黄金の雷光、鉄の棺桶
中庭のアーチをくぐり抜けると、そこは巨大なエントランスホールだった。
天井は見えないほど高く、かつてはシャンデリアだったであろう巨大な鉄の塊が、いくつも床に落下して突き刺さっている。
空気は冷たく、乾燥している。
俺は立ち止まり、全身から滴る聖水の雫を払った。
まだ身体は湿っている。寒さが骨に染みるが、今はその冷たさが、獅子の牙から俺を隠してくれたことに感謝すべきだろう。
ホールの奥、大理石の大階段の上に、二つの影があった。
『城塞騎士』。
身長三メートル近い巨体。全身を分厚い板金鎧で隙間なく覆い、手には自身と同じ高さほどの「大盾」を構えている。
彼らは、背後にある扉——おそらく城の中枢へ続く道——を守るため、彫像のように静止していた。
俺は音もなく近づく。
だが、階段の中腹まで差し掛かった時、騎士たちが同時に動いた。
ガシャン!
二つの大盾が並べられ、通路を完全に塞ぐ「鉄の壁」が形成された。
視覚ではない。彼らは床の振動——俺の重さ——を感じ取ったのだ。
突破するしかない。
俺は駆け上がり、右側の騎士の盾に墓標剣を叩きつけた。
ガギィン!!
重い衝撃が手首に返ってくる。
ビクともしない。刃が通るどころか、表面の塗装が剥げた程度だ。
騎士が盾の隙間から、刺突用のランスを突き出してくる。
俺は身体をひねって避ける。
だが、左側にいたもう一人の騎士が、盾ごとシールドバッシュを仕掛けてきた。
ドォォン!
避けきれない。
俺は吹き飛ばされ、大理石の階段を転げ落ちた。
受け身を取り、立ち上がる。
左肩——装甲のない部分——がズキズキと痛む。
バックラーがあれば、突きを逸らすこともできただろう。だが今の俺には、剣一本しかない。
物理的な「硬さ」の前に、俺の武器は無力だ。
あの装甲をこじ開けるには、内側から破壊するしかない。
俺はポーチに手を伸ばした。
指先が、冷たいガラス瓶に触れる。
中庭の噴水で拾った『雷光の松脂』。
賭けだ。俺の装備も濡れている。下手をすれば俺自身が感電して死ぬ。
だが、このまま磨り潰されるよりはマシだ。
俺は瓶を墓標剣の柄頭で叩き割った。
中から溢れ出した金色の粉末を、刀身に擦り付ける。
バチッ、バチバチッ!!
空気が焦げる匂い。
剣が黄金色の光を纏い、激しいスパークを発し始める。
柄を握る掌に、ビリビリと痛みが走る。
熱い。だが、耐えられないほどではない。
騎士たちが、光に反応して警戒態勢をとる。
だが、盾は解かない。彼らは自身の硬度を過信している。
それが命取りだ。鉄は電気を通す。
俺は再び階段を駆け上がった。
騎士がランスを突き出す。
俺はそれを剣で弾く——のではなく、あえてランスの先端を剣で叩いた。
バヂヂヂッ!!
強烈な放電。
雷光がランスを伝い、一瞬で騎士の腕へと到達する。
「ガァッ……!?」
騎士の巨体が硬直する。鎧の中で筋肉が痙攣しているのだ。
今だ。
俺は懐に飛び込み、両手で剣を握りしめ、目の前の大盾を全力で叩いた。
ズドォォォン!!
衝撃と共に、溜め込まれていた雷撃が一気に炸裂する。
稲妻が盾の表面を走り、裏側で支えている騎士の全身を駆け巡る。
鎧の中身が蒸し焼きになる音。
騎士は悲鳴を上げることもできず、白煙を上げてその場に崩れ落ちた。
一人倒した。
もう一人が、相棒の異変に気づき、盾を捨てて襲いかかってくる。
ランスを振り回す乱暴な攻撃。
だが、盾のない重装騎士など、ただの的だ。
俺はランスの大振りを、身を低くして潜り抜ける。
そして、すれ違いざまに、まだ雷を帯びている剣で、奴の足首を斬りつけた。
バチッ!
装甲の隙間から雷撃が侵入する。
神経を焼かれた騎士が、膝から崩れ落ちる。
俺はその背後に回り、兜と鎧の隙間——首元に剣を突き刺した。
「消えろ」
電撃の余韻と共に、切っ先が延髄を破壊する。
巨体が地響きを立てて沈黙した。
剣の光が弱まり、やがて消えた。
松脂の効果時間は短い。
俺は焦げ臭い煙が漂う中、騎士たちが守っていた扉を見上げた。
装飾過多な観音開きの扉。
その隙間から、古びた紙とインクの匂いが漏れ出ている。
『王立大書庫』。
この国の歴史と、呪いの研究記録が眠る場所。
そしておそらく、物理的な刃や盾が通用しない「知恵」と「魔術」の迷宮。
俺は震える手——感電の痺れが残っている——で、重い扉を押し開けた。
中には、天井まで届く無数の本棚と、その間を飛び交う青白い燐光が見えた。
俺は覚悟を決め、静寂の指輪がもたらす無音の足取りで、知識の墓場へと足を踏み入れた。




