ。


 それは、グループと対立するということだった。


 たった1人を蔑むのとでは、精神的な負担に差が有った。


 皆、授業を進めることを望んだ。


 すぐにそれぞれが、リンカーを着用した。


 そして、心層世界にシフトしていった。


 イツキたちは、タクミのダンジョンへとシフトした。


 タクミのダンジョンの頂上に、4人のマインドボディが出現した。


 今日は、アンコの姿は無かった。



タクミ

「今日こそ頼んだぞ。イツキ」


イツキ

「んー。どうだろうな?」


タクミ

「おいおい。しっかりしてくれよ」


イツキ

「いや、約束は守るさ。ただな……」


タクミ

「何だよ?」


イツキ

「ハイレベルのシフターが、2人も居るんだ」


イツキ

「まずはお手並みを、拝見させて貰おうかと思ってな」


タクミ

「それもそうか……って」



 タクミはあることに気付き、ミカヅキに声をかけた。



ミカヅキ

「何でござるか?」



 ミカヅキの体は、少しだけ透明になっていた。


 ハーフシフトのようにも見えるが、それよりも少しだけ、透明度が低い。



タクミ

「お前、体うすく無いか?」


ミカヅキ

「ういうい。一種のハーフシフトでござる」


イツキ

(一種の? どういうことだ?)


ミカヅキ

「現実の護衛対象から、目を離すわけにはいかないでござるからな」


ミカヅキ

「ちょろっとだけ、意識を現実に、残しているでござる」


タクミ

「ハーフじゃ戦えねえだろ」


ミカヅキ

「心配は、ご無用でござる」


ミカヅキ

「これは、拙者の祖父があみだした、特別なハーフシフト」


ミカヅキ

「『胡蝶の夢』と呼ばれる状態でござる」


ミカヅキ

「この状態でも、通常のシフトの8割ほどのパワーが、発揮出来るでござるよ」


イツキ

「器用だな……」


ミカヅキ

「この程度のことが出来ないようでは、エンマの家では、一人前として扱われないのでござる」


イツキ

「ふーん……?」


ミカヅキ

「さて……」



 ミカヅキは、左手首に右手を伸ばした。


 そして、自身のリンカーを外した。



タクミ

「おい……! 何やってんだよ!?」



 タクミは驚きの声を上げた。



ミカヅキ

「リンカーを付けていると、マインドパワーが少し落ちるでござるからな」



 リンカーには、様々な機能が有る。


 その動力の何割かは、着用者のマインドパワーでまかなわれていた。



タクミ

「いやいや、死ぬだろ」



 リンカーには、ベイルアウト機能が有る。


 シフターにとっての命綱だ。


 それ無しでダンジョンに潜るなど、考えられないことだった。



ミカヅキ

「そうはならないでござる」


ミカヅキ

「ダンジョンで死なぬための、胡蝶の夢でござるからな」


イツキ

「……ダンジョンでリンカーを外すのって、俺だけじゃ無かったんだな」



 そう言って、イツキもリンカーを外した。



ミカヅキ

「おや。いけるクチでござるな」


タクミ

「何やってんの!?」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