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その20「徒手と手裏剣」



イツキ

「俺の場合、リンカーを外さないと、スキルが意味を成さないんだよ」


タクミ

「……結局、お前のスキルって、バリアとは違うのか?」


イツキ

「まあな」


タクミ

「っていうか、やっぱり前の時は、手ェ抜いてたのかよ」


イツキ

「行くぞ」



 イツキはタクミの非難から、顔をそむけた。


 そして、ダンジョンの入り口を向いた。



ユニコ

「作戦は、どうしますか?」


イツキ

「お前たち、前衛? 後衛?」


ユニコ

「私は、前衛しか出来ませんね」


ミカヅキ

「拙者はやろうと思えば、後衛も行けるでござる」


イツキ

(俺もノガミも、ゴリゴリの前衛だからな……)


イツキ

「前衛3枚に、中衛1枚か。偏ってるな」


イツキ

「ま、ノガミのあっさいダンジョンごとき、テキトーで良いか」


タクミ

「おいィ?」


タクミ

「人のダンジョンを笑うなって言ったの、お前ですよねぇ?」


イツキ

「記憶に無いな」


ユニコ

「結局、どうするのですか?」


イツキ

「ユニコが前衛で、エンマが中衛」


タクミ

「俺たちは?」


イツキ

「後ろで応援」


タクミ

「…………」


イツキ

「組んだばっかだぞ? 3人前衛なんて、逆に怖いだろ」



 大勢で戦えば、当然、同士討ちの危険が有る。


 できたばかりのパーティであれば、なおさらだった。



タクミ

「それはそうだがな」


イツキ

「気楽に観戦させてもらおうぜ」


タクミ

「……分かった」



 タクミは、セカンドシャドウに手を伸ばした。


 そして、大斧のマインドアームを、手に取った。


 それを見て、イツキとミカヅキも、マインドアームを召喚した。


 イツキは木刀。


 ミカヅキの武器は、フラフープほどの直径の有る、巨大な手裏剣だった。


 刃は3つ。


 黒光りしていた。


 中央には穴が有り、穴の中には取っ手が有った。


 ミカヅキは、その取っ手を掴んだ。



イツキ

(ニンジャだ……)


タクミ

(ニンジャだな)


ユニコ

(ニンジャ?)



 仲間たちの視線が、ミカヅキに集中した。



ミカヅキ

「にん?」



 ミカヅキは首を傾げた。


 そして、3人が何も言ってこないので、ユニコに声をかけた。



ミカヅキ

「ユニコどののマインドアームは?」


ユニコ

「私は、そういうのは無いので」


ミカヅキ

「…………?」



 マインドアームは、万人が持つ力だ。


 ダンジョン無しのイツキですら、マインドアームを召喚出来る。


 それが無い人間など、ミカヅキは、聞いたことが無かった。


 星明かりが、ユニコのツノを光らせた。



ユニコ

「素手で十分に戦えるので、ご安心下さい」


ミカヅキ

「了解でござる」



 4人は、ダンジョンへの階段を下りた。


 そして、タクミのダンジョンの、第一層に侵入した。


 広い通路を少し歩くと、大ネズミの迷獣が現れた。



大ネズミ

「…………」



 イツキから見て、10メートルほど前方。


 大ネズミが、イツキたちに気付いた。


 それを見て、ユニコは口を開いた。



ユニコ

「私が前衛でしたね?」


イツキ

「ああ」


ユニコ

「行きます」



 ユニコは地面を蹴った。


 一瞬で、ユニコとネズミの距離が、無くなっていた。



ユニコ

「ふっ!」



 ユニコは、大ネズミを蹴り上げた。


 鋭い蹴りが、ネズミの体を跳ね上げた。



イツキ

(良い蹴り……。あ……)


