『雨宿り』
この陽西大陸北部では初春に大雨が降ることがある。
これは雨季と呼ぶほどには長期ではないがかなりまとまった量が降るので有名である。
そしてこの雨が最後まで残った雪を溶かして流して、畑を耕すことができるようになる。
だが時にはこの雨が降りすぎることによって災害が発生することもある。
「おはよう。
なんかすごい雨が降っているけど、大丈夫なの?」
寝巻きから普段着に着替えたオフェーリアが下の食堂に降りて行くと、そこにいたのは御者と助手、そして護衛の冒険者を代表してかジニーがいた。
「おはようございます。
お早いですね。乗客の皆さんはまだお休みになってますよ」
あまり口数の多い方ではない助手が教えてくれた。
オフェーリア以外はこの状況になればどうなるのか、知っているのだろう。
「フェリアちゃん、今日の出発は見合わせになった。
この雨では足元が悪すぎるし、何よりも危険だ」
どうやらここではよくあることのようだ。
何よりも目の前の3名はまったく慌てていない。
「了解。
……そう言えばハズレの町で今回の運賃を支払う時、旅程が、特に日程が変更されることがあるとわざわざ書いてあったのはこのせい?」
「そう言うことだよ、フェリアちゃん。
それからこの雨は1日や2日で止むもんじゃない。
よしんば止んでも街道の状態しだいではしばらく足止めされるかもしれないんだ」
オフェーリアは遭遇したことはないが、中大陸でもそのような話を聞いたことがある。
酷い時は川にかかった橋が流されてしまうこともあったらしい。
「じゃあ今日はお部屋でゆっくりするわ」
この宿の部屋は少し狭い目だが、洗面台やトイレなどが付いていてプライバシーが保たれるようになっている。
別料金を払えば食事も部屋に持ってきてもらうこともできる、足止めされることを考慮したシステムになっていた。
「とりあえず、朝食をお願い。
それからあれば紅茶をいただけるかしら」
朝っぱらから水代わりにエールを飲むような冒険者に付き合うつもりはない。