『トラブル、その4』
オフェーリアは唇を噛みしめた。
握り締めた拳が震えている。
怒りのあまり、思わず手が出そうになったが、そんなことになればマリーは肉塊と化すだろう。
ただならぬ気配を感じて、馬車に並走していたジニーが飛び乗ってきた。
一部始終を見ていたファントが、自然な仕草でフェリアを抱きすくめ、機転を聞かせた商人がマリー親子を馬車の後部まで下がらせた。
「フェリアちゃん、大丈夫……じゃないか。
目がイっちまってる」
「うん、なんとか堪えられた……
……ちょっと発散してくるから、今夜は野営よね?」
そんなふうに言っているが唇には血が滲み、掌には爪が突き刺さっている。
「ちょっと、待って」
止めるファントの手を振り払い、走り続ける馬車の乗降口からポンと外に飛び出していた。
「フェリアちゃん!」
「【飛行】」
ふわりと浮き上がったオフェーリアの身体が次の瞬間、勢いをつけて上昇していく。そしてそのまま姿が消えて行った。
「一体どういうことだ?」
ジニーがファントに事情を聞いている。
そしてこの度の原因となったマリーの手に、すっかり解けてしまって小さくなったドイリーが今でも握られていた。
同時に床に転がった糸は靴について入ってきていた土で汚れてしまっている。
「あんたら……」
「ヤバかったな。
おいチビ、今回のは殺されても文句は言えないぞ。
あんたも母親ならちゃんと監視してろ!」
この母親にはオフェーリアが女性であることから少しくらいなら面倒を見てもらえるとタカを括っていたようだ。その甘えとしか言えない認識がオフェーリアを激怒させることになった。