第一話
短い話数でまとめるためと、作者の残念な頭のために多々ご都合主義的展開がありますが御容赦ください。高等な駆け引きの描写は私には難しいのです。
前世、という概念を知ったのは、ダンスの授業中にくらりと立ちくらみで倒れた時だった。
この国の国教には輪廻転生の教えは無い。曰く、人は皆等しく死を受け入れ、死後は天に御座す神の御許へと招かれる。そして神の許しを得た御使いがそれぞれの人生を紐解き、その罪の重さによって死後に暮らす世界を決める。
悪行より善行が多い人は神の庭園で永久のお茶会を。善行より悪行が多い人は御使いから永久の鞭打ちを。
だから人々は生きている間は善行を積み、神の庭園を目指すべきとある。
だから倒れた瞬間に前世の記憶が蘇った私は愕然とした。神の庭園などは幻想だったのか、と。
それはともかくとして、思い出した内容も内容だった。
私は前世では日本という国に生きる少女で、そこで乙女ゲームなる遊戯を嗜んでいた。そのゲームに出てくる登場人物はなんと我が国の王子や貴族たち。そしてその貴人たちと恋愛をする遊戯らしい。
そして私は王子の婚約者であり、ヒロインと呼ばれる少女に嫌がらせをする酷い令嬢である。ゲームではそのことを王子に糾弾されて、国外追放されるまでをしっかりと思い出してしまった。
身に覚えがなければ白昼夢と一笑に付すこともできただろう。しかし残念なことに、身に覚えが大いにある。
まずヒロインと呼ばれる少女。これは男爵家の養子に迎えられた孤児院出身のミサ・アングリードのことだろう。
彼女は孤児院出身ということもあって、貴族社会のことに関しては無知も同然。養子に迎えられてからもう五年は経つはずなのに、淑女の礼一つ、満足にこなせないのだ。
さらには婚約者がいる男性であろうとお構い無しに身を寄せ、必要以上に親しくする。
しかもそれを、私の婚約者である王子に対しても、だ。
何度苦々しい思いをさせられたか知れない。それでも最初は相手が無知なことに同情して、してはいけないことを優しく諭していた。私はこの国の宰相を務める、ヒルクライド公爵の娘、アリア・ミーナ・ヒルクライドなのだ。そのくらいの度量がなくてはならない。
それだと言うのに彼女は「アリアさんが意地悪ばかり言うんです」「私のことを孤児院出身の無知だと馬鹿にするんです」「いつも怖い顔で、私、アリアさんのこと好きになれません」のようなことを王子に言うのだ。
王子も王子で「ミサ嬢は君と違って何もわからないんだ。もっと優しくしてやらないか」などと言い出す始末。
あぁそうですか、婚約者の、私の婚約者であるあなたがそちらの肩を持つのですか。そうですか。
どす黒い感情に襲われて、思わずハッとする。
周りを見渡せばどうやら医務室に来ていたらしい。授業中に立ちくらんでからの記憶が曖昧だったが、どうやらパートナーを務めてくださっていたハフスディル侯爵家のロドリア様と、講師のアンナ先生が付き添って下さっていたらしい。
同じ授業を取っていたはずの婚約者、レオルド王子は居なかった。
「アリアさん、体調はいかがですか?」
きりりとした顔立ちのアンナ女史の心配気な言葉にふわりと微笑みを向ける。それに大丈夫であると感じ取ってくれたらしく、ほっとした顔を見せた。
それにしてもおかしな話だ。いくら授業とは言え、ダンスのパートナーがレオルド王子ではなくてロドリア様だなんて。しかもレオルド王子の相手はミサ様だ。
「私のせいで申し訳ございません、アンナ女史」
「いいえ、皆さんには自習を言い渡しておりますからどうかお気になさらず。
それよりも体調が思ったより安定しているようで安心致しましたわ」
アンナ女史の言葉に曖昧に微笑む。
なぜか分からないが急に前世のことを思い出して、その情報量についていけずに立ちくらみを起こしただけだ。別に体調が悪い訳では無い。