タクミ

「む」



 大ネズミは、天井に激突し、消滅した。


 敵が居なくなると、ユニコはイツキに振り向いた。



イツキ

「……ユニコ」



 イツキは少し気まずそうに、ユニコに声をかけた。



ユニコ

「はい」


イツキ

「蹴り使うなら、下にジャージ履いとけ」


ユニコ

「あっ……」



 ユニコは自身が、スカート姿だったことに、気がついた。



ユニコ

「すいません。お見苦しいものを」



 ユニコは俯いて、スカートの裾を押さえた。



イツキ

「いや。見てない。ただ、見えそうだったと言うか……」


ユニコ

「……すいません」


イツキ

「謝ることじゃ無いが」


ユニコ

「イメージするので、少し待って下さい」



 ユニコは、目を閉じた。


 少しして、ユニコの体が輝いた。


 ユニコの下半身が、学校指定のジャージに包まれた。


 心層での衣装に、実体は無い。


 イメージ次第で、好きに着替えることが可能だった。



ユニコ

「お待たせしました」


イツキ

「ん」


タクミ

「そうだ!」



 唐突に、タクミが大声を出した。



イツキ

「ん?」


タクミ

「このパーティの、ユニフォームを考えるのはどうだ?」


ユニコ

「いえ。それは……」


ユニコ

「私たちは、いつまでこの学校に居られるか、分かりませんから」


ミカヅキ

「そうでござるなー」


イツキ

「…………」


タクミ

「……そうなのか。悪い」



 タクミは気まずそうに言った。



ユニコ

「いえ」


イツキ

「それにお前、俺たちだって、ずっと組むわけじゃ無いからな?」


タクミ

「あ?」


イツキ

「キャリーしてやるのは、お前が4組に行くまでだ。そうだろ?」


タクミ

「一緒に行こうぜ。4組に」


イツキ

「興味無い。っつーか、無理だろ」


イツキ

「ダンジョン実習の、採点対象には、ダンジョンのレベルも含まれるらしいからな」


イツキ

「ダンジョンが無い俺は、1科目、まるまる捨ててるようなもんだ」


タクミ

「けど……」


イツキ

「言っとくが、入試の成績、俺は筆記の点数だけなら、ほぼ満点だったからな?」


タクミ

「そうなのか?」


イツキ

「ああ」


イツキ

「けど、ダンジョンが無いからって、5組に送られた」


タクミ

「……だからひねくれてんのか?」


イツキ

「さあな」


イツキ

「とにかく、俺が4組は、無理だ」


タクミ

「わかんねえだろ?」


タクミ

「めちゃくちゃ頑張ったら、ダンジョン無しでも、4組に行けるかもしれねえ」


イツキ

「どうだかな」


タクミ

「やる気出せよ。お前は凄い奴なんだ」


タクミ

「あのヤバいディープシフターにだって、勝っちまったんだから」


ユニコ

「えっ? どういうことですか?」


イツキ

「ノガミ」


イツキ

「余計な事は言うな」


タクミ

「…………」


イツキ

「ユニコとは、関係無い話だから」


ユニコ

「そうなのですか?」


イツキ

「時間が惜しい。進むぞ」


タクミ

「……ああ」


ユニコ

「最短ルートの指示を、お願いします」


タクミ

「次の突き当たりを、右だ」



 ダンジョン攻略は、サクサクと進んだ。


 最短ルートを、敵を蹴散らしながら進んでいった。


 イツキたちがやられた豚も、ユニコの蹴りに、あっさりと撃破されてしまった。



豚の迷獣

「ブヒィィ……」


イツキ

「豚さん……」



 消えゆく豚たちを、イツキは複雑な表情で見送った。



ユニコ

「何か?」


イツキ

「何でも無いです」


ユニコ

「?」



 やがて一行は、19層の最奥へとたどり着いた。


 広間に、ダンジョンコアが見えた。


 コアルームだった。



タクミ

「おお……!」



 タクミは嬉しそうに、ダンジョンコアに駆け寄った。


 そして、コアに触れた。


 コアが強く輝いた。


 コアの姿が消え、次の層への階段が出現した。


 タクミのダンジョンの階層が、更新されたのだった。


 これでタクミは、レベル20になった。



タクミ

「やった……!」


タクミ

「次行こうぜ! 次!」



 タクミは、新しく出来た階段を、駆け下りていった。



イツキ

「はしゃぎすぎだろ……」


ミカヅキ

「こういうやり方は、あまり関心せんでござるな」



 ミカヅキが、はっきりとした口調で言った。



イツキ

「ん?」



 イツキはミカヅキを見た。


 2人の視線が重なった。



ミカヅキ

「心、技、体」


ミカヅキ

「3つの力の調和が取れていなくては、真の強者とは言えない」


ミカヅキ

「人に頼ってばかりいては、心も技も、磨かれないでござるからな」


イツキ

「そういうもんか」


ミカヅキ

「イツキどのは、武道の心得が有るように見えるでござるが」


イツキ

「まあ、嗜み程度にはな」


イツキ

「深いことは分からん」



 何年か、剣を習った。


 だが、費やした熱量は、趣味の領域を出ない。


 ならば、自身の技も、その程度に違いない。


 武術の深淵など、分かるはずも無い。


 イツキは自己を、そう評価していた。



ミカヅキ

「そうでござろうか?」


タクミ

「おーい! 早く来いよ!」



 タクミは、階段を戻ってきて、3人を呼んだ。



イツキ

「ああ。今行く」



 イツキは歩き出した。



ミカヅキ

「このままで、良いのでござるか?」


イツキ

「もし、それで行き詰ったとして、それはあいつの問題だ」


イツキ

「俺たちが、つべこべ言うことでも無いだろ」


ミカヅキ

「ほむ……」



 ミカヅキは、納得していないように見えた。


 だが、それ以上のことは、言ってこなかった。


 彼女は、護衛という立場だ。


 口出しは、職分から外れる。


 そんな風に、考えたのかもしれない。


 4人は、ダンジョンの攻略を続けた。


 20層程度の敵では、ユニコの相手にはならなかった。


 サクサクと、23層のダンジョンコアに到着した。


 タクミはダンジョンコアに触れた。



タクミ

「良し……!」



 ダンジョンの階層が、更新された。


 そのとき……。


 ピピピと。


 リンカーにセットされていた、アラームが鳴った。



ユニコ

「これは?」


イツキ

「時間だ。現実に戻らないとな」


ユニコ

「ああ……」


ユニコ

「学校だと、制限時間が有りますよね」


タクミ

「もうちょっと潜りたかったな~」


イツキ

「慌てんな」


タクミ

「この気持ちは、お前には……」



 タクミは軽口を叩こうとして、思いとどまった。



タクミ

「いや……」


タクミ

「今日は助かった。また今度な」


イツキ

「ああ」



 タクミは目を閉じた。


 タクミの体が輝いた。


 タクミのマインドボディが、心層から消えた。




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