『御者』
御者の古傷……それは冒険者をしていた15年ほど前、不注意から魔獣の巣とも言える魔の森に迷い込んだ新米パーティーを逃すため、殿を務めていたときに負った傷だ。
Cランクの冒険者だった彼の腕でギリギリの相手だったが、逃げながらかわしているときに爪で引っ掛けられ、命からがら逃げ出してきた。
その後、町で治療を受けたが当時は町にポーションはなく、自然治癒に任せるしかなかった。
その時は順調に治っていると思っていたが、膝の関節の可動域が狭まってしまい、以前のように活動できなくなってしまった。
それで冒険者を引退してツテのあった乗り合い馬車の組合に就職したのだ。
「これは……?」
ポーションはスーッと身体に馴染んでいくようだった。
そして膝だけでなく残っていた傷痕などの部分が熱く感じてそれがおさまった時、すべてが完治していた。
御者は立ち上がり、その場で足を踏み締めてみる。
そして屈伸などをして、その変化をまじまじと感じた。
「……治ってる」
信じられないとばかりに立ち尽くす御者。
「うんうん、効き目とかは問題ないようね。
バイショーに着いたらギルドに持ち込んでみようかしら」
活動資金の目処が立ちそうである。
「この礼はどう返したらいいのだろうか」
真剣な顔をした御者に迫られて戸惑うオフェーリアだが、今回のこれは完全なモニターなので礼云々は関係ないのだが。
「ほんとうに今回はいいから。
お金を取るつもりも始めからなかったわけだし」
そしてこのモニターを持ちかけたのが他の泊まり客が部屋に引き上げてからでよかったと思う。
それほど今の御者の態度は大袈裟に見えた。




