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ソング  作者: 奥野鷹弘
前編
12/30

12. 虐殺

 封筒をもとにたどり着いた、焦げた更地。そこで出会ったのは、元住人の70代のおばぁちゃんだった。二人は話を聴くべく、家に上がり込んだのだったが・・・

 おばぁちゃんは、目を泳がしながらも革新なる一声を解き放った。

 「・・・それは、牧原歩ちゃんのことかね...?」

 健と由美は予想以上の一声に息を飲み込んだ。その言葉を聴けたことに向上心を抱いた健は、なぜ話を持ち出したのか説明せずに切り込んでいく。

 「おばぁちゃん、大原あゆみの本名、牧原歩さんの事知ってるんですね?」

 「・・・あぁ、知っているとも。なぜ、あんたたちが調べてるか解んないが・・・もうアタシも死が近い。墓場まで持っていくつもりだったが、黙って置くのも逃げてると同じ。なんなら、答えて責められたほうが、神様、仏様が天罰をおろしやすいかもしれんなぁ。答えようじゃないかい、聴きたいことはなんだね?」

 由美が横で健の足を突き、行き過ぎだと合図を出されながらも、健は進めていった。

 「おばぁちゃん、あそこに牧原歩は住んでましたか?」

 おばぁちゃんは躊躇なく素直に答えていった。

 「あぁ、昔、住んでおった。だが、今は天にいるよ。」

 「・・・知ってます。」

 「そうかい。それじゃあ、話が早い。アタシはねぇ、歩ちゃんを殺したのも同然な人間なのさ。なんだい、そんな顔しなくたって良いじゃないかい。アタシには、勇逸の孫がいた。孫は立派で、東京とかで育ち社会に出て行った。息子と連絡取れなかったが、孫だけはいつも『ばぁちゃん。ばぁちゃん。』と電話を掛けてくれたよ。アタシの旦那はアタシに飽きれて、バブルのお金と女で逃げていったよ。それが息子にとってみれば、子不孝ものに感じたんだろうさ、いつの間にか嫁ができて、孫がいた。そんな写真だけを覗いて励んでいたアタシは、孫が会いに来てくれるとは思いも知らなかったよ。そんな孫は東京で芸能事務所のマネージャーとして働いており、新人のために精を出していると報告しに来た。それから数カ月経たずに、可愛い日本人形な女の子を連れてきて恋人だって言ってきたんだ。その女の子というのが、あんたがいう『大原あゆみ』=『牧原歩』なんだが。でも、それはまるで、縁のなかった息子の代わりに孫がしてくれてるように感じて、アタシは嬉しかったよ。そしてアタシが寂しくないようにと、孫の意向であのハイツで別々だけど、とりあえず住みだしたわ。」

 「いいお孫さんですね。」由美がポツリと同情する。

 「孫はさらに楽しみを作ってくれたわ。歩ちゃんを連れて来て、彼女の素敵な部分を挙げて売り出しに協力することが出来たり、この先の家族だと考えたらウキウキが止まらなかったわ。でも、そんなに続かなかったわ・・・。孫はいつの間にか痩せ細り、疲れ切っていた。アタシもテレビを噛り付いて応援しようと頑張って来たけど一向に、歩ちゃんに出演オファーが制作側から来なかったの。ある日、孫が遅れながらもフラフラのまま仕事に向かう時、列車の人身事故があった。踏切が下りてたというのに、若い女は列車の目の前に飛び込んできたんだよ。そんで大幅に列車の時間見直しという状況に追い込まれた孫は焦ったらしいわ。」

