十三話 知らぬは小鳥ばかりなり
変な所で切ってしまったので繋がりが分からなくなってますが、アルベルトの最初のセリフはニコルの
「平和になったっぽいし、はっちゃけようぜ! Yeah☆!」
に対しての返答です。
今までは騎士になる為に訓練に打ち込んだり、再燃した戦争へと身を投じなければならなかったりと、フェリシアを想うよりも優先せねばならない事があった。
しかし数年前に停戦となりそれが無くなった今、空白になった部分が全てフェリシアで埋まってしまうのだ。
しかも顔を合わせられずにいた期間に随分と大人びた彼女に、妹として見ていた気持ちは完全に消えた。
代わりに湧き上がったのは愛しく思う気持ちで、それに伴って会う度に大きくなる触れてしまいたい衝動を抑えるべく、一緒に過ごす時間をここ暫くのあいだは最小限に留めてきたのだ。
全ては無事に婚約式を執り行う為に。
「……それは一月半後にとっておく」
アルベルトはまた本に目を戻した。
「頭固ぁい。そんなに我慢してきて逆に危ないと思うな。やっと婚約出来たってなって爆発したらどうするの? きっと引くぜ、婚約者」
アルベルトは視線こそニコルに向けなかったが身体はピクッと動いた。
「お前、婚約者の前では優しい紳士ぶっちゃってんでしょ? 一月半後に婚約したからって急にガバッといったら嫌われるよ、絶対」
「……お前じゃあるまいしそんな事しない」
「俺だってスマートにやるよ。でもさ、ガス抜きはしといた方が良いって、何も彼女でやらなくたっていいんだし。だからさ、女の子と遊びに行こう!」
「お前は少し懲りろ! トラブルを更に抱えて帰る気か!」
叱られたニコルは不平を漏らしてカップを口に運ぶ。
「あーあ、お前がこんなに怖い奴なんだって知らないんだろうな婚約者ちゃん。外見も中身も狼なんだって知ったらどうなっちゃうだろう。アルが女性の心の機微を感じ取れるわけないから、きっと知らない所で泣くんだろうねー」
「俺はフェリシアを泣かさない」
「どうだかね、今も泣いてるかもよ? 本当はこんな怖い顔の奴と結婚したくなくて」
随分小さくなったが心の底にまだあった不安を、ピンポイントで攻撃されてアルベルトは少し動揺した。
「……そんな事」
だからか、否定を口にしようとしたが、ふと昨日のフェリシアの不可思議な言動を思い出した。
「……ニコル。女性がその……急に不可思議な言動というか言葉を使う時は何を考えているものなのだろう」
「不可思議な言動?」
「いや、乱暴というか何かの遊びなのかフェリシアが普段使わない様な言葉を急に……それはそれで珍しくて面白可愛かったんだが」
それを聞いたニコルは、はぁーっと馬鹿にした様に溜め息を吐いてみせた。
「ほぉらね、分かってないじゃん、なぁんにも。良いかいアル君、女の子が訳分からない事言い出した時は大体機嫌が悪いか不満がある時だ。そういう時は相手が話し終えるまで頷き続けて、最後にギュッとしてチュッてすれば万事解決する。たまに火種になるけどね」
小馬鹿にした割には中身の無いアドバイスにアルベルトは聞いた事を後悔した。
「……そうか、参考になったよ、礼を言うからもう喋らないでくれ」
「お前が聞くから答えてあげたのになんだよその態度は!」
冷たくあしらわれたニコルが悪態を吐いて怒っていると、客間の扉が開いた。
「兄様こちら? アルベルト様どこか……あら、お二人ともこちらにいらしたのね」
「ああガーダ、おはよう」
部屋に入って来たのは、ガーダと呼ばれた艶やかな黒髪に青紫の瞳を持った十代後半と思しき整った顔立ちの少女だった。
「おはようございますアルベルト様。どちらにいらしたの? 探しましたのよ」
ガーダは言いながらニコルの隣に座る。
「訓練だよ、決まってるだろ? 俺達は騎士なんだからさ」
「兄様はなさってないのでしょ? 名ばかり騎士ですもの、知ってましてよ」
「可愛くない妹だよ本当。なんで俺の傷心旅行について来たんだ」
「私だってたまにはアルベルト様にお会いしたいですもの。それに……ちょっとこちらでやる事も」
毛先の方だけくるくるとした黒髪を揺らしてガーダは楽しそうに笑った。
「そういえば一人で出掛けているそうだな、こちらに友人でもいるのか?」
尋ねたアルベルトを十代にしては妖艶さのある目つきで一瞥してガーダは微笑んだ。
「友達……とまでは。都合の良い伝書鳩ってところかしら、ふふ」
楽しくて仕方がないといった風にクスクス笑う妹を横目にニコルは言った。
「ほらな、女の子はすぐに訳分からない事言う生き物だろ? だけどそういう訳分からない所を可愛がってやるもんなんだよ、女の子っていうのはさ」
さっきのニコルの理論からは外れ甚く上機嫌で訳の分からない事を言って笑っているガーダを見ながら、アルベルトはふわふわして掴み切れないフェリシアを思い浮かべた。
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