ロドリア様も少し安堵したような顔をしてから私に断わって教室に戻る。いくらアンナ女史が共にいるとは言え、あまり婚約者のいる女性と一緒にいるべきでは無い。
医務室の先生が薬の調合を終えて戻られると、アンナ女史もロドリア様と同じように教室に戻って行った。
その時に迎えの馬車を手配したと言っていたから、今日はもう帰宅するしかないだろう。
医務室の先生が出してくれた苦い薬を飲みながら顔を顰める。
理由はたった一つ。レオルド王子が私を糾弾する、卒業パーティーのことを思ってだ。
卒業記念式典の前日に行われるパーティーで、主役はもちろん三年生だ。運営は全て二年生が行ない、その補佐を一年生が行なう。それがこの学園の伝統だ。
そのパーティーの場で、レオルド王子は私を糾弾するのだ。しかも思い出した記憶通りとなるなら、私はパーティーのエスコートを断られたはず。ミサ様のエスコートがあるからと言う理由で。
ぎり、と歯を食いしばったところで迎えの馬車が来たことを告げられる。いつも通り完璧に感情を押し殺した微笑みを貼り付けて立ち上がると、私は従者の案内のまま馬車に乗り屋敷へと送られた。
帰ってきた私は侍女たちに至れり尽くせりの世話をされながら考え事に耽る。
あと一週間もすればそろそろ卒業パーティーのエスコートに関する話題が生徒達の口に上るだろう。婚約者の居る令嬢達は相手が学園に在籍していればその相手に頼むことになる。たまに隣国の貴族と婚約を結んでいる者がいるから、そういった者は親族に頼むのが常だ。
婚約者が居ない者はこれを機会にと男子生徒が申し込むから、それを受ければそのままその相手がエスコート役となり、受けなければやはり親族に頼むことになる。
そんな中で学園内に婚約者が居るのに親族に頼むなんて、きっと驚かれることだろう。レオルド王子が最後に入室するから、その際にミサ様をエスコートしていればその驚きはさらに大きなものとなるはずだ。
いくらレオルド王子が周囲を憚らずにミサ様を優遇しているとはいえ、貴族の常識として、有り得ないのだから。
……もっとも、その非常識な行ないを度々行なっているのだから、生徒達に密かな同情の視線を送られていることも重々承知している。
我が家の敵対勢力であるファッセル侯爵家の令嬢のルシア様など、私を見かける度に「あらあら、殿下に蔑ろにされている婚約者様がいらしたわ。近くに寄ったら私まで婚約者に蔑ろにされそうですわ〜」なんて笑っていたか。あの女いつか痛い目見て欲しい。
とは言えそのルシア様もミサ様のことは気に入らないようで、私以上に噛み付いているようだ。なんでもルシア様の婚約者にかなり親しげな態度を取っているらしい。
それもそうだろう。だってその婚約者も確か乙女ゲームの攻略対象だ。ミサ様に悪気があるのかないのかは知らないが、そう言うものなのだろう。
「アリア様、お顔色が優れないようですが、やはり今日はお休みされた方が……」
侍女の言葉に現実に引き戻される。どうやら入浴もすでに終えていたらしく、その記憶がほとんどない。まぁ前世と違って、入浴すら世話してもらうのだからぼんやりしていても差し支えはないのだけど。
「……ねぇ、もしもよ、もしも私が死んだら、私は御使い様に鞭打ちされるかしら」
私の言葉に周りにいた侍女たちが「何を仰いますか!」と目を白黒させている。それから口々に私のことを褒め始めて、「こんなに素晴らしいアリア様がお茶会にお招きされないはずがないですわ!」と締めくくった。
この反応で分かることから、私は周囲には恵まれているし、何より自身の努力のおかげか家の者以外にも慕われている自負がある。なんせ令嬢の手本とまでいわれているのだ。
