『嵐の前の静けさ』
例の親子になるべく近づきたくなかったので、オフェーリアは助手君に代わってもらって御者台に座らせてもらった。
ようやく冬籠りが終わった春なのだが、日がささないと寒く感じる。
今日は一日曇りのようで、オフェーリアは防寒のローブを羽織っていた。
「まったく……突然飛び出していくからびっくりしたよ。
しかし、ことの次第は後から聞いたが、よく我慢してくれたな。ありがとう」
「それでなんだけど、あと8日くらい?
はっきり言って顔も見たくないので、このあたりでお別れしようかと思っているの。
……今回はなんとか我慢したけど、もうこれ以上自信ないので、次は手も足も出るかもなのよ」
「う〜ん、子供同士の喧嘩ではすまないと言うのだね?」
「殺すかもしれない」
昏い目をしてそう言うオフェーリア、洒落にならない。
それなりの時を生きていると、なんでもそつなくこなせるようになっている。
オフェーリアは今、御者とともに御者台にいて、馬の手綱を操っている。
4頭立ての馬車なので少し難しいが、慣れてくると順調に進むことができるようになった。
そして懸案の例の件だが、とりあえず今夜は一緒に宿屋に行くことが決まった。
「俺はフェリアちゃんみたいな魔法使いに初めて会ったよ」
【飛行】を使いこなして大空を飛び回る人間なんて初めて見た。と言って御者が笑った。
「そうね、ついカッとして本性を出しちゃった。
なので私が叩くと爆裂しちゃうって言うのも理解してくれるわよね?」
もう何度目かになるやり取りだ。
そしてあの親子のみがその深刻さに気づいていない。
「離脱するにしても返金は求めないから安心して?」
オフェーリアたちの旅が順調だったのはこの夜までだった。
「ものすごい雨音だけど、一体何?」