 「・・・え。」二人は顔をクシャッとさせながら、氷は暑さに溶けてカランと音を立てる。

 「今の時代みたいに連絡手段なんてそんなにない時代、公衆電話がまだ一般だったころよ。そして皆が考えることは同じ、連絡を取るために公衆電話に詰めかけたのね。当たり前の如く、あっという間に人だかりができて孫は使えなかったわ。仕方なく何とか会社まで向かってに着いた時、社長たちは連絡の来ない孫を無視して、これをいい機に歩ちゃんを違う売り出し方をするという方針を打ち出していたわ。孫は一度安堵したらしいけど、それは束の間。あとから嫌な胸騒ぎをした孫は、歩ちゃんのところ行ったところ、案の定泣いていて、話を聴けば身も毛も立つほど恐ろしい売り出し方を本人に告知した後だった。アタシも今でも腹立つけど、同じく同罪だわ。『大原あゆみ』という人間を、西洋人形のように華やかにするとという計画に便乗したようなものだもの。もっと早く、アタシがあの会社の本質を知っていれば、麻薬の密売にまでの協力を絶てたかも知れなのにね。会社は、そうと決まればと言わんばかりに過密なスケジュールを打ち出し、CD制作に打ち込まれたわよ。今考えたら、一か八かのクジだわね。本人は泣いていたかで本当はどんな風に考えてたって?アタシには今になっても判らないね。だって歩ちゃんは、涙をアタシにも一度だけ見せたけど、それは承知の上だと言わんばかりのスケジュールと拒むことなくこなしていったからね…。そして、整形手術もしたわよ。まだ時代的の未発達な整形手術を、次から次へと引き受けていき、なんとか理想の西洋人形を手に入れたのだからね。アタシはそれまでの間現実が受け止められなくて、入退院を繰り返して、歩ちゃんが初めて面会に来たと時、もはや歩ちゃんはという人間の面影はなっかったわ。傷口を必死に隠すための厚塗り化粧、華やかに見えるように西洋服。気持ち悪さも感じたて追い出してしまったわ。そんなアタシが一時遠ざかってたあの日、孫が自殺したわ。歩ちゃんの無残な姿とともに…。孫が釣り下がっている足元には、バラバラになった歩ちゃんがいたのよね…。なんでアタシが第一人者だったのか、今でもこびり付いて離れないわよっ。遺書を警察の人が見つけてくれたわ。そこには『強姦・整形・麻薬。。。スベテ、アノ組織。』とあって警察が動き出したととももに、秩序のないメディアたちもこぞって集まり精神をズタズタにされたわ。あぁ、事務所はどうなったかって?思惑通りにいった社長たちらしいけど、警察の話によるとそれらしき人物たちが無残な姿で発見されたらしいわ。まぁ関係あるかどうかわかりやしないけどね、当然の酬いだとアタシは思うね。それにしても歩ちゃんの頭部を見つけてあげたい…。アタシは何故生かされているか、長生きしてるか判らないけど、きっと死ぬことも許されないんだわ…。今更どうのこうのアタシが口にしたところで、探しに行ける訳じゃないのにね。歩ちゃん・・・本当に可哀そうなことしてしまったの……」

 二人は絶句した。いくらおおよその内容を知っていたとはいえ、そんな残酷な描写があったこと。たぶん、きっかけが自分の元彼女が影響で、その事件に大きく関わっていたこと。返す言葉どころか、すべて洗い流して逃げ出したいほどの衝撃だった。そんな二人の事は構わないというばかりに、火事についても語ってくれた。

 「・・・もういいわ、洗いざらい話して死にましょう・・・。」

 「・・・おばぁちゃん、そんな・・・」由美は苦痛を感じながら、おばぁちゃんをフォローしていた。

 「あのハイツが火事になる前、確かに不気味な声が漂っていたわ。でもそれは、103号室に住んでた3歳くらいの男の子よ。親があんまり献身的でなくてね、食事をまともに与えてなかったから夜にいつも唸っていたわよ。最初は気色悪くて耳を塞いでたんだけどね、アタシ初めて虐待現場見ちゃってから想像がぶわっとついたわよ。それにそこの奥さんの事も知っていたから尚更ね…、そこの奥さん202号室にいた男性と関係があるみたいでイチャイチャしているのを聴いたことがあるの。パート先の仕事でご対面して、初めて同じハイツの住居人と知ったんじゃないかしら。202号室の男性、引きこもりだと知っていたけどゴミを見たことがなくてね。そしたら、その奥さんがたまたま202号室に袋を持って入るのを遠くから見ちゃって。それだけじゃ確信はなかったんだけど、ゴミをよく見たら男物しかない袋があって、弁当ガラがあってね。それに木造住宅だから、耳を澄ましたら聴いちまってね…。まぁそれでかしらね、そこの男の子が火を見て、家にあったライターとかで火を付けたんじゃないかしらね。タバコがよくするご家族だったから。まぁそんな男の子うめき声がなくても、あの事件があるから噂がたっても不自然じゃないわよね。でもあの家焼けたから逃げられたような気もしてるわ、正直。でも救助隊に助けを呼んだアタシは、歩ちゃんに対して逆なでしちゃったかもしれないわね・・・」

 それから二人は何も言葉を発することもできず、黙り込んでしまった。おばぁちゃんのは重たい腰をあげて、窓のカーテンをサッと閉めた。カーテンが風鈴に触れて、チリンと妙な音を立てて部屋をなだめた。


 それからご飯をご馳走になった二人はお礼と帰ることをおばぁちゃんに告げ、家を後にした。二人はそのまま帰ることなく、更地にもう一度足を運び辺りを見渡した。この更地周りは住宅はなく一画だけ隔離されてるように感じた。もしかしたらおばちゃんは罪の意識から、ハイツが無くなってもさらに浮いてしまった更地を見て悔いていたのかもしれない。健は車のランプで照らされたところだけ歩き回った。由美は少し頭痛を訴えながらも、道路側の更地を一歩一歩踏みしめて歩いてまわった。歩けば歩くほど、時間がたっているはずの焦げた臭いが生々しく二人を包んでいった。

 そして大原あゆみと、自分の気持ちにとうとう耐え切れなくなった由美は、健カセットテープに聴こえた声を健に打ち明けてしまうと決め込んだ。


 健を信じてるからこそ、由美は胸の奥の苦しみを打ち明けることにした。

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