例えどんなに内心が荒れ狂うほどの怒りを覚えても常に微笑みは絶やさなかったし、声を荒らげるようなはしたない真似もしなかった。
なのにレオルド王子はミサ様の言葉を信じ、私がミサ様に辛く当たっていると思っている。
……彼の心に、もう私が居ない証拠だろう。
かつては共に様々なことを語り合った仲ではあるが、喜びも悲しみも共にした仲ではあるが、こればかりはどうしようもない。
ならば、それならば。
「私、とことんまで意地悪令嬢になってやりますわ」
突拍子のない私の言葉に置いてけぼりの侍女たちを後にしてお母様の私室へ向かう。本来ならば先触れを出すのが礼儀だろうが、今はそんな時間すらも惜しい。
慌てて侍女たちが追いかけてくるのも気にせずずんずんと屋敷の廊下を歩いて、ついにお母様の私室に辿り着く。すると静かにドアが開かれる。
お母様の侍女が「アリア様だけ、どうぞ」と私を招き入れた。
部屋の中は静かな空気で満ちていて、まさに淑やかで落ち着いたお母様らしい部屋だ。その部屋の主であるお母様は私に無言でソファを勧める。
勧められるままに座れば、お母様は「分かっています」と言いながら私をひたと見つめる。
「レオルド王子とアングリード男爵の養女についてですね?」
お母様の言葉に息を呑む。なぜ知っているのかは分からないが、ぴたりと言い当てられて緊張が高まる。
「……仰る通りです」
「まったく嘆かわしいことです。私と旦那様の愛しいアリアを蔑ろにし、あらゆる屈辱を与えるなんて。
これでは友好国の王族にした方が良かったかしらね」
お母様は立ち上がると窓際にしなだれかかって溜息をつく。そんな姿すら美しく、かつてあらゆる美女を見てきた宮廷画家が「この世の中にこれほど美しい女性は二人と居ない」と称しただけある。
その母の娘であるのだから、私ももう少し色香のある美少女でも良かったとは思うが、残念なことにお母様の足元にすら及ばない。お父様も美男子で名を馳せた方であると言うのに……
「お母様、その件ですが、私は恐らくこのままであればレオルド王子に婚約破棄を言い渡されると覚悟しております」
私の言葉にお母様はこくりと頷いた。
「私が報告を受けた情報では、殿下は卒業パーティーにあなたを糾弾することを周囲の子息たちと画策しているようです」
お母様の言葉に思わず唖然とする。
思い出した記憶通りであることに驚いたのもそうだが、それ以上にお母様がそこまで把握されていたことに驚く。
しかし、そうなるとなぜゲームでは私は国外追放の憂き目にあったのだろうか。お母様がそこまで情報を握っていたと言うなら事前に計画を潰すこともできたはずだ。もしできなかったとしてもお父様が大事にならないようにもできたはず。
それなのに、なぜ――
「アリア、貴女はどうしたい?レオルド王子に復讐したいかしら。それともミサ様を二目と見られない醜女にしてやりたいかしら」
「なっ……」
お母様は絶句する私をくすりと笑うと、優雅な足取りでこちらまで来て隣りに腰掛ける。私の手を取り、慈しみ深い微笑みを湛えたその姿は先程の過激な言葉と程遠い。
震える吐息を落ち着かせて私はお母様の瞳を見つめ返す。
「お母様、私はレオルド王子やミサ様にとって意地悪な令嬢だそうです」
お母様は「そうね、とても愚かしいことに」と変わらない笑顔で頷く。その瞳の奥にチラチラと怒りが見え隠れして、背筋に冷たいものが走る。
「ですから私、こうなったらとことんまで意地悪令嬢になってやろうと思いますの」
その時、初めてお母様が動きを止めた。きょとん、とした顔を見るに、この回答は予想していなかったらしい。
何拍か後にお母様は「えぇと」と声を漏らす。
「アリア?一体どうしてそう考えたのかしら?」
戸惑いを隠すことなく問いかけるお母様に私は頷く。お母様の疑問は恐らくもっとものことだ。
