『心を落ち着けるために』
「【飛行】(フライ)か……」
馬車の屋根の上にいたワランが飛び去っていくオフェーリアの後ろ姿を見て呟いた。
「魔法使いなんだ」
ブランデルグが今更のようにそう言う。
「たぶん、相当な使い手だぞ。
何よりも魔力量が半端ないほど多い」
「そうなのか?」
「ああ、考えてもみろよ。
あのゲルというテントを維持するだけでどれほどの魔力を消費することか」
ワランは魔法についての知識が多少あるが、魔力すらもたないブランデルグには思いもよらないことだったようだ。
「中大陸の魔法使いってのは凄いんだな」
「まあ、ピンからキリまでいるだろうがな。
その中でもフェリアちゃんはとびっきりだな」
「貴種だとは思っていたが」
「自分で自分の身が守れないようではひとり旅なんぞしないだろう。
……もう何百年も交流がなかったようだが、今でもひと握りの魔法使いが残っているのは本物の魔法使いの血を引く連中だって事だ」
「……もう戻って来ないんだろうか」
「夜には戻ってくるんじゃないの?
憂さ晴らしに行っただけだろう」
その時タイミングよく?遠方の山岳地で爆音と共にキノコ雲が湧き上がった。
「ほらな、きっと美味そうな土産を持って帰ってくるさ」
「おお……そうだな」
ブランデルグはタジタジである。
この大陸の内陸部にはあちこちに魔の森と呼ばれる、強力な魔獣の棲む森がある。
オフェーリアが飛んで行ったのはそんな森のひとつで、主に獣型の魔獣やオークの上位種などが住んでいる。特にオークは大規模な集落を作っておりほとんど獣人たちと同じ暮らしをしているようだ。
今日、オフェーリアが行き当たったのはそんな集落のひとつ。
そして彼らは集落を襲ってきた暗黒魔獣“黒麒麟”と対峙している真っ最中だった。
「助太刀致す!!」
手も足も出ないほどの実力差に仲間が次々とやられていくオークたちにとって、空から舞い降りてきたオフェーリアは女神にも見えた事だろう。