私がお母様の立場でも同じように思っただろう。
「お母様、私は常々公爵家の娘として相応しい振る舞いを心掛けて参りました。ミサ様に対しても慈しみの心を持って、令嬢の道を導いて差し上げようと思っていましたわ」
そう、私はミサ様に対して最初は幼子を導いて差し上げるくらいの気持ちで接していた。それを台無しにしたのは他でもないミサ様。
そしてそんなミサ様に肩入れするレオルド王子。
「ですがミサ様やレオルド王子が私を意地悪な令嬢だと仰るなら……
公爵家令嬢の恐ろしさを教えて差し上げなければと思いましたの」
彼女らはこれから私を糾弾し、国外追放した後は結婚することになっている。記憶通りなら誰にも邪魔されない小さな教会で二人きりの式を挙げたはず――
そこまで思い出してふと疑問に思う。
なぜ王族の、それも次期国王であるレオルド王子の結婚式があんなに小さなものなのか?本来ならば盛大に挙げられるべきのはずが、むしろ人目を憚るような……
「かと言ってそんなことをしては貴女の評判を貶めることになります。引いては我が家にも……」
分かっているのですか、と言いたげなお母様の言葉に慌てて考え事をやめて頷く。そんなこと百も承知だ。
それに私には誰彼構わず意地悪をするようなことはできない。
「お母様、誤解なさらないでくださいな。
私はお二人にとって意地悪な令嬢になるだけでございます。今はまだレオルド王子の婚約者でございますれば、お二人の仲を邪魔しても他者に迷惑はございませんでしょう?」
私の言葉にお母様はにっこりと微笑むのだった。
「いい加減にしないかアリア!」
教室に入ってくるなり怒鳴り散らしたレオルド王子にこてりと首を傾げる。その仕草は自分で言うのもなんだけれど、優雅で気品が漂っていることだろう。
こういう動作は令嬢としての教育をしっかりと受けている証。どこかぎくしゃくとした礼を取るミサ様にはできない真似だ。
「レオルド殿下、ごきげんよう。そんなにお怒りになっていかがなされましたか?」
小さく驚いた様子を装う私にレオルド王子はカッと顔を熱くさせる。周りに居る生徒達の様子は視界に入っていないのだろうか。
誰も彼もが冷めた目をしていると言うのに。
ズカズカと教室の中に歩みを進めて私の前に立つ。その後ろには少々げんなりした顔のロドリア様が立っていた。彼は昔からレオルド王子の供をしていたが、最近はミサ様に構うことを注意したことが原因で邪険にされていたのだ。
数少ない私の味方とも言える。
「講師を使ってミサ嬢に嫌がらせを行なっているそうだな?」
レオルド王子の言葉にぱちぱちと目を瞬かせる。我ながら白々しいと思いながらも、一拍置いて「まぁ!誤解ですわ」と微笑んだ。
「私はただ、ミサ様が勉学に遅れを取っていることを心配して、講師の皆様に個別レッスンをお願いしただけですわ」
基本的にこの学園の講師は王命を受けて任命されているので、例え王子と言えども我儘は通せない。だからミサ様が休む間もない個別レッスンと称して王子から隔離されていても、誰にも手出しできないのだ。
「なっ、あり、あ、お前ミサ嬢の」
言い淀みながらレオルド王子は周囲を不安げに見回す。勉学に遅れを取っているなど、知られれば物笑いのタネだ。
なんせここで習うことは基本的に入学前から家庭教師に習っていること。ようはおさらいをすることと、周囲とのコネクションを作るために皆学園に来ている。そんな中で勉学に遅れているなど……たとえ令嬢であっても無能を晒すことになる。
「将来は殿下のお傍に立つのです。やはりこれくらいは当然こなして頂かなければいけませんわ」
私の言葉に今度こそ周囲がどよめいた。
ミサ様が勉学に遅れをとっていることは周知の事実。正直レオルド王子が心配したところですでに物笑いのタネになっている。
そんなことよりも私がミサ様を認めたことが問題だろう。
ひそひそと「今後の勢力が変わるぞ」と言葉が交わされているのが聞こえてくる。
「どういう、つもりだ……?」
レオルド王子が戸惑った様子で問いかけてくる。その後ろではロドリア様も呆然としていた。
私はくすくすと笑いながら窓際に歩いていく。お母様直伝の、特に意味は無いけど意味深な雰囲気にさせる行為だ。
時々お父様の不誠実を問い詰める時によく使う手だと三日前に聞いた。
「どういうつもりだ、だなんて。私は殿下の婚約者。であれば殿下のお気持ちくらい察しておりますわ」
そこでわざと言葉を切ってレオルド王子を振り返る。その顔には仄かな喜色が見て取れて溜息をつきたくなった。
王族が下々に感情を悟られるなんて、みっともない。
「ミサ様を妾になさるおつもりなんですよね?」
私の言葉に場が凍りついた。
はっきりと側室ではなく妾と口にしたことでレオルド王子は顔を青くさせたり赤くさせたりと忙しそうだ。ロドリア様は私の意図を察したのか微かに口元を吊り上げる。
周りの生徒達も「なるほど」「ミサさんの家を考えれば側室は難しいからな」「まぁ、でしたら良くして差し上げなければ」などと面白がるような声が聞こえてくる。
レオルド王子の婚約者である私は、すでに王妃の座が約束されている。その王妃を助け、王に何があってもいいように子を増やす役目にあるのが側室。王妃には届かぬが、家柄が良く、優秀である令嬢にのみ許された地位だ。
とは言え側室は恋愛結婚のような側面もあり、ある程度の条件を揃えた令嬢であれば、王には選ぶ自由がある。その条件さえ満たせず、ただただ寵愛を賜った存在が妾だ。
妾には王の子を身篭ることは許されない。あらゆる方法を駆使して避妊を行ない、それでも身篭ってしまった場合は産まれる前に子を殺すことになる。
残酷ではあるが、ただでさえ王位継承には揉め事が付き物なのだ。それを少しでも複雑化させないための措置である。それをレオルド王子が知らないはずもない。だからこそ妾の一言に過剰に反応したのだ。
そう言えば昔、しきたりを知って妾になることを断念した女性が居たとか。王族にとっては当然のしきたりであるから、いとも簡単にそれを口にした王に不信感を抱き、まるで魔物だと口にしたと言う。
結局不敬罪となって牢獄に繋がれることになったと言う話は、確か今の王の三代ほど前だったか。
「ミサ様は出自が出自ですし、何より男爵家の御令嬢。とても側室には迎えられません。
ですがレオルド王子のご寵愛が深いのは誰の目にも明らか。
でしたら妾になって頂くのが最善でございますわ」
にこりと邪気なく微笑む。それにレオルド王子は「貴様は……!」と歯を軋らせた。
馬鹿な人。
せめて私を蔑ろにすることなく、分別を持ってミサ様に寵愛を傾けると言うのなら私はお飾りの王妃になって差し上げたのに。
ミサ様にも辺境伯の養女となって頂いて、親の功績を称える形で、例外的に側室に迎えることも提案して差し上げたのに。
それを全て台無しにして、その原因を私に求めると言うのだから呆れた人だ。
「さすがはアリア様、将来をきちんと見据えていらっしゃるわ」
「あぁ、将来この国を背負う王の妃として彼女以上の方は居ないだろうな」
周囲の言葉を聞きながらレオルドはぎりぎりと悔しそうな顔をする。分かっているのだ。
非情な一面を含めて相応しいと、皆がそう言っていることを。
元来馬鹿な人ではない。教育をしっかりと受けているのだから。それがなぜかミサ様と関わり始めてからこのようなことになってしまっているだけだ。
「……アリア・ミーナ・ヒルクライド。この私が必ず貴様の仕打ちに報いよう」
地を這うような囁きを残して、レオルド王子は教室を立ち去るのだった。